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3-3

「……婚約者?」


 次の日。

 セレーネは公園でヘリオスに昨日の話をした。

 レーシュと名乗る女性がヘリオスと別れた後、自分のところへ来た事。

 そこで彼女が婚約者である事を聞いた事。

 その話をすると、ヘリオスは怪訝そうな表情をした。


「お名前を言えば覚えていると仰っていたのですが……。もしかして、覚えていらっしゃらないのですか?」


 不思議そうにセレーネはヘリオスに問いかける。

 確かに、ヘリオスには何人か心当たりがある。

 というのも、正直そう言い寄ってくる女性はいたのは事実だ。

 以前、自分がどういう生活を送っていたのか、セレーネにはあまり知られたくはなかったが、そういう人間がセレーネのところへ来たのだから、思い出すほかない。


「黒い髪の、そうですね……真っ赤な口紅でしょうか、それがとても印象的な、お綺麗な方でしたよ?」


 セレーネは思い出してほしい一心で、特徴的だった容姿を伝える。

 ヘリオスはそれを聞いて、一人、該当する人物を思い出した。

 確かに、いた。

 何度か会った事実もあるし、婚約してほしいと言われた事実もある。

 けれど、必ずしもヘリオスは好意を持って接していたわけではない。

 何度か会った、と言っても、向こうは会いに来た、という認識なのだろうが、ヘリオスからしてみれば、向こうが会いに来た、という認識が正しい。


「……あぁ、思い出した」


 名前もレーシュで合致している。

 印象的な容姿も、伝えられたそのまま合致している。


「思い出されましたか?」


「……で、そいつ、なんて言ったんだよ」


「ええと、婚約者ですと。あと、ヘリオスさんとお会いしたい、と仰られていましたよ」


 今更自分に何の用だろうか。

 ふと思ったところで、ヘリオスは何か感じた。

 もしかしたら、自分とセレーネの関係を壊すつもりではないだろうか、と。

 どうしてそう思ったのか、自分でもよくわからないが、レーシュならやりかねない、と思い出したからだ。

 彼女は独占欲の強い女性のため、自分ですら振り切るのに大変だった。

 そして、恐らく婚約という件は諦めていないのだろう。

 そもそも、レーシュはヘリオスに対する執着は強い方なのでは、とヘリオス自身もそう感じていたからだ。

 もし、思い込み過ぎだとしても、面倒な事に巻き込まれたな、正直思った。

 今はヘリオス自身がセレーネに婚約してほしいと言いたいぐらいなのに。

 セレーネ本人が未だに自分にどのような印象を持っているのか、さっぱりわからないのだ。

 聞く事はしなかったし、聞けなかったのだ。

 ヘリオスにとって、これが初めての〝本当〟の恋。

 真剣に付き合って、結婚して、将来ずっと添い遂げたいと思っている存在。

 聞いて、彼女に断れるような内容であれば、多分立ち上がれないだろう。

 実はこう見えて、ヘリオスは繊細なのだ。

 自分では堂々としているように見えても、この初恋に関しては、そうではない。

 それに相手はセレーネ、自分をどう思っているかわからない彼女を見ていると、聞けるはずもなかった。


「ええと、ヘリオスさん、レーシュさんとお会いになられますか?」


 どうするんでしょう、とセレーネが問いかけた。

 レーシュは自分に会いたいのだと言った。

 けれど、セレーネを離す気はさらさらない。

 その問いかけに、ヘリオスは言った。


「お前も同席しろ」


「え? はい?」


 唐突の申しつけに、セレーネは困ってしまった。

 二人の話し合いではないのだろうか。

 むしろ、二人で話し合う、というのが一番なのではとセレーネは思っていたからだ。

 それに自分も同席しろ、とはどういう事なのか、よくわからなかった。

 けれど、セレーネもヘリオスと同じように不安を感じたのは事実だった。

 ヘリオスともしかしたら、一緒にいれなくなるのかもしれない。

 心の中で、締め付けられるように、そんな思いを感じていたからだ。

 少し考えて、セレーネはヘリオスに告げた。


「ですが、お二人で話し合いをするべき事なのではないのでしょうか。私が同席するべきではないと思うのですが……」


「だから一緒に来いって言ってるだろ。俺が言うから構わない」


 しっかりとした瞳と言葉にセレーネは従うしかなかった。


「わかりました。私も一緒に、ヘリオスさんとレーシュさんとお会いしますね」


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