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そして覇者になる ~織田信長の物語~  作者: ノーネアユミ
第四章 元亀争乱編

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6 延暦寺

 本願寺をまとめる宗主であった顕如(けんにょ)は諸国に(げき)を飛ばした。



「仏敵信長を打ち払え」


 本願寺の衆徒は一斉に信長軍に向け発砲する。

 三好軍も淀川の堤を崩し、信長を水攻めした。


 それでも信長はまだ冷静だった。軍勢に川を越えさせ本願寺勢とぶつかる。


「やつらは数が多いだけじゃ、かかれ!」



 しかし浅井・朝倉連合軍が三万の兵で坂本に着陣した知らせには、さすがの信長もあせった。


 信長が摂津を攻めている最中に、浅井・朝倉は宇佐山(うさやま)城を攻める。城は死守されたが織田家臣森可成は激闘の末戦死。

 敵軍は京都東部を掌握。


 ここに至って信長は撤退を決意した。敵に都を取られるわけにはいかない。

 天下を支配するためには虚実(きょじつ)両方必要なのだ。


 京を支配していると言う虚、ネームバリューはあまりにも大きい。

 敵の手から取り戻すため、しんがりを柴田権六と和田惟政にまかせ織田軍は近江を目指した。


 


 信長は近江坂本に到着したが、浅井長政は正面衝突をさける。

 正面からぶつかった姉川の戦いは、どちらにとっても被害がすさまじかった。


 浅井・朝倉連合軍は比叡山(ひえいざん)にこもる。

 山全体に籠城してゲリラ戦をしかければ、織田軍を疲弊させられるから。


 そして比叡山にこもることはただ山に潜伏することではなかった。

 比叡山には延暦寺(えんりゃくじ)がある。平安時代に最澄(さいちょう)が開いた寺、天台宗の総本山。




 平安時代末期、白河上皇が「賀茂川(かもがわ)の水・双六(すごろく)(さい)山法師(やまほうし)。これぞ我が心のままにならぬもの」とぼやいたが、その1つ山法師こそ比叡山の僧兵だ。


 時の権力者も僧兵の唱える神仏の罰は恐ろしかったらしい。


 浅井・朝倉が比叡山にこもれたのは延暦寺を味方に引き入れたから。

 争いに慣れた僧兵と頑丈な石垣を誇る寺が、一斉に信長の敵になった。




 信長は歯ぎしりをする。


(坊主どもめ、大人しく御仏に祈っておれば良いのに)


 信長は延暦寺の僧を呼び出した。



「このたびの戦に、信長に味方していただけるなら押収した山門領は元通りお返しいたす」


 今回の反乱は信長が寺社の荘園を大量に奪い反感を買ったことが原因だ。

 宗教勢力を押さえつけるためであったが、やりすぎたことは信長も分かっている。


(こちらに味方してくれるのであれば約束は守るぞ。ま、受け入れんだろうが)



「それでもどちらかだけをひいきすることが寺として受け入れられない場合、中立の立場を取って欲しい」


 信長の本音はこれだ。

 一度は浅井朝倉と手を組んだ延暦寺が信長に下るとは考えづらい。

 だから最初に無理な要求をして、次に受け入れ可能な案を妥協的に出す。


 この案を延暦寺が飲んでくれればそれで良かった。荘園は返さなくて済むし敵も増えない。



 そして最後に一言脅しておく。


「このどちらにも従わぬのならば、根本中堂(こんぽんちゅうどう)山王(さんのう)二十一社をことごとく焼き払うであろう」



 しかし信長の言葉は無視された。




 なぜ延暦寺は信長の申し出を拒否したのだろう?

 

 霊験とか神威とか仏罰とか目に見えない力を盾に、延暦寺は時の朝廷とも対立した。

 つまり延暦寺の僧にとっては権力者と対立することにも抵抗感が少ない。

 しかしそれだけでは理由にならなかった。


 なぜなら延暦寺は京に近いことから応仁の乱にも巻きこまれていた。

 この時点ではかなり荒廃していて、戦乱にのり出すメリットは特にないのだ。


 大名クラスの本願寺とは状況が違う。




 延暦寺は長い歴史の中、指導者の力がそがれていた。

 天台宗トップの座主には各派閥に命令を聞かせる権力がなかったらしい。

 大きく分けると東塔・西塔・横川に分かれた派閥だが、派閥の長にも統制力がなかったのではないか。

 三つの派閥は内部でさらに細かく分かれていたし。



 責任者が不在の集団は過激化しやすい。

 1人のリーダーが全体を見て方針を決めたのではなく、烏合の衆が雰囲気に流されながら決定したのであろう。


 本願寺はともかく、比叡山が信長に対抗して勝てる算段が見つからないので、ズルズル敵対してしまった説を唱えます。

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