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4-3

 セレーネは、幸せの最中にいた。

 初めて恋というものを知り、初めて好きだと言ってくれ、愛してくれる人に出会えた。

 一日一日が、とても愛おしく感じた。

 ヘリオスと会う一日、毎日会ってもどこか新鮮な気分で。


「……お前、毎日楽しそうだな」


 今日もヘリオスとセレーネは一緒にいた。

 街を散策する、いつもの事ではあるが、今ではヘリオスと一緒にいると違う風景に見えるのだから、不思議なものだとセレーネは感じていた。


「楽しいですよ! 大好きなヘリオスさんと一緒にこうして毎日一緒にいれるんですから」


 えっへん、というような表情で、セレーネは言う。

 ヘリオスはその表情を見ながら、特に呆れる事はしなかった。

 正直、セレーネは純粋に恋愛も未経験だし、一緒にいれるだけで嬉しいと言ってもらえるのなら、特に呆れる事もない。

 というよりも、セレーネの扱いにも、少し慣れて来た、というところが本音なのかもしれない。

 毎日会うが、ヘリオスとしてはこれはデートの一環だと思っている。

 けれど、セレーネはデートという言葉も知らないのだろう、だから別にそうであるとは告げてはいない。

 何か一つ、知らない事を教えようとすると、一から十まで説明しないとわからないのだ。

 それでも理解しているのかわからない、だから少しだけ厄介なのだ。

 けれど、ヘリオスはそんなセレーネでも本当に好きだし、ヘリオス自身も運命の人だと思っている。

 手を繋いでこうして堂々と歩けるようになったのも、ごく最近で、初めの頃は、セレーネが「人前でこんな風に手を繋いで歩くのは恥ずかしいです!」とあわあわしながら言うので、少しずつでいいから、とヘリオスは言い、恥ずかしそうに了承していたのを思い出す。

 初めはヘリオスの黒いシャツの腕の裾。

 次は小指。

 小指に差し掛かった辺りで、ヘリオスが強引に手を繋いだのがきっかけで、やっと手を繋ぐ事を決心したらしかった。

 今では当たり前のように、ヘリオスが手を差し出せば、セレーネもそれに応じるようになった。

 ヘリオスがそんなことを思い返していると、ぴたりと隣で歩いていたセレーネの足が止まる。


「どうした?」


 セレーネの視線の先を見ると、そこは一軒の洋服屋だった。

 ショーケースのトルソーに展示されているのは、いかにもセレーネが好きそうなフリルのレースを重ねたケープ付きのブラウスに、コルセットが付いた、ボリュームのあるパニエを履いたスカート。

 スカートは後ろの方が長く作られていて、レースとフリルが折り重なって、フィッシュテールのようなデザインになっている。

 その展示を見て、目を輝かせているセレーネがいた。

 それに気付いたヘリオスはすぐに告げた。


「入るぞ」


「え、はいっ!?」


 唐突にヘリオスがそう言って、ぐい、と強く手を引いて、セレーネを店の中へと一緒に入店させる。


「いらっしゃいませ」


 店員はこの店の服を綺麗に着用しており、まるで店員がモデルのようだった。

 ヘリオスはこういう店に入った事はない。

 けれど、他人の買い物には慣れているし、女性の洋服の買い物となると特に慣れているので、初めて入る店でも抵抗はあまり感じない。

 隣のセレーネは、きょろきょろとして、少し緊張の面持ちで店内を見回す。

 先ほどまであんなに目を輝かせながらショーケースを見ていたにも関わらず、店の中に入れば挙動不審、ヘリオスは嫌でも妙な違和感に感づく。


「……お前、入った事ないのか、ここ」


 ヘリオスが聞くと、恥ずかしそうにセレーネが言った。


「入った事、ないです……。だって、このお店のお洋服、私、ずっと外から見るだけで、お値段がするので……その……私には見合わないかな、と……。でも、凄く憧れてて……ええと……」


 そんなセレーネを見ながら、ふ、と笑って理解した。

 この店の服は高くて買えない、けれど欲しい。

 なら、彼氏のヘリオスがしてやることは一つだ。


「俺が買ってやるから、好きなの選べよ」


「え!? で、でも」


「いいから。ほら、ゆっくり見ろよ。好きなの買ってやる」


 そう言って、優しく微笑むと、少し躊躇してから、繋いでいた手を離して、店内を輝く瞳で物色し始めた。

 どれだけ憧れていたのか、すぐにわかった。


「……単純だな、ほんとに」


 セレーネには聞こえないように、小さく呟きながら、ヘリオスも一緒に店内を見ることにした。

 けれど、頭の片隅で考えていた。

 店頭にあったトルソーの洋服は、暗めの色遣いの服だった。

 この店に暗めの色がほとんど、というわけではないのだが、どうしてセレーネは暗めの色目の服を見ていたのだろう。

 今、物色している服は明るめの色も物色しているようだが、どうやら暗めの色も少し気になっているようだった。

 何か、心境の変化でもあったのだろうか。


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