第四章 新たな星系 (2)
チェスターは、いよいよ未知の星系に出発します。しかし、今回は、明らかに自星系の技術をはるかに上回ることが分かっていた。その対策としてまだ、試験段階のDMGを持っていくことにはしたが、その有効性は未知でであった。
第四章 新たな星系
(2)
チェスターは、新しく改装された第一軍事衛星ミランの第一層にある宙港で、星系評議会代表アヤコ・ヤマモト、軍事統括で父親のアルフレッド・アーサー他関係者とオフィーリア星系にある未知の跳躍点へ行く為の出港の為のセレモニーを行っていた。
第一軍事衛星ミランは、新型マルドーク級航宙戦艦及び新型エンリル級航宙巡航戦艦が入港できるように改装されている。
「アーサー提督、今回の遠征、必ず成功させて下さい。宜しく頼みます」
チェスターの手を両手で挟む様に握りながら、ヤマモト代表は言った。
「ヤマモト代表。最善を尽くします」
チェスターは、口では言いながら、今回の広域探査の目的が、ヤマモト代表のユニオンにおける自身の立場の強化が一遍にあると思うと心穏やかではなかった。
「チェスター、十分に気を付けてくれ。相手は、まだ何者かも分からない。友好的な種族であれば良いが、好戦的な種族で有れば、要らぬ被害を出さぬように無理な交戦は避けてくれ」
父であり軍事統括のアルフレッド・アーサーの言葉に
「はい、オフィーリア星系の訪問した時のこともあります。十分に注意をします」
そうは、言いながら、相手の技術力が明らかに自分達より優れていると思うと気安くなかった。
やがて、一時間に及ぶ出港セレモニーも終わるとアーサーは、第一艦隊旗艦シュバイツアーに向かった。
「第一軍事衛星中央宙港センター、こちら広域探査派遣艦隊総司令官、チェスター・アーサー。第一艦隊の出港を申請する」
少しのタイムラグの後、
「こちら第一軍事衛星中央宙港センター。第一艦隊の出港を許可する。各艦は、各層宙港センターの指示に従い出港せよ」
やがて、第一軍事衛星ミランの各層から第一艦隊の各艦が出港し始めた。
アーサーの乗艦する新型マルドーク級航宙戦艦シュバイツアーの宙港側ドームが、クローズした。
「ドームクローズ。エアーロック解除確認。第一艦隊旗艦シュバイツアー出港します」
航路管制官の言葉と同時に宇宙側のドームが両脇に開くとゆっくりと動き始めた。今まで真っ白だったスコープビジョンが、アンドリュー星系を中心とした映像に切り替わった。
シュバイツアーは、誘導ビームに従い、指定航路まで出ると第一艦隊の集合場所に移動する。前後にあるスラスタを軽く吹かしながら定位置に着いた。
やがて、各艦が、旗艦シュバイツアーを中心とする標準航宙隊形の自艦の定位置に着くとチェスターは、コムを口元に置き、
「第一艦隊、全艦に告ぐ。総司令官チェスター・アーサーだ。我が艦隊がこれから向かう所は、どの様な星系か、どの様な生命体が存在するか全く分からない。しかし、それは今まで見たことのない新たな世界を知ることでもある。その機会を我が艦隊が得られたことを誇りに思う」
一度言葉を切ると
「今回の目的は、我アンドリュー星系の発展の為、この未知の生命体と友好的な交易を結び、我々に持ちえない技術を得ることである。今回の広域探査の成功の可否は、我が艦隊全員が日頃の訓練の成果を十分に発揮することである。以上」
艦隊へのメッセージが終了するとアーサーは、艦長ヘンドル大佐の顔を見て
「第一艦隊全艦発進する」
と告げた。
スコープビジョンに映る艦隊の先頭いる哨戒艦群が、グリーンマークからブルーマークに遷移した。そして徐々に後方の艦がも同じように映し出される。
新型マルドーク級航宙戦艦二〇隻、シャルンホルスト級航宙戦艦二〇隻、新型エンリル級航宙巡航戦艦二〇隻、テルマー級航宙巡航戦艦二〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻、ビーンズ級哨戒艦一九二隻、ライト級高速補給艦二四隻、エリザベート級航宙母艦三二隻とDMGの試作機三機に予備機を二機、その機材に対するスペアパーツ、コントロール機材と技術者二〇〇名を乗せた工作艦一〇隻と輸送艦一〇隻の六六八隻が、オフィーリア星系にある未知の跳躍点へと向かった。WGC3051、03/01のことである。
