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― 嫌いな人とどう付き合えばいい? ―


 春だった。

 見渡《みわた》すかぎり、 色とりどりの花が咲《さ》いている。

 赤、黄色、白、青。

 花畑《はなばたけ》の真ん中には丸い噴水《ふんすい》。

 きらきら水が跳ねている。

 その横を、小さな川がさらさら流れていた。

 空には鳥たちが飛んでいる。

「わあ……きれい」

 女の子は目を輝《かがや》かせた。

「今日は花の公園だね」

「花回《はなかい》です」

 猫が言った。

「ざっくりしてるなぁ」

 ふたりは花畑の小道《こみち》を歩く。

 しばらくして、 女の子がぽつりと言った。

「私ね」

「うん」

「嫌いな人がいる」

 猫は少しだけ耳を動かした。

「なるほど」

「なんか、一緒にいるだけで疲《つか》れるの」

「あるね」

「話すと嫌な気持ちになるし」

「うん」

「でも、嫌いって思う自分も嫌なんだ」

 女の子は少しうつむいた。

「みんなと仲良くできない私は、ダメなのかなって」

 猫は噴水《ふんすい》のふちに飛び乗《の》った。

「それはかなり人間らしい悩《なや》みだね」

「うれしくない」

「でも自然《しぜん》だよ」

 猫は花畑を見渡《みわた》した。

「ここ見て」

 女の子も周《まわ》りを見る。

 いろんな花が咲いている。

「チューリップ」

「バラ」

「たんぽぽ」

「ネモフィラ」

「うん」

「全部ちがうね」

「そうだね」

「じゃあ、この花たちって全部同じかな?」

「違《ちが》う」

「仲良しそう?」

 女の子は少し笑った。

「しゃべってないからわからない」

「たしかに」

 猫は真顔《まがお》だった。

「でも、同じじゃなくても一緒に存在《そんざい》してる」

「あ」

「全部が全部、仲良しである必要《ひつよう》はないんだよ」

 風が吹く。

 花がやさしく揺《ゆ》れる。

「人間も同じ」

 猫が続《つづ》ける。

「たくさん人がいれば」

「うん」

「どうしても相性《あいしょう》が合わない人はいる」

「やっぱりあるんだ」

「かなりある」

 猫は断言《だんげん》した。

「好き嫌《きら》いまで含《ふく》めて人間関係《にんげんかんけい》だからね」

「じゃあ、嫌いな人がいてもいいの?」

「もちろん」

 女の子は少し安心《あんしん》した顔になる。

「よかった」

「ただし」

 猫が前足《まえあし》を上げる。

「嫌いだから攻撃《こうげき》していい、にはならない」

「うん」

「そこは別問題《べつもんだい》」

「なるほど」

 ふたりは川沿《かわぞ》いを歩き始める。

 水がさらさら流れていた。

「分かり合えない人っている」

 猫が言う。

「悲しいけどね」

「うん」

「だから法律《ほうりつ》とかルールがあるんだ」

「え?」

「全部わかり合えるなら必要ないでしょう?」

 女の子は目を丸くした。

「たしかに」

「でも人は違う」

「考え方も違う」

「価値観《かちかん》も違う」

「育った環境《かんきょう》も違う」

「だから衝突《しょうとつ》する」

 女の子は静かに聞いていた。

「じゃあどうするの?」

 猫は少し笑う。

「無理《むり》に仲良くしなくていい」

「え?」

「用件《ようけん》だけ話す、とか」

「うん」

「適度《てきど》な距離《きょり》をとる、とか」

「それでいいの?」

「かなりいい」

 猫はうなずく。

「距離感《きょりかん》って大事だから」

「無理して仲良くしようとすると苦しい?」

「かなり苦しい」

 女の子は少し考えた。

「でも冷《つめ》たくないかな」

 猫は首《くび》をかしげる。

「距離を取ることと、失礼《しつれい》にすることは違うよ」

「あ」

「ここ重要《じゅうよう》」

 猫は真面目《まじめ》な顔になる。

「嫌いでも敬意《けいい》は持てる」

「敬意?」

「うん」

「自分とは違う存在として扱《あつか》うこと」

「違う存在」

「分かり合えないからこそね」

 女の子は川を見る。

 水面《すいめん》がきらきらしていた。

「全部理解《りかい》できなくても」

「うん」

「人間対人間として接《せっ》することはできる」

「たとえば?」

「挨拶《あいさつ》する」

「うん」

「必要な連絡《れんらく》はする」

「うん」

「傷つける言い方をしない」

「……うん」

「それだけでも十分立派《りっぱ》だよ」

 女の子は少し笑った。

「なんか楽になった」

「よかった」

「仲良くしなきゃって思いすぎてたかも」

「ありがちだね」

 猫は花畑を見る。

「花だって全部隣同士《となりどうし》でくっついてない」

「あ、ほんとだ」

 少しずつ距離がある。

 でも、それで景色《けしき》はちゃんと美しい。

「近づく花もあれば」

 猫が言う。

「少し離れて咲く花もある」

「うん」

「どっちも間違いじゃない」

 風が吹く。

 鳥が空を横切《よこぎ》った。

「覚《おぼ》えておいて」

 猫が振《ふ》り返《かえ》る。

「全員《ぜんいん》と仲良くするのは不可能《ふかのう》」

「うん」

「でも全員に礼儀《れいぎ》を持つことはできるかもしれない」

 女の子は静かにうなずいた。

「それならできそう」

「十分だと思うよ」

 女の子は空を見上げる。

 青空が広い。

「嫌いな人がいても」

「うん」

「私は悪い人じゃないんだね」

 猫はにっこり笑った。

「かなり普通《ふつう》の人間だよ」

 女の子は吹き出した。

「それ褒《ほ》めてる?」

「最大級《さいだいきゅう》にね」

 ふたりはまた歩き出した。

 花の香《かお》りに包《つつ》まれながら。

 近づく花も、 少し離れて咲く花もある世界《せかい》の中で。

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