第四章 新たな星系 (3)
チェスター・アーサー率いるアンドリュー星系航宙軍第一艦隊は、オフィーリア星系を経由して未知の星系に突入した。
今まで見たこともない星系に全員が驚くが。
第四章 新たな星系
(3)
跳躍点が突然揺らいだ。前方と左右側弦に直径三〇メートル、最大七光時の走査範囲を持つレーダーを備えたビーンズ級哨戒艦だ。レーダーを妨害しないようにレーダーの隙間から自艦防御のレールキャノンが覗いている。最初の一隻が姿を現すと次々に何隻もの哨戒艦が現れた。そして一九二隻のビーンズ級哨戒艦が現れると続いてヘーメラー級航宙駆逐艦が現れた。全艦前面シールドを最大にしている。そしてこれに続くようにハインリヒ級航宙軽巡航艦が現れた。次々と現れた艦の最後に一際大きい新型マルドーク級航宙戦艦、シャルンホルスト級航宙戦艦が、特設工作艦と輸送艦を守るように姿を現した。
オフィーリア星系を経由して跳躍して来たチェスター・アーサー率いるアンドリュー星系航宙軍第一艦隊だ。
「攻撃管制システムオン」
「前方シールド最大」
「レーダー管制、星系の状況を知らせろ」
次々と指示を出すタフト艦長の声を聞きながらアーサーは、スコープビジョンに映る未知の星系の映像に言葉が出ないでいた。
三つの巨大なオレンジ色に輝く恒星に取り巻かれ、色々な色に輝くいくつもの惑星がその中心部に有った。
「信じられない」
一つの恒星を中心としてその周りにいくつかの惑星が公転している星系が常識であったアーサーにとって初めての映像だった。
「ここに生命体がいると言うのか」
眩しいばかりの三つの巨大な恒星に囲まれた、惑星と呼んでいいのか分からない星が点在していた。司令フロアの全員が息を呑んでスコープビジョンに映し出されて星系に姿を見ている。
「総司令官、星系の分析出ました。典型的な多重分散星系です。各恒星年齢七〇億年。三つの恒星の中心に位置する星は八つ。直径五〇〇〇万キロから一二万キロです。右前方八光時の位置にX1JP、左前方一〇光時の位置にX2JPがあります」
タフト艦長からの報告に
「人工物の存在は」
「はっ」
と言うとタフトは、前を向いてスクリーンパネルをタッチした。少しするとスコープビジョンの中央下側に点在している星々の拡大映像が現れた。
「総司令官、中央の八つの星の周りに数えきれいない程の監視衛星があります。そして更に、その間を縫うように攻撃衛星が点在します。八つの星を守護するような体制になっています。またこの星たちの間を何隻もの艦艇が往来しています」
タフトの言葉にアーサーは、言葉を呑んだ。ヘンドル主席参謀が、
「全周波数帯域で呼びかけましょう」
「主席参謀、それでは我々の存在を知られてしまいます。我々がここにいることを気づかれる前に、対応策を立てないと、対応が後手に回ります」
「対策と言っても相手の出方が分からないと立て様がないではないか。それに我々は、戦闘隊形を取っている。友好的には見られないだろう」
「しかし、このままでは何も解決できません」
参謀達が、対応策を話し合っている時だった。突然管制フロアにブザーが鳴った。
「どうした」
アーサーの言葉にタフト艦長が
「総司令官、敵です」
「敵、どこだ」
「そこです」
レーダー管制官が管制フロアから司令フロアを見上げながらスコープビジョンを指さしていた。見るとすぐ目の前に航宙駆逐艦レベルの大きさの艦、二〇隻が映し出されていた。だが、アンドリュー星系の航宙駆逐艦とは似ても似つかない形状だ。
ヘーメラー級航宙駆逐艦は、全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルとほぼ棒状の形体を持ち、艦本体前方にレールキャノンが八門、艦本体両脇上部にパルスレーザ砲六門が装備されている。パルスレーザ砲の下部には両舷側に少しはみ出た筒状の近距離ミサイルランチャーが六門ずつ十二門装備されている。そして後部両脇に核融合エンジンが四基ずつある。
だが、今目の前にいる艦は、全長二五〇メートル、全幅九〇メートル、全高六〇メートルの形状を持ちやや平らな本体に、艦前部に口径八メートルの荷電粒子砲を四門、艦両舷に長さ二〇メートルの腕を伸ばし、中距離ミサイル発射管一〇門ずつを備え、またアンチミサイル発射管一二門を後部に備えている。装備もヘーメラー級より強力だ。推進装置は前方から見ている為、分からない。
