4-9
「……おっせえ」
時計塔の前の噴水広場。
ヘリオスは律儀にもそこで待っていた。
セレーネと約束した時間から、かれこれ三十分が経過しようとしている。
セレーネの事だから、またふらふらとして来るのだろうと予想はしていたが、いくらなんでも遅すぎる。
三十分待ったヘリオスも、さすがに限界だった。
何かあったんじゃないか、それともまだどこかほっつき歩いているのか。
セレーネに限って、約束をすっぽかす事はないはず。
嫌に胸騒ぎがした。
「家、行ってみるか」
道中、セレーネの姿を探しながら、最悪彼女の家に向かえばいい。
そう思って歩き出した。
空の陰りが、近づいてきていた。
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「お姉ちゃん、帰ってませんけど」
街を歩いて探して、セレーネが行きそうな場所、寄り道しそうな場所にも立ち寄ってみたが、結局彼女の姿はなく、彼女の自宅へと到着してしまった。
そして、開口一番、イェソドはヘリオスにそう言った。
「待ち合わせ、してたんですよね?」
「したよ。でも、待っても来ない」
「さすがのお姉ちゃんも、ヘリオスさんの約束すっぽかすような感じじゃないですよ。今日もお花畑で楽しみそうで幸せそうで、遠足に行く当日みたいな……っていつもですけど。行きそうなところ、探してみたんですよね?」
「探したよ。見つからない。かといって連絡手段もない」
頭を抱えるように言ったヘリオス。
セレーネに携帯電話などの連絡手段があるか、と聞いた事が一度ある。
すると「ないです」の一言。
持たせないのかとイェソドにも一度聞いた事があるが、「失くしそう、持ち歩かなさそう」という理由で持っていないのだそうだ。
連絡手段がないのはお互い承知だ。
「……ったく、不便でたまんねえ」
「もしかしたら、すれ違いだった、とか?」
「可能性はなきにしも、だが、見てない」
ヘリオスがそう告げると、イェソドは考え込むようにうーんと唸った。
そもそも今朝も楽しそうに「行ってきますねー」と告げて、セレーネは出て行ったのだ。
指定されていた噴水広場に関しても、さすがのセレーネでも場所はわかっている。
どうやって行けば辿りつくのかぐらいわかっているし、迷子になる事はそうそうないはず。
なのに、そこにセレーネは現れなかった。
じゃあ、道中何かあった、と考えられる。
寄り道だったとしても、恐らくヘリオスが見つけるだろう。
じゃあ、その〝何か〟とは何なのか。
ふと、イェソドは窓の外を見た。
真っ黒な雲が、空を覆っていた。
先ほどまであんなによく晴れていたのに。
「……雨、降りそうですよ、ヘリオスさん」
お互い気が気でならない。
一体セレーネはどこへ行ってしまったのだろうか。
嫌な予感と胸騒ぎ。
「……お姉ちゃんの馬鹿」
ぽつりと、イェソドは呟いた。
改めて、どうして自分の姉がしっかりしていないか、思い知った。
しかしセレーネは、下手にわからない場所を行くと家に帰れないことぐらい自分で把握しているので、放浪したりした事は一度もない。
だからおかしい。
「とりあえず、あたしもお姉ちゃんを探します。一人より二人のほうが効率いいだろうし、誰かに聞いたら何か知ってる人、いるかもしれない」
「……悪いな」
「お互い様です。……あたしだって、お姉ちゃんの事、心配ですから」
そう言って、二人は家を出て、セレーネを探すことにした。
やがて真っ黒な雲は、ごろごろと雷鳴を轟かせ、やがて雨を降らし始めた。
急な天気の急変は、これから起こる事の予兆だと言う事に、この時の二人はまだ気づいていなかった。
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