2-5
自宅に戻ったセレーネは明らかにおかしかった。
とても混乱している、というより、悩んでいる、と言った方が正しいのか、正直どちらも正しいのではないかと思うぐらい、いつものセレーネではなかった。
「……ああ、どうしましょう、いーちゃん」
「何が?」
ヘリオスと一緒だったのは知っている。
何のためにランチボックスを持たせたのか、玄関先で見送ったのか。
一緒に食べればいいじゃん、そんな気持ち。
その為に少しだけ早起きをしてサンドウィッチを作った事はセレーネには内緒だ。
この頃にはヘリオスに対しての警戒心は少しは薄れていたが、やはり姉の事は心配だった。
心のどこかでは、ヘリオスの全てを信用しているわけではなかったからだ。
そして現在のこの姉の異変である。
「あああ、どうしたらいいんでしょう、いーちゃん」
「お姉ちゃん。とりあえずさ、どうしたらいいって聞かれても、あたし全然事情がわかんないから説明して貰っていい?」
イェソドが聞くと、少し困ったように、セレーネは言った。
「その、胸のドキドキが止まらないんです」
何かあったのか、今日。
イェソドはすぐにそう感じた。
そうでなければ姉がそう言う発言をするのも、説明がつかない。
「……何かあったの?」
とりあえず聞いてみることにした。
セレーネは、縋るような瞳でイェソドを見て、言った。
「ヘリオスさんに、可愛いと言われて、それから胸のドキドキが治まらないんです……!」
姉は恋愛というものに一切触れた事がない。
それを知っているから、今の感情も何もわからないのだろう。
ヘリオスは本気だと言うのは理解した。
まぁ、この姉のどこがいいのかさっぱりだが。
一方の姉は好きなのかそうではないのかさっぱりわからない。
こうなれば、直接聞くしかない。
「お姉ちゃんさ、ヘリオスさんの事好きなの?」
「好き、ですか……? いーちゃん、好きって何ですか?」
やっぱりか、と思った。
イェソドは面倒そうに頭を抱えた。
姉は何も知らない、純粋無垢過ぎる。
だからこそ面倒くさい。
いちいちそれについて説明しなければならないとは。
そして、そんな日がとうとうこの姉に来るとは。
「好きっていうのは、要するに、ヘリオスさんの事気になってるのか、ってこと。一緒にいて安心できる、とか、上手に説明出来ないけど、まぁそんなもの」
そう言われて、セレーネは考える。
確かに、異性が苦手だった自分が、ヘリオスと一緒なら別に何も嫌悪感も感じないし、安心できるのかもしれない。
心が許せる、そんな感覚。
「ヘリオスさんと一緒だと安心しますよ。前みたいに他の人だと嫌だという気持ちもないですし……」
「で、お姉ちゃんは胸がドキドキってして、止まらないわけでしょ?」
「そうです、止まらないんです!」
「お姉ちゃんがどうかはわかんないから、一概には言えないけど、お姉ちゃんはきっと、ヘリオスさんが好きなんじゃない? じゃなきゃ、そんな事にはならないと思うよ、多分だけどね」
イェソドはそうとしか言えなかった。
どのみち、セレーネが最終的に決める事だ。
自分がとやかく言う事ではない。
しかし、目の前の姉は、やはりもって「どうしましょう」とか「心臓発作で死んでしまうんじゃないでしょうか」とか、若干物騒な事を呟きながら、今の現状に悩んでいるようだった。
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