3.嫉妬と偽りの婚約者
「ああもう、なんなのかしら。意味わかんない」
自室でイライラとそう口走った女性は、真っ黒なウェーブがかった髪をかきあげながら、彼――ヘリオスの事を思い出していた。
彼女は名前をレーシュと言う。
色白の肌に真っ黒なウェーブの髪、色白の肌に映える鮮やかな紅のルージュがよく似合う、グラマラスで魅惑的な女性である。
彼女の妖艶さに惹かれて寄って来た男性は数知れず。
そのうちの一人がヘリオスだった、とレーシュは記憶している。
しかし、彼が彼女にハマるよりも先に、彼女の方が彼にハマっていた。
力強い鋭い瞳に魅入られて、彼に惚れてしまったのだ。
彼は幾度か、レーシュの元へと通っていた。
お互いに会う事が幸せであったし、ゆくゆくは共に添い遂げたい気持ちがレーシュには強くあった。
現に彼に婚約を申し込んだ事もある。
そんな気はない、彼はそう言って断ったのを今でも覚えている。
それから、ヘリオスは急に彼女に会いに来なくなった。
どうしても、もう一度会いたくて、彼に会おうと街を歩いていた時に、見てしまったのだ。
自分と違う女と一緒にいる場面に出くわしてしまった。
その女、とはセレーネの事だ。
レーシュは信じられなかった。
ヘリオスは自分だけを見てくれていると思っていたのに。
別の女、しかもそれが自分よりも年下で無邪気なセレーネだった、という事にショックを受けた。
そもそもセレーネよりは自分のほうが魅力的ではないのだろうか。
レーシュは心の底から思った。
しかも、セレーネと一緒にいるヘリオスの雰囲気は、もう既に、レーシュが知っている彼の雰囲気ではなかった。
セレーネを見る瞳はどこか優しく、雰囲気もどこか穏やかになっている気がした。
彼がセレーネを愛おしい気持ちは、遠くから見ても一目瞭然だった。
だから、腹立たしかった。
自分よりも別の女を選んだ事に。
だから考えていた。
どうせなら二人の仲を引き裂いてしまおうと。
そうすれば恐らく、ヘリオスは自分の元へとまた戻ってきてくれるだろう、そう思った。
「嘘でもついてあげようかしら」
セレーネがショックを受けそうな嘘を考えながら、レーシュは呟くように言った。
「しかしヘリオスも、あんな女のどこがいいのかしら。絶対あたしの方がいいと思うわ」
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