6-2
〝暦〟の時計台は誰でも中に入れるようになっている。
時間を変えてしまう歯車など、勝手に動かしてはいけないものには触れられないように隠されている。
扉を開いてあるのは、螺旋階段。
中はお世辞にも明るいとは言えない。
薄暗い中、最上階まで続く螺旋階段に向かって登って行く。
「……確かにここは当たってないですけど……。どうしてここだって思うんですか?」
気をつけるようにとヘリオスに手を引かれたまま、階段を登りながらイェソドが問いかける。
「街中探してもどこにもいなかった。なら、公共施設だろ。もし〝何気なくそこにはあるけど用がない限り立ち入らない場所〟って考えたら、俺はここな気がしたんだよ。……その方が、セレーネを監禁しやすいだろ」
「……え、監禁……」
「マスターの話聞いて、なんとなく感じたんだよ。昔の太陽と月は引き離された。じゃあ、どうやって引き離されたんだって考えて、時間が狂ったって考えて、時計台が狂ったら駄目だっていう前提がある。それはもしかしたら、時計台が全部関係してるんじゃないかって思ったんだよ。それに、残念ながらレーシュは女を自分の家に呼ぶ趣味はないし、連れても行かないだろうな。自分が嫌いだと思った女なら、なおさらな。あいつは気に入ったものは自分のものにしたがるし、なんでも自分が一番じゃないと気が済まないんだ。だから、俺を手に入れたいんだろ、セレーネを監禁してまで」
「……よく見てるんですね、ヘリオスさんって」
「俺だって好きで女とつるんでるわけじゃねえし。むしろ、鬱陶しいぐらいだからな。逆に自分で楽しむのは、興味のない女の性格を観察する事ぐらいだな。ただ、セレーネは違う。あいつは観察すればするほど他の女よりも違うからな。逆に毎日が新鮮で、純粋な笑顔を見せるのは、あいつだけだよ。だから、俺はセレーネに惚れてる。本気の恋を、初めてした女だからな。――だから、レーシュがセレーネを傷つけてたりしてみろ。俺が絶対許さない」
ヘリオスは力強くそう言った。
ここまで惚れられている姉は幸せ者だ、とイェソドは言葉にしないまま、心の中で呟いた。
「あたしはレーシュさんって人に会った事ないけど、お姉ちゃんになんかしてたら絶対許さないです。お姉ちゃんは知らないかもしれないけど、ずっと見てたあたしにならわかります。お姉ちゃんがこうやって来るもの拒まず演じてる(、、、、、)のも」
「……おい、妹。今何て?」
ぴたりと足を止めて、ヘリオスはイェソドを見た。
イェソドはヘリオスの目を見て、言った。
「お姉ちゃんは、そうでもしないと、自分はいらない子だって思い込むんです。本当のお姉ちゃんは弱くて、怖がりで、自分に自信がなくて、一人ぼっちが嫌なんです。そうやって馬鹿を演じて、人の顔色を伺いながら生きてるんです。だけど、今はヘリオスさんっていう心の拠り所がある。けど、毎日会って別れてしまえば、お姉ちゃんは心の中で本当は寂しいんです。違うか。いずれ、いつか捨てられてしまうんじゃないかって、心の中で怯えてるんです」
それを聞いて、ヘリオスは絶句した。
セレーネは自分の前で気丈に振る舞っていた事。
以前言っていた『ドジでのろまの役立たず』と言って嫌われていたという言葉を思い出す。
あの時は辛いような悲しいような表情も全くしなかったのに、本当はそれを今でも引きずっている事。
「だから、ヘリオスさんはお姉ちゃんの傍にいてあげてください。これはあたしも、お姉ちゃんだって望んでると思うから」
早く行きますよ、とイェソドに急かされ、立ち止まっていた足を動かす。
「……一人になんて、させるかよ」
ヘリオスの心はそれを聞いて、色濃く決まった。
イェソドを助けて、必ず彼女を幸せにしなければ、と。
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