第40話 真相の告白
言葉を浴びせられた瞬間、脳裏に過去が閃光のように走る。
――あの時、シドが言い包められたことにより、仲間が倒れ、俺だけが逃げ出した。ガラン部隊の中でシドと俺だけが生き残った……あの戦場の背後で響いた、笑い声。
それが今、目の前の男と、完全に、重なった――!
瞬間、俺は全てを悟った。
仲間を捨てる選択も、セレスティアを救う選択さえ、何もかも、この男の手のひらの上だった。
「……ふざ……けるな」
絶望が喉を締める。気づいた時にはすでに、遅過ぎた。
爆音が再び響く 。 罠が発動し、ユクスが胸を押さえながら、崩れ落ちていた 。血の泡が、彼の唇からゴポゴポと漏れ出ている 。 さらに足元の床が崩壊し、ユクスの身体が奈落へと傾ぐ。
「ユクス!」
俺は咄嗟にその腕を掴んだ。こうなるなら、はじめからこうしとけば良かった。
すべて! 裏目に出ちまったんだ……!
「……オマエの……選択は……間違って……いない……アルデリオ」
「……あ……」
あの選択をした時既に、覚悟を決めていたはずなのに、俺は咄嗟に言葉を紡ぐことができない。
「……約束を……忘れるな……」
忘れかかった記憶が、その言葉によって想起される。任務の始まりの、かつてのあの日、ユクスから受けた、あの忠告だ。
――(君は――金貨だけを信じて生きてきたんだろう?だが効率だけで切り捨てたものが、いつか牙を剥く日が来る)
――(君は、人間だよ。今はそれだけ、理解していれば良い)
ユクスと交わしたそれらの言葉たちが、俺の胸をえぐり取る。
間違っていない? 俺のせいじゃない? そんなはずがあるか。俺が、選んでしまったのだ。
そしてその残酷な選択さえ、もうじき無為に――終わる。
「残念だったなユクス! 半端に出来が良い傭兵はわけのわからん行動はしない……火中の栗を拾いながらもきちんと計算し、パターンに頼り切って選択する!」
ユクスが血を吹きながら、カイエルに向かって、微笑んだ。
「そうかな……エルウッド……一番、選択ってやつを……恐れているのは――君だろう?」
「ッ……!」
「私は、君を……すく……グッ――」
「ユーリぃ……貴様ァ!」
いい加減に腕がもう、限界を迎えそうだったその時。
パアン――!
眩い閃光と竹が弾けたかのような轟音――俺の右目に、強烈な激痛が走る。視界が赤黒く滲み、音が遠のく。
「――ああぁぁっっ――――!」
自分のものとは認めがたい情けない叫び。それにも勝る激痛で、掴んでいたユクスの手を――離してしまった。
けれど、奈落に消えていくユクスの瞳に、憎しみの色は宿っていなかった。
「なんでだよ……罵ってくれ! その方が……楽だ……!」
「……くそっ、セレスティアッ……!」
ぼやける視界の先、カイエルの腕に抱かれた彼女だけが見えた。
――救えるはずだった命も、守るはずだった心も、すべて敵の掌の上。その眼差しは……それでも俺を信じている様に見えた。
「もうやめてよ! もうワガママなんて言わないからっ……自由なんて望まないからっ!」
セレスティアが泣き叫び、声が反響する。
ふざ……けんな……失敗するなんて、想像もしてなかった。己の力を過信し過ぎた俺の現実が――そこに横たわっていた。
――ゴゴゴゴ……!
そんな時、地震が起きたのかと思うほど、聖堂が激しく揺れ、崩落が始まった。カイエルは俺を一瞥し、忌々しそうに舌打ちした。
「――――とどめを刺せずじまいだったか……完璧な計画は崩れてしまったな。まぁ、いい」
「この鳴動を感じるかね、アルデリオ。直に刻限計画は完成する」
「……何だと?!」
この揺れは地震とかじゃなく何かの実験の揺れってことか? そんなことを思案しているうちに、奴はセレスティアを抱え、闇へ溶け込む様に後退した。
「セレスティアッ!」
「アルデリオ! お前の過去も、今も、未来も――すべて俺が仕組んだ物語なんだよ!」
カイエルの声が、意識の底に突き刺さる。
――ズキッ、シュルルルルッ、ズキン。
さらに追い打ちをかける様に、左の頭蓋を割れんばかりの激痛が、蔓のように全体に広がり始める。こんな頭痛は経験したことがなかった。俺は右目を射られて失っただけのはずなのに、何なんだよ、コレは!
「アルデリオ、道中私の予想を上回ることもあったが、結局中途半端だったんだ! 貴様は。クク……しかし、最後まで抗ったその精神力だけは……評価してやる」
「……舐めんじゃねぇ……」
「いい加減しつこいぞ! これで、終幕だ、アルデリオ!」
俺はカイエルに蹴り飛ばされて無残にも転がり続ける。すでに右目と声は奪われ、唇を噛み切った。血と燻い煙の匂いが、口の中に広がる。
「いやぁぁ――――っ!」
彼女の声が次第に遠ざかるのを感じる。
――俺の人生は、全部、こいつに書かれた脚本だったんだ……あの声の正体も、あの悲劇を仕込んだのも、全部。
膝が崩れ落ち、世界が回転する。
握りしめていた剣も、役目を終えた玩具のように床へ転がって、主人を待つ様にただじっと俺を見つめている。
「だから、後悔するといったはずだ……何も見通せない者には全部の世界など、不要だろう?」
およそ自分が全てなのだと、豪語するかの様なカイエルの冷たい嘲り。
「半分になった世界で――生きていくがいい。残り半分は――我々が手にする」
勝ち誇り有頂天になったカイエルが捨て台詞を吐いた。
世界の半分――視界の半分。
未来のほとんど。希望の、全部。
こだまするのは、全てを奪った男の、冷酷な――嗤い。
「あの時と……同じ、かよ?!」
掠れた声で、必死に振り絞る。
「ずっと! 俺を……試して……楽しんでやがったんだな……!」
最後に漏れた言葉は、もはや皮肉にもならないだろう。崩れた残骸に響く嗤いの中、半分になった俺の視界には希望の光なんて映らない。
すべてを掌握し切った男の笑い声だけが――静まり返った伽藍堂な聖堂に、いつまでも響いていた。




