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第四話 謎の航路

宇宙は、静かすぎる。


だが――


「……ここ、変」


ルルの一言で、その静寂が壊れた。


トシノリは、窓の外に目を凝らす。


一見、何もない。


ただの宇宙。


だが――


「……動いてる?」


星の並びが、わずかに“流れている”。


風もないはずの空間で。


「流れじゃない」


ルルが静かに否定する。


「“通った跡”よ」


一拍。


「ここ、何かが通ってる」


トシノリの喉が、わずかに鳴る。


「宇宙に……道があるってことか」


「ええ」


ルルは頷く。


「ただし、“作られた道”」


沈黙。


トシノリは、その歪みを見つめる。


見れば見るほど、気持ちが悪い。


規則的なのに、不自然。


完全なのに、歪んでいる。


「……これ」


「誰が作った」


ルルは、少しだけ間を置いて言った。


「観測者……か、それ以上」


トシノリの胸が、ざわつく。


(また、“上”か……)


「行くのか?」


問い。


ルルは、すぐには答えなかった。


わずかな沈黙。


そして――


「……行く」


小さく、でも確かに言った。


小型船が、ゆっくりと航路へ入る。


その瞬間――


世界が、ねじれた。


「――っ!」


トシノリの体が浮く。


いや、“浮く”というより――


“引き伸ばされる”。


時間が、遅くなる。


なのに、思考だけが速い。


「これ……普通じゃないぞ……!」


「当たり前よ」


ルルの声は冷静だが――


指先が、震えている。


空間が、層になる。


一つの宇宙の中に、別の宇宙が重なって見える。


過去。


未来。


すべてが、同時に“通過”している。


「……見える」


トシノリが呟く。


「え?」


「この航路……」


残像が、浮かぶ。


何度も。


何度も。


同じ場所を通る“何か”。


巨大。


無機質。


「……“目”だ」


トシノリの声が震える。


「宇宙の目が……巡回してる」


ルルの表情が、固まる。


「……観測ルート」


小さく呟く。


「宇宙を観測するための……通り道」


トシノリは、息を呑む。


「じゃあ……この先に」


言いかけて、止まる。


ルルは答えない。


ただ――


前を見ている。


それだけで、分かった。


次の瞬間。


“視線”。


強烈な圧が、全身を貫く。


「――っ!!」


動けない。


呼吸が、止まる。


見られている。


今度は――


完全に。


「トシノリ!」


ルルが叫ぶ。


だが、遅い。


視界が、反転する。


光。


闇。


そして――


無数の“目”。


それは、観測だった。


だが、ただの観測ではない。


選別。


存在の価値を、測るような視線。


「……なんだよ……これ……」


トシノリの声が、震える。


その時。


ルルの手が、強く掴む。


今までにない力で。


「トシノリ」


声が、揺れていた。


「離れないで」


初めてだった。


ルルが、こんな声を出すのは。


「お願い……」


その一言で。


すべてが、変わる。


トシノリは、反射的にその手を握り返す。


「……離れねえよ」


視線の圧が、さらに強くなる。


それでも。


手は、離さない。


その瞬間。


“何か”が、確定する。


『――対象、認識』


声でもない声が、響いた。


ルルの顔から、血の気が引く。


「……嘘」


小さく、呟く。


「早すぎる……」


光が、すべてを飲み込んだ。

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