6.月を再びこの手に抱くために
暗い場所は苦手だ。
セレーネは、自分が嫌な事を思い出すのを理解しているからだ。
それは決まって、幼い頃の記憶だ。
ドジ、のろま。
セレーネについて回っていた言葉たちだ。
それは自分でも理解していた。
何をするにも遅いし、何かするとすぐに失敗をする。
学校に行っていた頃、クラスメイトに告げられた言葉は、未だに鮮明に覚えている。
「使えないね、君。顔も見たくない」
存在自体を否定された。
どんどん嫌われ、居場所がなくなっていくのも、なんとなくわかっていく。
やがて、セレーネはどんどん自分の自信が失われているのも、わかった。
けれど自分でどうすることも出来なかったセレーネは、誰にも相談する事もなく、ずっとそれを一人で抱え続けた。
それは現在進行形でもある。
暗い場所にいれば、嫌でもその頃の事を思い出す。
気丈に振る舞っている毎日。
けれど、過去の闇は大きくのしかかっている。
――私、いらない子なんでしょうか。
ヘリオスと出会って、恋人になって、自分を受け入れてくれる人を見つけたと思った。
しかし、今現在の状況は、明らかにヘリオスに迷惑をかけている。
ヘリオスが言った、全てが好きだ、という言葉にすら、今は疑念が残る。
来るもの拒まず、は、そう振る舞っていた方が、周りに迷惑をかけないと思ったからだ。
まるで自分は何も知らない純粋なただの馬鹿で振る舞っていた方が、きっといいと思った、それが過去から学んだセレーネなりの答えだった。
これが必ずしも正解だとは言い切れない。
けれど、自分が出来る最大限の振る舞い方はこれぐらいだった。
きっと今頃、ヘリオスは自分を探しているのか、それとも約束を守れなかったから帰ってしまったのか、わからない。
けれど、もし見捨てられてしまっていたのだとしたら、今までのヘリオスの行動は何だったんだろうか。
――ヘリオスさんも、私をいらない子だと思ってしまったのでしょうか。
疑念と不安。
セレーネの脳内は、ただそれだけが支配していた。
――私は、ヘリオスさんの事が、本当に好きなのに。
やっと自分が気づけた気持ちだったのに。
ここで終わってしまうのだろうか。
そう思うと、セレーネは悲しい気持ちになった。
ただ今は、拘束されたまま、じっとしていよう。
レーシュはセレーネと少し距離を置いた場所で、監視しているからだ。
ヘリオスが悲しむ顔だけは見たくない、その一心だった。
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