第4話【Side: 路地に残された少年】
アルデリオの背が角を曲がり、その足音が完全に消えたその瞬間。取り残された少年は、時を図っていたかのように――犬の頭を撫でる手をピタリと止めた。
そうして、一気に走り出す。足取りは軽やか、迷いがないようだった。少年がたどり着いた先は出口ではなく、訓練場を見下ろすことができる役所の上階、関係者以外立ち入り禁止のエリアだった。
突き当たりにある、黒塗りの扉。少年は呼吸を整えながらノックをした。静寂の後、優しげな声が。
「……入っていいですよ」
扉を開けると、そこは下の訓練場とは別世界の空気が漂っていた。高級そうな絨毯が足音を吸い込み、部屋の奥には白い装束を纏った男が一人、立っている。
首から荘厳な白銀のネックレスを提げている壮年の男が。ただ眼下に広がる訓練場の様子を、まるで拝むかのような真剣な眼差しで見つめている。
「対象、アルデリオ=シグマ。誘導に成功しました。……現在、特殊認可試験の会場へ向かっています」
男がゆっくりと振り返る。
「うん……確認しました。ご苦労様です。下がっていいですよ」
「はっ……はい!」
少年の声は震えていた。そのまま逃げるように一礼し、後退りしながら部屋を出ようとする。少年は閉まりかけた扉の隙間から、男が再び窓の外――アルデリオがこれから立つであろう試験場へ視線を戻すのが見えた。
外はすっかりと冷たい風が吹き荒んでいる、少年はそれに少しでも肌を触れさせたくなくて、風除けになる物陰に隠れて肩を小刻みに揺らすばかりだった。




