― 友達って必要なの? ―
目を開けると。
「わあ……!」
そこには、大きな迷路が広がっていた。
背の高い緑の植木が、ずっと先まで壁みたいに続いている。
「すごい……」
女の子は思わず見上げた。
「今日は迷子体験コースです」
となりで猫が胸を張る。
「楽しそうに言わないで」
「人生はだいたい迷子だからね」
「急に深い」
猫はしっぽを揺らした。
「さ、行こう」
ふたりは迷路の入口へ入った。
道は細くて、左右に枝分かれしている。
「ねえ、猫さん」
「なあに?」
「友達って必要なのかな」
猫は少しだけ歩みをゆるめた。
「どうしてそう思ったの?」
「だって」
女の子は足元を見ながら歩く。
「友達が多い子って、なんだか楽しそうに見えるから」
「なるほど」
「私はそんなに多くないし」
「うん」
「一人でいることも多いし」
「うん」
「それってダメなのかなって」
猫は少し笑った。
「じゃあ質問」
「うん」
「今、一人で歩いてる?」
「いや、猫さんいるじゃん」
「そうだった」
「忘れないで」
女の子は少し笑う。
「でも、一人でいることと孤独って、同じじゃないんだよ」
「違うの?」
「うん」
猫は迷路の分かれ道で立ち止まった。
「一人でいる時間って」
「うん」
「自分と話す時間でもある」
「自分と話す」
「考えたり」
「うん」
「休んだり」
「うん」
「自分を整えたり」
「……たしかに」
「だから、一人=悪いことじゃない」
女の子は少し安心した顔になる。
「じゃあ孤独って?」
猫は少しだけ空を見上げた。
「つながりを感じられないことかな」
「つながり」
「人に囲まれてても孤独な人はいる」
「え」
「逆に、一人でも孤独じゃない人もいる」
「どういうこと?」
「自分との関係がいいんだよ」
「自分との関係」
「一人でも、自分を責め続けてなければね」
女の子は少し黙った。
「孤独って」
猫は静かに言う。
「人数じゃなくて、心の置き場所に近い」
「心の置き場所……」
ふたりはまた歩き始めた。
道はくねくね曲がっている。
「でも友達っていたほうがいいよね?」
「いたら楽しいことは多いね」
「やっぱり」
「でも」
猫は前足を上げた。
「多ければいいわけでもない」
「そうなの?」
「近すぎると苦しいこともあるから」
「近すぎる?」
「なんでも共有しなきゃいけないとか」
「うん」
「ずっと一緒にいないと不安とか」
「うん」
「それは少し重いこともある」
「たしかに」
「逆に遠すぎると」
「うん」
「ただの知り合いになる」
女の子は少し笑った。
「じゃあ難しいね」
「かなりね」
猫はあっさり言った。
「人間関係って、距離感のゲームみたいなものだから」
「ゲーム」
「近づく」
「うん」
「少し離れる」
「うん」
「様子を見る」
「うん」
「また近づく」
「なんか難易度高い」
「上級者向けコンテンツです」
「人生ハードモードだなあ」
女の子はため息をついた。
すると。
「あ」
行き止まりだった。
「うそ」
「よくある」
猫は平然としている。
「戻ろう」
来た道を戻る。
「ほらね」
猫が言う。
「人間関係も似てる」
「え?」
「近づいてみたら、合わないこともある」
「うん」
「仲良くしようとしても、どうしても合わない人もいる」
「あるね」
「それは失敗じゃない」
「失敗じゃないの?」
「相性確認」
「便利な言い方」
女の子は笑った。
「全員と仲良くするのは無理だよ」
「やっぱり?」
「だって迷路の全部の道を同時に進めないでしょ?」
「たしかに」
「だから」
猫はやさしく言う。
「誰とどういう距離でいるか、自分で選んでいい」
「自分で」
「友達もそう」
「……」
「相手が自分を友達だと思ってくれて」
「うん」
「自分もそう思える」
「うん」
「それって結構すごく幸せなことなんだよ」
女の子は少しだけ目を丸くした。
「当たり前じゃないんだ」
「かなり奇跡寄り」
「そうなんだ」
「人間、みんな違うからね」
しばらく歩くと、開けた場所に出た。
中央には高い塔があった。
「登ってみよう」
階段を上がる。
そして頂上へ。
「わあ……!」
迷路全体が見えた。
曲がりくねった道。
行き止まり。
まっすぐ進める道。
いろんな道がある。
「きれい」
「上から見るとわかりやすいね」
猫が言う。
「うん」
「中にいると迷うけど」
「うん」
「少し離れると、全体が見える」
女の子はその言葉を胸にしまった。
「人間関係もそう?」
「そう」
「近づきすぎて苦しい時は」
「うん」
「少し距離を取ると見えることもある」
「なるほど」
風が吹いた。
木々がさらさら揺れる。
「ねえ、猫さん」
「なあに?」
「友達って、絶対必要じゃないのかもね」
「うん」
「でも、いたら嬉しい存在なんだね」
「そうそう」
猫はにっこりした。
「義務じゃなくて、ご縁みたいなもの」
「ご縁」
「無理して増やすものじゃない」
「うん」
「大事に育てるもの」
女の子は少し笑った。
「じゃあまず」
「うん」
「自分とも仲良くしてみる」
猫は満足そうに目を細めた。
「それ、かなり大事」
女の子は迷路を見下ろした。
全部の道を進む必要はない。
自分に合う道を選べばいい。
そう思うと、少しだけ心が軽くなった。




