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「……婚約者?」
次の日。
セレーネは公園でヘリオスに昨日の話をした。
レーシュと名乗る女性がヘリオスと別れた後、自分のところへ来た事。
そこで彼女が婚約者である事を聞いた事。
その話をすると、ヘリオスは怪訝そうな表情をした。
「お名前を言えば覚えていると仰っていたのですが……。もしかして、覚えていらっしゃらないのですか?」
不思議そうにセレーネはヘリオスに問いかける。
確かに、ヘリオスには何人か心当たりがある。
というのも、正直そう言い寄ってくる女性はいたのは事実だ。
以前、自分がどういう生活を送っていたのか、セレーネにはあまり知られたくはなかったが、そういう人間がセレーネのところへ来たのだから、思い出すほかない。
「黒い髪の、そうですね……真っ赤な口紅でしょうか、それがとても印象的な、お綺麗な方でしたよ?」
セレーネは思い出してほしい一心で、特徴的だった容姿を伝える。
ヘリオスはそれを聞いて、一人、該当する人物を思い出した。
確かに、いた。
何度か会った事実もあるし、婚約してほしいと言われた事実もある。
けれど、必ずしもヘリオスは好意を持って接していたわけではない。
何度か会った、と言っても、向こうは会いに来た、という認識なのだろうが、ヘリオスからしてみれば、向こうが会いに来た、という認識が正しい。
「……あぁ、思い出した」
名前もレーシュで合致している。
印象的な容姿も、伝えられたそのまま合致している。
「思い出されましたか?」
「……で、そいつ、なんて言ったんだよ」
「ええと、婚約者ですと。あと、ヘリオスさんとお会いしたい、と仰られていましたよ」
今更自分に何の用だろうか。
ふと思ったところで、ヘリオスは何か感じた。
もしかしたら、自分とセレーネの関係を壊すつもりではないだろうか、と。
どうしてそう思ったのか、自分でもよくわからないが、レーシュならやりかねない、と思い出したからだ。
彼女は独占欲の強い女性のため、自分ですら振り切るのに大変だった。
そして、恐らく婚約という件は諦めていないのだろう。
そもそも、レーシュはヘリオスに対する執着は強い方なのでは、とヘリオス自身もそう感じていたからだ。
もし、思い込み過ぎだとしても、面倒な事に巻き込まれたな、正直思った。
今はヘリオス自身がセレーネに婚約してほしいと言いたいぐらいなのに。
セレーネ本人が未だに自分にどのような印象を持っているのか、さっぱりわからないのだ。
聞く事はしなかったし、聞けなかったのだ。
ヘリオスにとって、これが初めての〝本当〟の恋。
真剣に付き合って、結婚して、将来ずっと添い遂げたいと思っている存在。
聞いて、彼女に断れるような内容であれば、多分立ち上がれないだろう。
実はこう見えて、ヘリオスは繊細なのだ。
自分では堂々としているように見えても、この初恋に関しては、そうではない。
それに相手はセレーネ、自分をどう思っているかわからない彼女を見ていると、聞けるはずもなかった。
「ええと、ヘリオスさん、レーシュさんとお会いになられますか?」
どうするんでしょう、とセレーネが問いかけた。
レーシュは自分に会いたいのだと言った。
けれど、セレーネを離す気はさらさらない。
その問いかけに、ヘリオスは言った。
「お前も同席しろ」
「え? はい?」
唐突の申しつけに、セレーネは困ってしまった。
二人の話し合いではないのだろうか。
むしろ、二人で話し合う、というのが一番なのではとセレーネは思っていたからだ。
それに自分も同席しろ、とはどういう事なのか、よくわからなかった。
けれど、セレーネもヘリオスと同じように不安を感じたのは事実だった。
ヘリオスともしかしたら、一緒にいれなくなるのかもしれない。
心の中で、締め付けられるように、そんな思いを感じていたからだ。
少し考えて、セレーネはヘリオスに告げた。
「ですが、お二人で話し合いをするべき事なのではないのでしょうか。私が同席するべきではないと思うのですが……」
「だから一緒に来いって言ってるだろ。俺が言うから構わない」
しっかりとした瞳と言葉にセレーネは従うしかなかった。
「わかりました。私も一緒に、ヘリオスさんとレーシュさんとお会いしますね」
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