「全艦、戦闘態勢。打つな」
アーサーの言葉に、全員が振り向いた。
「攻撃しようと思えば、我々はもう、攻撃を受けている」
アーサーは、“じっ”と突然目の前に現れた艦艇を見ていた。総艦艇数六六八隻の大艦隊だ。いくら攻撃能力があるとはいえ、航宙駆逐艦レベル二〇隻が相手にするとは思えなかった。
どちらも動かなかった。目の前に現れた艦隊も何もしない。アーサー率いる第一艦隊もただその場にいた。一〇分程経った時だった、
「総司令官。通信です」
「なに」
「あの艦隊から通信が入っています。スクリーンに映します」
アーサーはタフト艦長から送られてきた自分の司令デスクの上にあるスクリーンに映る電文に目を疑った。
「タフト艦長、これは本物か」
「はっ、通信管制官が三重に確認しました。間違いありません」
アーサーは電文の内容を見るとそれを参謀達にも送った。
ヘンドル主席参謀、ハーランド、クーリッジの両副参謀も言葉が出なかった。
「信じられない」
「タフト艦長、返信を送ってくれ」
アーサーの言葉に
「はっ」
と言うとあえて送信分は、聞かなかった。
「そうですか。あの方が到着しましたか」
マリアルーテ星系第一皇女アデール・フォルテ・マリアルーテは、自室でアーサー達一行が、到着したことをマリアルーテ星系航宙軍中将ゲント・トーレスより聞いていた。
「はっ、今、我が軍の先遣隊が、迎えに行っております」
「分かりました。くれぐれも粗相のないように」
そう言って、アデールは、大分目立つようになったお腹を左手で優しく触った。
「ははあ」
頭を下げながら下るトーレス中将を見ながら、壁に映し出されているアンドリュー星系航宙軍第一艦隊の姿を見ていた。
「どういうことですか。これは」
「ここがマリアルーテ星系と言うのは」
「オフィーリア星系に有ったマリアルーテ星系跳躍点は、二つだったと言うことだ。だから、オフィーリア星系評議会からの跳躍点の報告もそういうことだったのだ」
一時は、完全に騙された、罠にはめられたと思ったチェスター達も、マリアルーテ星系から迎えに来たエスコート隊に付いて行きながら思案していた。
「では、なぜあの時そのことを言わなかったのだ。我々がオフィーリア星系に言った時に」
理解出来ないと言う顔で副参謀を見るヘンドル主席参謀は、言うと
「何かの都合有ったのでしょう。だからあえて我々をここに呼んだのです」
クーリッジ副参謀の言葉に
「いずれにしろ、戦う意思はないように思える。だが、何が起こるか分からない。今の隊形のままで行くしかあるまい」
アンドリュー星系第一艦隊は、マリアルーテ星系からのエスコート隊に先導されながらも標準戦闘隊形、攻撃管制システムと前面シールドを解くことはなかった。
やがて、八つの星の一番近い星から一光時手前まで進宙した時だった。いつの間に現れたのか、アーサー達第一艦隊を取り巻くように何隻もの航宙戦艦が現れた。第一艦隊の後方に着いた艦は、マルドーク級と同じ大きさを持っている。
アーサーは、この状況に焦りを感じていた。“全くレーダーに掛からない内に周りに来ている。ステルス程度ならレーダーに掛かる筈だ”。口元にコムを置くと
「攻撃管制官。管制システムからマリアルーテ星系軍の攻撃能力を読み取れるか」
「はっ、既に相手の攻撃能力は解析済みです。一つだけ不明な装備があり、攻撃システムが“フェイル”を示してます」
「“フェイル”だと。どれだ」
攻撃管制官が、スコープビジョンの一角に“フェイル”示す相手の装備を映し出した。
“なんだ。あれは”。哨戒艦クラスの艦に直径一〇メートル程度の円形状のパネルがX字を描くように突き出ている。
「特別工作艦にいる開発センターの技術者に映像を送れ」
「はっ」
というと攻撃管制官は、パネルにタッチした。
一〇分後、マトメ航宙軍開発センター長からアーサーの所に連絡が入った。司令フロアのアーサーの前に3D映像が現れると
「閣下、“フェイル”の正体が分かりました。空間転移装置です」
「空間転移装置。何だ、それは。分かりやすく言え」
ヘンドル主席参謀の言葉に
「この艦の前方に空間転送する艦を並べ、指定位置まで移動させる装置です。大きさと形からして近距離用と思われます」
