第9話 ダンジョンアタック
「す、凄い……!
ねえ、ステラ!
その『長槍』ってもしかして―――『敏捷力』を!?」
大量の『デス・グラスホッパー』の残骸が散らばる中―――リィドは馬の背に乗ったまま、興奮した様子でステラフィアに声をかけた。
「ああ、そうだ。
全『ステータス』を強化する『大剣』――《ライジングブレード》に対して、この《ライトニングスピア》は他『ステータス』の強化幅は抑えられる代わりに『敏捷力』が超強化される。
具体的には他の『ステータス』は60倍程度の増加だが、『敏捷力』は約200倍だ」
「に……200倍……!」
リィドはその返答の凄まじさにゴクリと息を飲みながら戦慄をあらわにした。
ステラフィアの『ステータス』はオール『5』。
つまり『長槍』を生成した時の彼女の『敏捷力』の数値は『1000』。
『勇者パーティ』を除いてこの世界で最高の実力を持つことを示す『S級冒険者』の『ステータス』指標が『500』であるということを考えれば、今のステラフィアがどれほど規格外な『敏捷力』となっているのかが分かるだろう。
「っていうか……他『ステータス』の強化幅は抑えられるって言ったけど……
60倍でも十分凄まじい効果だよ……」
リィドは改めて『四天王』―――もとい、元『四天王』の驚異的な実力を思い知ったのであった。
そんな自身へ対する畏敬の念に「ふっ……」と満更でもない笑みを浮かべつつ―――ステラフィアもまたリィドへと声をかけた。
「ところでお前、よく振り落とされなかったな。
私ほどではないとはいえ、お前の『ステータス』もそれ程高い訳ではないんだろう?」
ちなみに先程の高速移動の直後、背に乗る少年のことを考慮せず本気で動いてしまったことに気付いたステラフィアは焦りと共に背後を振り返ったが―――何事もなかったかのように「凄い凄い!」と自身を褒めてくるリィドの姿に思わずホッと胸を撫で下ろしたのは内緒であった。
「あ、それは僕の持つ『スキル』の一つ、『絶対騎乗』のおかげ。
『従属化』が適用されたモンスターに騎乗している間はその移動による風圧、重力加速、慣性なんかの影響を受けないの。
だからステラがどれだけ滅茶苦茶な動きを披露しても僕には一切負担は掛からないのでご安心を!」
「………何と言うか、お前はお前でやはり元『勇者パーティ』なんだな……」
そんな上機嫌な様子の少年を横目に見つめながら―――ステラフィアはぽつりと呟いた。
「それにしても、確かに『ステラ』と呼んでいいとは言ったが……また随分と馴れ馴れしくなったものだな」
「え、あれ……もしかして、ダメだった……?」
リィドとしては渾名で呼ぶことを許可されたのなら多少フランクに接してもいいかと思ったのだが、敬語ぐらいは使った方が良かっただろうか……などと内心少しビクついてしまった。
「フン……まあいい」
そう返事をしながら顔を前へ向き直したステラフィアは―――
「……『せめて今だけは力を貸して欲しい』なんて言っておきながら、今後も慣れ合いを続けるつもりにしか見えんな」
そんなことをボソリと小さく呟き、「ん? なんか言った?」と反応したリィドに「別になんでもない」とそっけなく返すのだった。
「それより……これからどう動く?」
「え? うーん……そうだなぁ……」
リィドは顎に手を当てて思案した。
「どうして僕の『従属化』がステラに適用されたのかとか、気になることは色々あるけど……
ここでモタモタしてるとまたモンスターがやってくるかもだし……
諸々の疑問はとりあえず置いといて、ダンジョン攻略を早く始めた方がいいかもね」
「ふむ……確かにな」
と、互いに頷き合った2人は改めてこの部屋の周囲を見渡した。
ダンジョンを攻略するには地下迷宮であれば最深部、建物であれば最上部に必ず存在するそのダンジョンの核―――『ダンジョン・コア』が置かれた部屋へと到達しなければならない。
最初にこの部屋に転移されてきた時にも目に入ったが、この部屋の壁や床には他の場所へと続く通路や階段が無数に存在している。
おそらくはその内のどれかが『ダンジョン・コア』へと続く道なのだろうが―――果たしてどれを選ぶべきなのか。
通常の『冒険者パーティ』であれば【盗賊】や【忍者】のジョブを持つ斥候に通路の先を探らせたり、探知魔法を持つ【魔導師】の力を借りる所であるが―――当然、そんな選択肢など2人には取りようがない。
さて、どうするべきか―――と、考えていたリィドは、ある事に気付く。
「ねえステラ、さっき生成した『長槍』……今もそうやって持ち続けてるけど、身体に負担とかは?」
「ん? いや、別に何ともないぞ。
思えば、最近は魔法を唱えた後に動けるのはほんの僅かな時間しかなかったから、こうして『武器』をずっと構えていられるのも随分と久しぶりだな……」
そう言いながらステラフィアは『長槍』を器用にクルクルと片手で回していた。
そんな彼女の返答を聞き―――
「ねえステラ―――」
リィドはその『反則技』を口にする。
「ゴリ押しちゃわない?」
「……?
――――!」
一瞬疑問符を浮かべたステラフィアだったが―――すぐにその意図に気付いた。
「なるほど……それが一番手っ取り早いな」
「でしょ?」
ステラフィアは回していた『長槍』をパシッ! と両手で掴み取った。
その後、静かに4つ脚を曲げ―――改めて少年へと声をかける。
「では―――早速行くぞ、リィド」
「うん!
あ、今初めて名前呼んでくれたね!」
「っ……ええい、うるさい!
そんなのどうでもいいだろうが!」
頬を僅かに赤く染めながら声を荒げたステラフィアは「まったく……」と呟きながら落ち着きを取り戻す。
そして、その直後―――
「はッ!!!」
―――ボッッッッッッ!!!!
2人の姿が―――この空間から、消えた。




