7-4
家を出てから、ヘリオスは明らかにセレーネが緊張で固まっているのに気づいていた。
「おい、セレーネ。いつも通りにしろよ。なんで緊張なんかしてんだよ」
「だ、だって、その、デートですよ? 緊張するに決まってるじゃないですか……」
「……あのな。今までそうしてたって昨日言っただろ。だからお前が緊張するまでもねえの。普通に肩の力抜いて、いつも通りのお前でいろよ。デートって意識をまず捨てろ。お前はいつもどう思って俺とこうして一緒に出歩いてるのか、お前の考えは俺にはわかんねえけど、今まで通り俺に接せばいいし、緊張する事なんか何もない。逆にお前がそんなだと、俺まで緊張しちまうだろうが」
はぁ、とため息をついてから、繋いでいたセレーネの手を力強く握って、セレーネの歩幅にちゃんと合わせて歩く。
一方のセレーネは、ヘリオスのように堂々とはせず、顔を恥ずかしそうに赤らめて、その隣を歩きながら、心の中で呟いていた。
――普通に、いつも通りに、平常心、平常心……。
正直なところ、セレーネはいつもよりも心臓がばくばくと音を鳴らしているのを聞こえないようにと、ひやひやしながらヘリオスと手を繋いでいる。
ヘリオスと手を繋いで歩くのは初めてでは決してない。
なのに、今日は緊張が勝っている。
デートという意識をしないようにと努力をするものの、どうも空回りしているような気がしてならない。
「セレーネ」
ふと、ヘリオスがセレーネの名前を呼ぶ。
「なんでしょう?」
急に名前を呼ばれて、そう問い返しながらヘリオスの顔を見る。
ヘリオスは優しく微笑んで、セレーネを見つめていた。
「いい天気だな」
「……そうですね」
なるべく緊張をほぐすように、ヘリオスが考えた末の答えは、他愛のない会話から始めることだった。
「お前お得意の日向ぼっこ日和だ」
「お得意って……。むぅ、別に得意ではありません。好きなだけです」
「ぼーっとするのも得意だな」
「それも得意じゃなくて好きなだけです」
「俺は毎日お前を見てて飽きないよ。本当に」
「……悪口ですか?」
「違うよ。お前は毎日成長してんの。その成長過程を見てて飽きないの」
「成長……? どうしてですか?」
「もし、俺と出会ってなかったら、きっと成長出来てなかったんじゃないか? お前、前に言ったろ? 異性との付き合いは苦手だ、って」
確かにセレーネはその言葉を漏らしていた。
ヘリオスは忘れてはいなかった。
「そんなお前は今、俺と普通に会話して、笑って、手を繋いで、一緒に歩いてる。それって、俺から見たら凄い成長だと思うんだけどな」
そう言われて、セレーネはふと考えた。
確かに、昔は異性に対して関わりを持ちたくなかった。
なのに今、異性であるヘリオスには平然として関わっているのだ。
それも、一人の恋人として。
「……それも、そうかもしれませんね」
呟いて、セレーネはヘリオスを見て、柔らかく笑んだ。
「私、少しずつ成長してるんですね」
「そうだよ。……まぁ、鈍感は変わらないけどな」
「ええ!? 褒められたのに悪口を言われた気がします……! ヘリオスさんは意地悪です……」
「意地悪結構。そういうとこも可愛いし面白いわ、お前」
「……面白くありません。ドジは卒業したいです」
「いや、そのままでいい。その方が俺は面白い」
「もうっ! 面白いって馬鹿にしないでください! 結構コンプレックスなんですよ……」
「知ってる」
そんな会話をして、二人で笑いあう。
やがて、セレーネの緊張もほぐれて、いつも通りになっていくのがヘリオスにはわかった。
――やっぱ、セレーネはこうじゃなくちゃな。
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