第10話 アレだなぁ
2人はまず―――無数にある通路や階段の中から、適当に目に入った通路の一つに向かった。
そして通路に入る直前―――
―――チッ……!
ステラフィアは入り口近くの壁を『長槍』で傷付け、目印を残した。
その後、通路の中を進んでいくと―――複数の分かれ道が現れる。
分かれ道の内の一つを、やはり適当に選び―――
―――チッ……!
先程と同じ様に壁に目印を残す。
そんなことを2回、3回、4回と、次々に繰り返していき―――
「むっ、ここは―――」
「行き止まり、だね」
通路の先にあったものは、ただの壁であった。
宝箱といった気の利いたものなど一切置いていない。
最初に転移されてきた部屋からここまでの正確な距離は測りかねるが、おそらく数百メートル、あるいはキロメートル単位に達していてもおかしくはなかった。
そんな道のりを経て辿り着いたのは何もない空間。
得られたものは徒労だけ。
並の『冒険者』であれば叫び出したくなるような状況で―――
「では、戻るか」
「そうだね」
2人は短い会話を終えると―――
―――ヒュバッッッ!!!
行き止まりの空間から、一瞬で姿を消した。
そして目印を付けた場所まで戻ると、また別の道へと進む。
そんな工程を繰り返し続け―――2人は結局、通路内の全ての道を辿ることになった。
優に30を超える分かれ道の先を全て見終えたリィド達は―――
―――タッ………!
最初の部屋へと戻って来た。
「あの道はハズレだったな」
「うん、それじゃあ―――次はあの階段に行ってみようか」
そうして、2人は再び別の道へと歩み始めた―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
これこそがリィドの語った『ごり押し』。
要するに全ての通路をひたすらに確認していく、ただの『虱潰し』である。
この凄まじく広大な『宮殿』の中をこんな方法で攻略しようなど、時間がいくらあっても足りるはずないだろう。
本来であれば―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2人が『宮殿』の攻略を始めてから、約20分程の時間が経過した。
「ふう……今回もハズレだったな。
やはりそう簡単に当たりを引ける程甘くはないか」
「でも、多分もう少しだよ!」
ステラフィアの背後のリィドが、拳を握りしめながら言った。
「もう大体半分ぐらいは確認が済んだんだから!」
そう―――最初の部屋から見えた数々の通路。
その半分の確認を、2人は20分足らずで終えていた。
全てはステラフィアの創り出した『長槍』―――《ライトニングスピア》によって超強化された『敏捷力』のおかげである。
その凄まじい『速さ』によって―――1キロメートル以上にも及ぶ距離を、あり得ない程の短時間で走破することが出来てしまうのだった。
他の『冒険者』が耳にすれば間違いなく正気を疑われてしまうであろう、余りにも馬鹿げた『反則技』であった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「「「キャキャキキキッッッ!!!」」」
当然の如く、道中では数多のモンスターが道を塞いできた。
『レベル65』―――『ポイズン・バット』。
毒の牙を持つ巨大コウモリの群れ。
『S級冒険者パーティ』であっても、この厄介なコウモリ達の強襲には否応なく足を止められ、進行が妨げられていたことだろう。
しかし―――
―――ヒュバッッッッ!!!
「「「キャギッ……!!??」」」
その半人半馬の女魔族は一切足を止めることはなく―――
通り過ぎ様に振るわれた『長槍』により、羽や身体を引き裂かれたコウモリ達は訳も分からぬままにボトボトと床へと落ちていった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『ハズレ』の道を選んだ先にあるのはただの行き止まりだけとは限らない。
むしろ、それはまだ運が良かった方であると言えよう。
「シャァアアァァアアァアアアッッッ!!!」
とある行き止まり部屋へと辿り着いた2人を待ち受けていたのは、余りにも巨大で長大な蛇。
『レベル85』―――『グラトニー・パイソン』であった。
『タイラント・サイクロプス』をも丸呑みに出来てしまうであろう大口を開き、その巨大蛇は2人へと襲い掛かる。
が―――
―――ザンッッッッ!!!!
巨大蛇の頭が、一瞬の内にその長躯から斬り離された。
『グラトニー・パイソン』に吞み込まれる直前、ステラフィアは目にも止まらぬ速さで直上へと跳び、その後『武器』を『長槍』から『大剣』へと持ち替え、巨大蛇の首へ一刀を放ったのだった。
1分とかからず巨大蛇を仕留めた2人は何事もなかったかのように部屋を引き返し、別の道を探った―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……!
この道は―――!」
「うん……間違いなく上に向かって進んでる!
多分『当たり』だよ、ステラ!」
ようやく―――と言っても、まだダンジョンの攻略を始めて30分と経ってはいないが―――正解の道を選んだという手応えを感じた2人は、共に笑みを浮かべた。
しかし、その直後―――
―――ブンッ……!
「ん?」
「あれっ!?」
2人の周囲の景色が、一瞬で変わった。
「ここは……どこだ……?
さっきまで進んでいた道とは明らかに場所が違うぞ……?」
「しまった……『転移罠』……!
あの通路の床の一部に『魔法式』が仕掛けられてて、それを踏んじゃったんだ……!」
それは『冒険者』の心を折るために仕掛けられた『ダンジョンギミック』。
恐らくは膨大な時間をかけて『当たり』を引いたのであろう『冒険者』達を、一瞬で何処とも分からぬ場所へ飛ばしてしまうという、余りにも悪辣な罠。
このような仕打ちを与えられ、正気を保てる『冒険者』など―――
―――タッ……!
「よし、大した時間もかけずに最初の部屋まで戻って来れたな。
印はつけてるし、さっさと『当たり』の通路に戻ろう」
「うーん、自分からこの攻略法提案しておいて何だけど、なんかこう、アレだなぁ……」
有り体に言ってクソゲーであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、2人がダンジョン攻略を開始して40分程が過ぎた頃―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――トッ……!
2人が辿り着いたのは、最初の部屋よりも数倍の広さを持つ円形の部屋。
今までに引いた『ハズレ』の部屋とは明らかに異質な―――さながら闘技場とでも形容できそうな空間であった。
「リィド、ここは―――」
ステラフィアが背に乗る少年に向けて何かの確認を取るかのように声をかけ―――
「うん―――『ダンジョン・コア』への『前室』。
『ガーディアン・ルーム』だ」
リィドがそれに答えるのと同時―――
―――ズゥンッ……!!
この空間が、揺れた。
「つまり、アレが―――」
「ここの最後の番人、だね」
2人は―――こちらへと近づいてくる、20メートルに達する巨体を共に見上げながら呟いた。