星系内は、軍艦艇の他にも輸送艦や、連絡艦などの民間艦艇も多くが行き来する。各艦艇は、自分の向かう目的地への航路が決まっており、それに従い、航路監視衛星の情報を得ながら進む。
第一艦隊も航路監視衛星の指示に従い〇.〇一光速でゆっくりと進んだ。
「第一艦隊の発進を確認しました」
第一軍事衛星ミランから遠く離れた首都星オリオンの第二衛星マティスの近くにいる資源輸送艦から一通の電文が、発進された。しかし、星系内では既成の事実を語っているだけのこのメッセージを気にかけるものはいなかった。
第一艦隊は、惑星公転軌道水準面から左舷上方向、アンドリュー星系を取り巻くカイパーベルトから二光時にあるオフィーリア星系方面跳躍点まで後、一光時と迫っていた。
スコープビジョンは、既に第一艦隊を中心とした映像に切り替わっている。チェスターは、星系内を進宙中に受けた第二、第三、第四艦隊からの連絡で、ペルリオン星系方面跳躍点航路に出没する宙賊が、減っている事が、何か心に残っていた。
“ベルハルト・ローエングリンか。どの様な男なのか。宙賊と彼の特殊戦闘員。どれだけの関わりを持つのか”。宙賊の出没回数の減少が何か気になった。
「総司令官、先行する哨戒艦からの報告です」
タフト艦長の言葉に“なんだ”と言う顔をすると
「オフィーリア跳躍点付近にいた艦艇数隻が、跳躍点内に侵入したとのことです」
「民間輸送艦ではないのか」
「はっ、戦闘システムが、攻撃能力を持つ艦であることを示唆しています」
眉間に一瞬皺を寄せると
「どのクラスだ」
「航宙駆逐艦クラスですが、荷電粒子砲とミサイル発射管を装備しています」
「航宙駆逐艦で荷電粒子砲」
アーサーは、リギル星系から技術提携を受けているヘーメラー級航宙駆逐艦の装備“レールキャノン八門、パルスレーザ砲八門及び近距離ミサイルランチャ一二門”を考えると我が同盟星系の艦ではないことを悟った。
「映像出せるか」
「はっ」
タフト艦長は、アーサーからの命令に総司令官シートの前にあるパネルスクリーンに映像を送ると
「これは、オフィーリア星系航宙軍の艦ではないか」
“どういうことだ。我々の行動は、既に彼の星系に伝えてある。わざわざ、それを確認する為に来ていたのではあるまい”そう思うと主席参謀ヘンドル大佐、副参謀ハーランド中佐、クーリッジ中佐に声を掛けた。
「どう思う」
ヘンドルは、少しの間の後、
「我艦隊の発進を見届けるならば、第一軍事衛星からの発進を持って連絡すれば良いことです。わざわざ、跳躍点まで見に来なくても」
それを聞いたハーランド中佐が
「ミランからの発進だけでは、目的地が分かりません。オフィーリア星系方面跳躍点に向かっているのだとはっきり知る為には、ここで見張っている方がはっきりとできますが」
「ならば、跳躍点に逃げ込むことも有るまい」
「星系に連絡のない艦がいることは違法になります。それを考えての事ではないでしょうか」
二人の会話にクーリッジ中佐が
「必ずしもオフィーリア星系航宙軍の艦という訳でもあるまい。彼の星系と技術供与を結んでいる他の星系と言うこともある」
「しかし、入ったのはオフィーリア星系跳躍点だぞ」
ハーランドの返答にクーリッジは
「未知の跳躍点に逃げたのかもしれない」
「それでは、オフィーリア星系航宙軍と未知の星系の航宙軍は、手を結んでいるというのか。ならば、我々にこの星系に行ってほしいという依頼はしないだろう」
三人の会話にアーサーは、
「いずれ、理由は分かるだろう。我々が、未知の星系のある跳躍点に入れば」
総司令官からの言葉に三人の参謀の会話が終わった。
その後は、何もなく進宙した。跳躍点の近くにある監視衛星からも何も連絡は入らなかった。
「総司令官、跳躍点突入まで、後一分です」
一分後、六六八隻の全艦艇がオフィーリア星系方面跳躍点の中に消えた。
