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「お前、さっきの言葉、本当か?」
「はい?」
話し合いの後、店を出てからセレーネをいつも通り家に送り届ける道を歩きながら、ヘリオスは聞いた。
「だから、さっきの店での言葉だよ。俺と一緒にいれたら、って」
それはセレーネの本心だったのか、ヘリオスは若干疑心暗鬼になっていた。
セレーネの事だ、場の空気を察知して機転を利かせたのか、それとも何も思わずそれが本心であったのか、正直どちらかわからない。
すると、ヘリオスの顔を見てから、少し頬を赤らめたセレーネが言った。
「本当、ですよ? ……多分」
「多分って何だよ」
「その、私、いーちゃんに相談したんですよ、昨日」
「……妹に?」
「はい。それで……、その、私、ヘリオスさんの事が、好きなんだ、と、思いまして」
そう言って、セレーネは、昨日の事をヘリオスに打ち明けた。
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「は? 婚約者の人と会うのにお姉ちゃんが同席するの?」
意味がわからない、というような表情でイェソドが言った。
「私もその婚約者さん――レーシュさんにお会いしたんですけど、ヘリオスさんとの関係を聞かれて、咄嗟にお友達だと言ったんですよ。だけど、なぜかその後胸が苦しくなるような、痛くなるような気分になって……。私がいても多分邪魔でしょうし、ヘリオスさんに同席しろと言われて断ったのですが、いいから来いと言われてしまいまして……。断れなくて……」
うーん、とイェソドは考えた。
もしかしたらヘリオスなりに何か考えがあるのかもしれない。
そもそもセレーネを好いているのは見て当然知っているし、その婚約者と言ったレーシュという女性がそもそも本当にヘリオスの婚約者なのかも気になる。
もしかしたら、婚約者ではないから、ヘリオスはセレーネに同席をしろと言ったのかもしれない、そんな考えに行きついた。
「行けばいいと思うけど」
「どうしてですか、いーちゃん」
「だって、明らかにその婚約者の女の人、怪しいじゃん。ヘリオスさんだって、そう思ったからお姉ちゃんに同席を頼んだんじゃないかな、と思う。それにさ、お姉ちゃん気づいてないと思うけど、お姉ちゃんが胸が苦しいとか色々言ってるのってね、ヘリオスさんに恋しちゃってるんだよ」
「恋……? いーちゃん、それは魚でしょうか?」
「魚の名前じゃないよ! ああもう、お姉ちゃんどこまでも鈍感!」
なんなんだこの姉は、と思いながら、イェソドが言う。
「だから、お姉ちゃんさ、ヘリオスさんといると幸せな気分になるんでしょ?」
「なります」
「ヘリオスさんの婚約者の人が来て、胸が苦しいなとか、ヘリオスさんといつも会って、帰りに別れる時に寂しいなとか思うんでしょ?」
「なります」
「それはお姉ちゃんがヘリオスさんの事が好きだって事。恋してるの。ラブだよラブ。ライクの方じゃなくてラブ。お姉ちゃん気づいてないと思うけど、ヘリオスさんはお姉ちゃんの事が好きなんだよ、恋してるの。だから毎日会いに来る。多分、お姉ちゃんが何考えてるかわかんないから、ヘリオスさんが自分の気持ち言えないだけ」
「……なんだか、さらっと悪口を言われている気がするんですけど……」
「だって事実、あたしもお姉ちゃんが考えてる事なんてわかんないもん。お姉ちゃん、いつもどんな気持ちでヘリオスさんと会ってるんだろうとか、全然わかんない」
「……で、でも、本当にヘリオスさんは私が好きなんでしょうか?」
「それは本人に聞いてよ……。それをあたしがわかってたらおかしいでしょ?」
「……うう……」
困ったように唸ったセレーネを見て、少し呆れたような表情で、イェソドははっきりと言った。
「もしお姉ちゃんがヘリオスさんの事が好きで、ヘリオスさんがお姉ちゃんの事が好きだっていうんだったら、付き合っちゃえばいいの。それこそ、ヘリオスさんの〝モノ〟になっちゃえばいいんだよ」
イェソドは、多分セレーネもヘリオスの事が好きなのかもしれない、と感づいたからだ。
なら、二人は付き合ってしまえば問題はないだろう。
今まで見てきた限りでは、ヘリオスはセレーネに害はない人間だと認めた。
だからこそ、だ。
もしセレーネがヘリオスを好きなら、全力で応援してあげようと。
それが妹の務めだろうと、感じたからだった。
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