第11話 刻限計画
「……分からないね、ただ今までより人は出し抜けそうだ」
ユクスのその問いは俺を瞬間的に固まらせるには十分だった。
だから俺は精々嫌味に映るように口の端を吊り上げる。
「その通りだ」
するとユクスは俺の教師であるかのような笑い方をした。
「はっ!なら今の説教も、あのガキからの押し売りってわけかよ?」
確かに、未来が見えているならこの世界で一番の教師となれるだろうさ。
……詐欺師にもな!
「誰も彼もがはじめは疑ったものだ……しかし実際組織の発展に寄与し、今はオルビスの最重要人物に成り上がった」
「未来が視えるなら、戦う前から勝敗は決まっている。だから評議会は、この力を第一に考えている」
ユクスは大真面目に話を続ける。話に付き合うしか、ない。
「矛盾した話に聞こえるな」
「未来が視えるなんて――逆に言えば、もう全ては決まってるってことじゃねえのか?」
俺の問いに、ユクスは少しだけ目を伏せて、首を横に振った。
「もちろん、完璧じゃない。彼女の未来視は、人間が自己の生存と利益を最優先するという合理的な前提に基づいて無数の可能性を演算し、最も確からしい未来を引き寄せる。だからこそ、オルビスは市民に秩序を徹底させているのだよ。人間が機械のように合理的に動けば動くほど、未来視の精度は100%に近づくのだから」
「……望まぬ結果だけを変えられるなら、確かにあり得ないくらい殿上人には有利だろうがな」
「だがどんなジーニアスだろうが中身はただのガキだろ。能力や計画の壮大さに、器のほうが耐えられるはずがない」
俺は腕組みをしてふんぞり返った。ユクスに分かるギリギリの範囲で羨ましそうに虚空を見つめた。
「現在実験しているクロノコアはその理屈を逆手に取る装置でね」
「時空に歪みを発生させてトンネルを作り、入口と出口を瞬時に繋げるのだ。入口を現在、出口を未来に配置する」
良くわからないが、そんな領域は神の所業だろう。
「んなもん、本当に可能なのか?」
鼻で笑ったはずの声は、思ったより掠れていたので少しだけ狼狽する。未来と現在を繋ぐ――俺の知る常識じゃ到底考えられない。
「私とて、分からないさ……しかし、評議会は出来ると判断した。そして完成まで……止まることはないだろう」
「……時間の支配って言ってたよな。具体的には、何がしたいんだよ」
問いかけると、ユクスは俺をまっすぐに見据える。目の奥が妙に静かで、沈黙が皮膚をピリつかせて痛かった。
「――誰だって……変えたい過去がある。私とて……君だって、そうだろう?」
その瞬間――永遠に取り残された気がした。
「……!」
体の芯が熱くなり、言葉が出なかった。思い出すのは、燃えさかる火と消えた仲間たち。
瞼の奥で、あの夜の炎が揺れる。仲間の悲鳴、割れた盾、血の匂い。
あいつらを救えるってのか――?
「今、時間の流れが遅かったろう?つまりはそういう事なんだ」
コイツ――。いや、もうそれどころじゃ、ない。
「それが本当なら、鳥肌の止まらない……話だ」
乾きすぎて張り付いた喉をペリ、と剥がすように呟く。それはどんな感情なのか自分でも分からない。
「金だ位階だの飛び越えて神様になるのが、真の報酬って、訳かよ」
蝋燭の炎がまた一度揺れ、壁に長い影を落とす。時間の支配。それがオルビス評議会の刻限……計画、薄々勘付いていたとはいえ、こんな狂気的な組織だったとは、な。
「評議会はこう言う、時間とは神の秩序そのものだ、と。だから必死になって欲しているのだよ。秩序の完成には組織の未来を獲得するために、誰かの未来を捨てる必要がある」
「評議会は信じている。秩序の維持のためなら、世界の半分ぐらい……捨ててもいいとね」
淡々と語りながらも、ユクスの拳は静かに震えていた。この男もまた、何かを変えたがっているんだ……。
隔壁の外から、再び足音が響く。
俺は剣の柄に手をかけ、今話した狂人じみた願望にゆっくりと呼吸を整えることしか出来なかった。
お疲れ様です、作者のふーじ。です。
アルデリオとセレスティアの物語は、ここからさらに大きく動き始めます!
「刻限計画」の概要という退屈で長く感じるかのような説明回ではありましたが、初めのターニング・ポイントともなる回なのであとがきを書かせていただきました。
刻限計画でのSFの骨格はこだわりポイントなのですが、なかなかむつかしいですねぇ。
では……この先も見届けたい、少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマーク、☆評価をしていただけると、とても励みになります。
これからも節目の話ごとにあとがきに登場させていただきます。
最後までお付き合いいただけると幸いです。