オトメの言葉にアーサーは、“だから、レーダーも認識できなかったのか。しかし我が星系では、まだ研究中のものだ。”そう考えるとあまりにも大きい技術力の差をまざまざと見せつけられている思いがした。
今は、第一艦隊を取り巻くように円形陣を組みながら八つの星の方へ進むマリアルーテ星系軍をスコープビジョンに見ながら“今、攻撃されたら全滅だな。しかし、なぜこのような事をするんだ。エスコート隊だけでも良いだろうに”そう考えながら近付く八つの星を見ていた時だった。
突然、司令フロアと管制フロアにブザーが鳴り響いた。
「どうした」
主席参謀の言葉に
「左舷より高エネルギー波接近」
「なにっ」
言うが早いか第一艦隊の進行方向左舷側にいたマリアルーテ星系軍の艦、数隻がまばゆいばかりの光を放ち消滅した。
「全軍、エネルギーシールド全方位。全砲門左舷回頭」
回転型荷電粒子砲アーメッドを持つ、シャルンホルスト級航宙戦艦、マルドーク級航宙戦艦、テルマー級航宙巡航戦艦、エンリル級航宙巡航戦艦の全艦が前後にある主砲が一斉に左舷を向いた。
「第二射きます」
左舷側に位置していたマリルーテ星系軍の艦が左舷に艦首を向けながら前面に最大シールを張り巡らしている。そこに第二射が当たった。
シールドのエネルギー中和によって、今度は、最左翼にいた艦の一部だけが被害を受けた。その後、マリアルーテ星系軍から、左舷一〇時方向に向けて主砲が発射された。
何百本もの荷電粒子の束が、肉眼では見れない、はるか彼方まで行くとスコープビジョンでは、光にしか見えないいくつもの赤い光点が減少した。だが、まだ荷電粒子のエネルギーが襲ってくる。
“どういうことだ。左舷側の艦は、我々の盾になっているのか。あの艦たちがどけば、我々が主砲を発射できるのに”
攻防は数十分しか続かなかった。スコープビジョンに映る赤い光点が減り続けると、やがてレーダーの走査範囲の外へ出て行った。司令フロアの誰もが声を出さなかった。
「閣下、マリアルーテ星系軍より通信です」
「映像ではないのか」
「はい、電文だけです」
“どういことだ”と思いながら
「送れ」
と言うと
自分の司令デスクのスクリーンに現れた電文を見た。
“宛:アンドリュー星系軍アーサー大将閣下。
誠にお騒がせをした。敵は追い払った。このまま進宙し、マリアルーテ星系首都星
まで来られたし。
発:マリアルーテ星系航宙軍中将ゲント・トーレス“
全く理解出来ない状況にアーサーは、
「了解したと返答してくれ」
とだけ答えた。
“我が艦隊を取り巻くように布陣したのは、この為か。しかし、何者だ。これだけの艦隊。マリアルーテ星系軍を加えれば二個艦隊にはなる航宙軍に攻撃を加えてくるとは”解けない疑問を持ちながらもアーサー達一行は、目の前に迫った青く輝くマリアルーテ星系首都星オリシスを見ていた。
アーサーは、スコープビジョンに浮かぶように見える迎撃衛星と監視衛星を見ていた。“全方向攻撃型の迎撃衛星か。この星系に正面切っての攻撃は無理だな”大きさは、一個当たりの直径は一キロ位だが、球状の表面にある粒子砲の数がすさまじく、そして一基当たりの直径が大きかった。一発で航宙戦艦が、デブリと化すほどの大きさだ。八つの星の周り四象限に死角が無いように配置されている。
攻撃衛星の内側に監視衛星がある。跳躍点方面からの航路にもあったが、これも四象限に死角なく配置されていた。
やがて、首都星を含む八つの星がスコープビジョンに映し出された。アンドリュー星系航宙軍第一艦隊とマリアルーテ星系のエスコート艦隊が、マークされている。
八つの星は、三つの恒星に照らされて、色々な輝きを見せている。艦隊の進行方向の左右の星の下にイシスとアメンと言う名前が記された。そして七つの星が距離を均等にして取囲む様に中心にオリシスと記された青色の星が見えた。
“あれが、首都星か。あそこに係留するのか”周りに軍事衛星というより宙港らしい設備が、多数配置されている。アーサーは、自分の知識には無い、違う方法に少しだけ興味を感じた。
未知の星系がマリアルーテ星系と知らされたアーサーは、突然の左舷側からの攻撃に迎撃態勢を取るが、マリアルーテ星系軍の強力な反撃で撃退する。色々な疑問を持ちながらも、いよいよ首都星オリシスに到着します。
そしてアデールとの再開は、意外な方向へ動き出します。
次回をお楽しみに。




