5.月と太陽を隔てるモノ
すえた臭いが鼻孔を突いた。
「……ん……」
薄暗い部屋。
冷たい木製の床。
手首に巻かれた縄の痛みで、徐々に覚醒していく意識。
「ここ、は……?」
どこだろう、見覚えがない。
セレーネはしっかりと覚醒して、横たわって自由に動けないまま、一連の流れを思い出す。
ヘリオスに会いに噴水広場に向かっていた。
その道中にセレーネと会い、話があるからとお茶に誘われた。
以前、ヘリオスとセレーネの話し合いに同席したカフェだった。
あの日は窓際のボックス席だったが、今日はテラス席だった。
レーシュはコーヒーを頼み、セレーネはオレンジジュースを頼んだ。
飲み物が来る前にセレーネはお手洗いにと席を立った。
帰ってくると、飲み物が置かれていて、セレーネとは何の話をしていたか、記憶がない。
飲み物を口にしてから、記憶がない。
そして、今、この状況だ。
何が何だか、飲み込める状態ではない。
薄暗い部屋は、辺りを見回してもよくわからない場所で、すえた臭いだけが鼻孔を突く。
確か飲み物はオレンジジュース、以前頼んだ時に飲んだ味を覚えていたけれど、それよりも少し苦かった気がした、けれどフレッシュジュースなら、そう言う事もあるだろうと別に気にはならなかった。
そして、この場所。
見覚えのない場所ではあるけれど、歯車が回っているような、時計が動いているような、そんな音が微かに聞こえる。
けれど、薄暗いこの場所がどこであるか、あまり考えられる状態ではなかった。
そもそもどうして自分がこんなところにいるのか、セレーネはわからなかったからだ。
考えを巡らせていると、頭上から声が降って来た。
「おはよう。セレーネさん」
「……レーシュ、さん?」
その声の主はレーシュだった。
横たわるセレーネの傍にしゃがみこんで、表情を覗きこまれる。
そして、悪女のような微笑みで、セレーネに言った。
「痛いでしょう? でも我慢して? あたしの為だと思って、おとなしくしてて。何かしたらあたし、何の罪もないあなたに手を出しちゃうかもしれないから。まだあたし、ヘリオスを諦めてない。それにね、こうでもしないと、あなたとヘリオスは離ればなれになってもらえないもの」
セレーネはレーシュが何を考えているのか全くわからなかった。
けれど、騒いだら何かされる、という事だけははっきりと把握した。
「……どうして、私とヘリオスさんを、引き離すんですか?」
怯えた声で、レーシュに聞く。
当たり前のような口調の返答が返ってくる。
「だって、あなた、邪魔なんだもの」
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