第17話 因縁の再会
木の葉が揺れる森の闇、月光が樹間にかすかに差し込む。俺はセレスティアを抱え、最後の一人になったシドと対峙していた。
「あるでりおぉ……よろこんでくれたぁ?」
薄気味悪い声色に、背筋が僅かに凍えた。シドの外套が揺れ、月光に映るその姿は、子供のような言葉遣いを裏腹に、野獣のような獰猛さを秘めている。
「……何が?」
「おまえにちょっかいをかけてた、はいのはがねは……ころしておいたよぉ!」
頭の片隅に、ハイドンの頭蓋骨の記憶が蘇る。やはり、俺への当てつけだったか。
「これで、ガランぶたいもふくめてぜーんぶいないねぇ?」
「さぁ、そのむすめも、こっちにくれよぉ」
態と煽って楽しげに遊ぶ子供の声のようだが、節々に運命の残酷さが張りついている。ガラン部隊は壊滅、俺は生き残り、こいつは位階を手にした。
そうさ、俺とこいつは、同僚だった……!
「やっぱり、馬鹿だな。部隊の他の奴らが生きていたのならば、少なくともお前が選ばれることはなかっただろうよ」
短く返す。血と土にまみれた夜、無駄口は無用。今確かなことは任務を達成するために、シドという危険を排除することが必要。
もっとも、コイツがどういう思惑があるかは、気になるが。
「ひひひ、いきのこったのは俺たち二人だけだもんなぁ」
シドは間を取り、ゆっくり歩み寄る。暗闇に光る姿は森の怪物そのものだ。
「……相変わらず、気味の悪い奴だな」
「位階持ちになっても、性根までは変わらんか」
俺はセレスティアをおろして、短く吐き捨てる。肩の震えを落ち着けるように、後ろに逃がそうとした。
腐ってもオルビスの位階持ち、片手間で捌ける相手ではないからな。
「それは違うよ」とセレスティアが言う。
「シドはもう、セブンフロアじゃない」
セレスティアが俺の後ろに駆けながら、感情を溢した。
「……位階を捨てたぁ? それで反オルビス派に取り込まれて、セレスティアを追っかけている訳かよ」
「何やってんだ、お前? 訳分かんねーよ!」
「……ひひひ、オルビスよりもしんじつをえらんだだけだ」
「真実……だと?」
俺は咄嗟に頭を掻きむしり、スリット越しに睨みつけながら叫んだ。
「運が良かっただけで出世した野郎が!よりにもよって俺の前で粋がってんじゃねぇよ!」
言い終わった後もまだ、鼻息がおさまらなかった。
シドはゆっくりと近づき、刃をちらつかせる。直接切り込むのではなく、心理的圧力と動きの制限でじわじわと間合いを計っていた。
こいつは純粋な剣士じゃない。どちらかと言えば、トドメはむしろ拳で殴りたいスタイルだろう。灰の鋼の鎧が拳打で凹んでいたのも、こいつの仕業に違いない。
「シドは運がよかったからセブンフロアになれたんじゃないよ!」
セレスティアの声が震え、俺の外套を強く掴んだ。
「三年前、皆んなが死んじゃったのはシドが部隊を裏切ったから、なんだよ!」
「ひひひ」
シドの笑い声だけが、森の奥に響いているように感じた。
「……何……?」
間合いが、空間が――凍る。
裏切りって……? 胸をかきむしるような痛み。俺は……何を信じて、何に裏切られた?
火と血にまみれた夜、仲間たちの悲鳴、消えた存在と謎の声。それが、こいつが原因……だと?
「その証拠を消したいから、私を狙ってるんでしょ!」
「本当のことを知ったアルデリオが、怖いんだわ!」
後ろで叫ぶセレスティアの声もろくに整理ができない。仮面の奥で、頭がズキズキと痛み始めた。
「ひひ、ふせいかい。せいじょのせんりがんなんてのも……たいしたこと、ないねぇ」
「嘘!」
「ほんとうさぁ、ガランじだいのかこなんて、もうどうでもいいんだよぉ」
「おれがきょうみあるのは、し・ん・じ・つ・だけだ!」
森の闇に声が吸い込まれ、湿気や樹木のざらつき、刃が擦れる音、葉の擦れる音、すべてが三人の存在を絡ませる。裏切りや不遇、過去と現在が月光の下で交錯する――。
くそっ! 真実、真実うるせぇんだよ!俺だって……知れるもんなら、知りたいさ!
だからこそあの日から……後ろ髪をひかれて、こんなところまで来ちまったんだ。
俺を挟んだ二人の会話を尻目に、俺は封印していた記憶を解き放った。
忘れられない夜。土煙が舞う戦場、仲間たちの声が入り混じる。俺は剣を握り締め、必死に敵を薙ぎ払う。
任務は単純だったはずだ。敵陣を押さえて拠点を確保せよ。声に反応して振り返る間もなく、部隊は無慈悲な暴力に蹂躙される。
味方の悲鳴、金属音、爆炎の光。三年経った今も、忘れられぬあの匂いが鼻腔を突く。
――三年前、俺たちはガラン部隊にて、未だ評議会の征服していない紛争地帯で戦っていた。ガラン部隊とはオルビス評議会が召集した位階候補生で、期待を受けたトップクラスの直属部隊だった。
オルビスフューチャーアセンダントプログラム(略称OFAP)
大層気合の入った名前だろう? しかし、結果的に誰もいなくなったことから、禁句じみた名称となることになり、伽藍堂の部隊、ガラン部隊と蔑まれることになる。
◇◆◇ 三年前――『ガラン部隊にて』
お疲れ様です、作者のふーじ。です。
コレから長い中弛みの展開が始まっちゃいます、すみません!
いわゆるよくある回想の過去編に突入してしまい、その後もシドとの決着まで少し掛かるのでお付き合い頂ければ幸いです。
でも、ほとんど振り落とされちゃうんだろうなぁ。。
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中弛みが終わる頃、顔を出させていただきます。




