― 自信《じしん》ってどうやったらつくの? ―
その日、女の子と猫は深い森の中を歩いていた。
木々《きぎ》は高く伸び、葉っぱのすき間から金色の光がこぼれている。
鳥のさえずり。
風の音。
遠くで小川のせせらぎ。
「ここ、どこ?」
女の子は辺りを見回した。
「ヨーロッパっぽい森」
猫が適当に言った。
「っぽいって何」
「雰囲気です」
猫はしっぽを揺らしながら先へ進む。
落ち葉を踏むたび、かさり、かさりと音がした。
「今日は何の旅なの?」
「今日は自信探しだよ」
「自信って探すものなの?」
「なくしたみたいに言う人、多いからね」
「たしかに……」
女の子は少し苦笑した。
「私、自信ないし」
「そうだろうね」
「否定しないで」
猫は前方を見つめた。
「ほら」
木々が途切れる。
「わあ……!」
そこには大きなお城があった。
白い石造りの壁。
高い塔。
青い屋根。
絵本から飛び出してきたみたいだった。
「すごい!」
「本日の目的地です」
「テーマパークみたい」
「入場料は無料です」
「そこ本当に好きだね」
二人は大きな門をくぐった。
中は静かだった。
長い廊下。
赤いじゅうたん。
大きなシャンデリア。
少しだけひんやりしている。
「ここで何するの?」
猫はにやっと笑った。
「宝探し」
「宝?」
「うん」
「自信の宝」
女の子は首をかしげた。
「そんなのあるの?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
「雑だなあ」
すると。
廊下の先に、三つの扉が現れた。
一つ目には、
『できなかったこと』
二つ目には、
『できたこと』
三つ目には、
『まだやっていないこと』
と書かれていた。
「なんだこれ」
「人生っぽいね」
猫は感心したように言った。
「まずどれに入る?」
女の子は少し迷ってから、
「……できなかったこと」
と言った。
「なるほど」
扉を開ける。
中にはたくさんの光景が浮かんでいた。
テストで失敗した日。
うまく話せなかった日。
友達に声をかけられなかった日。
泣いてしまった日。
「うっ」
女の子は顔をしかめた。
「見たくない……」
「そう?」
猫は落ち着いていた。
「でもこれ、君が覚えてるってことだよね」
「え?」
「できなかったことって、案外よく覚えてる」
「……うん」
「人間は失敗を記憶しやすいからね」
猫は言った。
「だから、自信がない人ほど、この部屋に住みつきやすい」
「住みつきたくないよ……」
「じゃあ次」
二つ目の扉。
『できたこと』
中へ入る。
すると、あたたかな光が広がった。
そこには小さな景色がたくさんあった。
朝、自分で起きられた日。
転んだけど立ち上がった日。
ちゃんと学校へ行った日。
ありがとうと言えた日。
「え……」
女の子は目を丸くした。
「こんなのも?」
「もちろん」
猫は当然のように言う。
「これ全部、君ができたことだよ」
「でも、すごいことじゃないよ?」
「誰が決めたの?」
「え」
「すごいかどうかじゃない」
猫は女の子を見る。
「できたかどうかだよ」
女の子は黙った。
たしかに。
自分はずっと、大きい成功しか数えていなかった。
でも小さな“できた”は、ちゃんと存在していた。
「自信ってね」
猫が言う。
「突然どーんと手に入るものじゃない」
「うん」
「こういう小さな“できた”を集めた結果なんだ」
壁に、小さな宝箱がたくさん並んでいた。
「わあ」
「ひとつ開けてみて」
女の子が開けると、中には小さな光が入っていた。
「きれい」
「それが経験値」
「ゲームみたい」
「だろう?」
猫は少し得意げだった。
「起きられた」
「頑張った」
「挑戦した」
「そういうの全部がアイテムになる」
女の子は光を見つめた。
「じゃあ私」
「うん?」
「何も持ってないわけじゃなかったんだ」
「そういうこと」
最後の扉。
『まだやっていないこと』
開けると、真っ白な部屋だった。
「なにもない」
「未来だからね」
「未来」
「ここにはまだ何でも置ける」
猫は言った。
「挑戦するたびに、新しいアイテムが増える」
「失敗しても?」
「もちろん」
「失敗=終了じゃない」
猫は笑う。
「挑戦した時点で、もう経験値は入ってる」
「なるほど……!」
女の子は少し笑った。
「それなら失敗も少し怖くなくなるかも」
「そうそう」
猫はうなずいた。
「自信ってね」
「うん」
「失敗しない自分を信じることじゃない」
「……」
「失敗してもまたやれる自分を信じることなんだよ」
その瞬間。
部屋の中央に、大きな宝箱が現れた。
「出た!」
「開けてみ」
女の子はそっと開けた。
中には鏡が入っていた。
「……鏡?」
そこには自分の顔が映っていた。
「宝って」
猫はにっこりした。
「最初から君の中にあったんだよ」
女の子は少し驚いて、それから笑った。
「なんだ」
「私はちゃんと持ってたんだ」
「うん」
「まだ小さいけどね」
「それで十分」
ふわり。
風が吹く。
気づけばまた森だった。
夕日が木々を赤く染めている。
「ねえ、猫さん」
「なあに?」
「自信って」
女の子は前を向く。
「小さな“できた”を集めるゲームなんだね」
「その通り」
「じゃあ私」
一歩踏み出す。
「明日も経験値ためる」
猫は満足そうに目を細めた。
「いいね」
森の向こうには、まだ知らない道が続いていた。
でも女の子はもう少しだけ、前へ進めそうな気がしていた。
おしまい




