第3話 再起、始動
「オルビスのこの依頼、アルデリオさんなら経験者だから、何か知ってるんでしょ? お願い、助けて!」
俺の言葉に反応したガキが頭を下げて来た。俺はため息交じりに、先程破って持って来た掲示板の別紙を目に入れる。
――処分区画警備について、試験有り参加者募集中(特殊認可保証、未経験者可)
「試験有り、ね……」
警備員として潜り込み、犬の様子を見る。俺の算盤では、欠伸が出るくらい退屈で朝飯前の仕事のはずだ。
「……いいか、勘違いすんなよ? これはお前の犬を助けるためじゃない、あくまで俺のためだ」
「え? でもコレじゃなくて――」
「こっちの依頼の方が手っ取り早いんだよ、急がば回れってヤツさ。正面から犬を助けてくれなんて、門前払いされて当たり前だろ?」
俺はガキの反応を待ちはしなかった。橋下から市場へ続く坂道を登り始める。坂を登るにつれ、空気が変わるようで気に食わない。
腐った布切れと排水の臭いから、香辛料と焼き果実の匂いへ。眩しい陽光が差し込み、市民が悠々と通りを歩いていた。
ほどなく役所施設の前につくと、銅徽章の兵士が二人受付をしている。腕を組み、目だけが冷たく動いていた。
「特殊認可の申請をしたいんだが、ここであってるよな?」
俺は居丈高にならぬ様に話を切り出した。
「特殊認可の申請? 何者だ……?」
「アルデリオ=シグマ。それだけで、十分だろ?」
そしてすぐ、前段の感情を撤回する。
「ガラン部隊……」
俺は足を止めず、徽章を見せる素振りをするのでもなく言い放つ。
「――警備員が足りねぇんだろ?」
すると兵士の一人が恭しく、もう一人が渋々と門を開けた。
――ガァン。
重厚な扉を抜け、石造りの受付に辿り着く。窓口の兵士は、俺の顔を一瞥した瞬間に目を細めた。
「……特殊認可か、まさかアンタが来るとはな」
「俺はアンタを知らないね……無駄口はいい」
受け取った申請書を雑ながらも一瞬で署名する。ガキの視線が背中に突き刺さる。
コイツもどこまで着いてくるんだ……?
受付の奥、鉄格子の扉を抜けると、そこは殺風景な訓練場があった。高い天井まで吹き抜けとなった空間に、カビと鉄錆びたの匂いがないまぜになっている。白い石壁、中央には血だらけの木製の杭が一本でそびえ立っている。
「ここが、試験場……?」
ガキが拍子抜けしたような声で無邪気そうに呟いた。反対に犬は鳴りをひそめて尻尾を丸めている。
「つーか……いい加減にお前は帰りな、この先は足手まといなんだからな」
「え……」
――え、じゃねぇよ。
ま、ガキじゃこの雰囲気が読めないでも仕方ないわな。
「ここから先は俺一人で……良い。どうやら実力を示してやる必要があるようだ」
俺は木製の杭を睨みつけながら短く吐き捨て、役所の鉄柵越しにガキ達を残して歩き出した。