第一艦隊が、オフィーリア星系にあるアンドリュー星系方面跳躍点から抜け出るとオフィーリア星系惑星公転軌道水準面の下方四時方向にある未知の星系のある跳躍点に向かった。スコープビジョンには、オフィーリア星系とマリアルーテ星系方面跳躍点そしてX1JPと示された未知の星系への跳躍点が映し出されていた。
「タフト艦長すぐに。跳躍点の状況を調べる準備をしてくれ」
「はっ」
アーサーの指示にウィリアム・タフトは、自分の目の前にあるスクリーンパネルにすぐに指示を打ち込んだ。
第一艦隊はカイパーベルトの中に有るオフィーリア星系には入らずそのままX1JPへと向かった。すでにオフィーリア星系評議会には、監視衛星を通して、到着と調査に向かうことを連絡してある。
X1JP手前一〇光分まで近づくと技術者の乗る特別輸送艦が前方に出て来た。艦隊は姿勢制御スラスタを吹かせながら跳躍点に近付かないように一定の距離を保っている。
「総司令官、計測結果が出ました。ヘビーアンセントレーション(方向不定状況)です。跳躍距離およそ六〇〇光年」
「なにっ」
アーサーは、前方に揺らめくオレンジやブルーの光がゆるりと底なしの暗闇に吸い込まれていく跳躍点を見た。
跳躍点のセントレーション(航行安定性)は、跳躍点を構成する重重力磁場とその長径、短径、バーストノード、X線ノード、揺らぎを一定の距離を保ちながら、反時計方向に周りを測定するのだ。この結果にアーサーは、コムを口元にすると
「全艦に告げる。未知の星系への跳躍点は、ヘビーアンセントレーションだ。隊形標準戦闘隊形とし、突入する。跳躍点から出次第、前方防御シールド最大、全攻撃管制システムオンとする」
アーサーの指示に今まで調査に当たっていた特別輸送艦が後方の所定の位置に戻ると第一艦隊は標準戦闘隊形に変えた。跳躍点に突入する為、艦隊の横の広がりを狭くしている。
隊形の変更が終わるのを待って、アーサーはタフト艦長に視線を送ると、艦長は口元にあるコムに向かって
「航路管制、進行方向だけでなく、左右の注意も厳重にしろ」
「航法管制、前方レーダー走査能力を最大にして方向確認を厳重にしろ」
「レーダー管制、全方位、走査能力最大」
「全艦跳躍点に向かって前進」
今まで制御スラスタで定位置を保持していた艦隊が未知の跳躍点に向かって前進を始めた。
「全艦、跳躍点まで後、五分。シートホールドを最大」
第一艦隊の全員が、自分達のシートに座ると手元にあるホールドモードを最大にした。DMGの実地試験の為、特設艦に乗艦した技術者たちが、初めて経験するヘビーアンセントレーションに顔を硬直させているのが分かった。
「跳躍点まで後十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一」
スコープビジョンが、綺麗は宇宙の映像から灰色の映像に変わった。
「全管制官、状況を報告」
「航路管制問題ありません」
「航法管制問題ありません」
「レーダー管制問題ありません」
「攻撃管制異常ありません」
次々と送られてくる状況報告に取りあえず問題ない事が分かるとタフトは
「アーサー司令官。ヘビーアンセントレーションですが、跳躍に問題ないようです」
“分かった”という顔を返すとスコープビジョンを見つめた。いつもよりスコープビジョンに映る光の量が多いような気がした。
跳躍点に入るともう出るまで何もすることはない。アーサーは、タフト艦長に
「タフト艦長、私は少し休んでくる。跳躍中は何もないからな」
と言うと最大にしてあったシートホールドを解除して立ち上がった。それを見たタフトは、口元にあるコムに向かって
「各管制官は、通常監視体制に移行。交代で休憩するように」
と指示を出した。実際、艦隊は、重重力磁場の空間を航路に従い進宙するだけだ。約六日の行程になる。
予想外にオフィーリア星系跳躍点に現れた艦隊。しかしその艦型は、オフィーリア星系の航宙駆逐艦と形状が似ていた。
そして、オフィーリア星系から未知の生命体が住む跳躍点に突入しようとしていた時、その跳躍点は、ヘビーアンセントレーションであった。
いよいよ次回は、未知の生命体が住む星系に突入します。
お楽しみに。




