最後の戦い(3)
急げ!!とにかく最深部へ!!
壁が縮んで迫ってくる。氷の柱をつくって壁と壁の隙間に突っ張り棒のように挟めながら最深部を目指す。
うぉっ!?内部の配線のようなものが進路の邪魔をする。この程度ならジャックナイフで切り裂けた。くぐり抜けてさらに深くに行くと、どんどん狭くなってきた。後ろに挟めてきた氷も砕け始め、最深部はどうなっているのかすごく不安になってきた。
最深部がだいぶ遠くに見えた。だが、全員の姿は見えなかった。目の前のガラス扉を開けようとしたが、その時…。
強力な掃除機に吸われたかのように、体が上に引っ張られた。こんな機能まであるのか…。
途中で杏とすれちがった。
「杏!!」
一瞬で遠くになってしまったが、僕の一言で全てを察したのか、杏はにっこりと笑った。そして、親指を立てた。
ふぅぅ…。氷を隙間無くきっちりはまるようにつくり、なんとか風を止めた。急いで先に進む。
最深部は、ほとんど潰れかけていた。大夢が腕力だけで壁と壁を押さえている。杏もライフルを壁に挟めて隙間をつくっている。全員が、もう既に諦めかけたような顔をしていた。
「とりあえずコアらしきものは壊しましたよ。けど、縮まるのが止まりませんね…。」
僕は、これからどうするべきかを考えていた。数10m先はもう縮みきっていて隙間は無い。ぶっ壊して強行突破しかないということだ。
エネルギーブーストは、超強力な技ではある。だが、地上では、地球の裏側に飛んでしまうほどの本来の全力は発揮されない。そこで斬は考えた。今まで覚えたり吸収したりした全ての技の力をまとめて放出する、『フルエネルギーブースト』が出来ないかと。それに本能が答える。全てのエネルギーの蓄積をすぐに始めたのだ。
「皆…諦めちゃいけない。」
僕は話し始める。全員が僕の方を見る。
「これから、僕は力技でここを強行突破して破壊する。そして脱出する。プランはもう出来てる。だから、ついてきて。ちゃんとついてくるだけでいい。」
全員が無言でうなずいた。斬さんに任せればなんとかなる。全員が信頼を寄せていた。そして、ついに行動を始める。
「よし、じゃあついてこい!!」
外にいた陽響は、内部の異常に気づいた。
「なんか、音がしないか?」
「あぁ。ものが擦れるような…」
大可士が答えたその瞬間、塔は一瞬で膨らみものすごい光と音を放ちながら大爆発した。
「「「「うわぁぁぁぁーーーーー!!!??」」」」
隙間を縫うように内部を飛び回る。ちょうど塞がって通れない所が遠くに見えた辺りで、エネルギーの蓄積が満タンになった。さぁ、最後の大技だ!!
「フルエネルギーブーストォォォォォォォーーーー!!」
狭い空間で強大なエネルギーが放出され、炸裂する。固い壁は圧力で粉々に吹っ飛び、大爆発を起こす。それでも有り余るエネルギーは僕達を上空の更に高く、高く高く高く舞い上がらせた。
大爆発と共に崩れ落ちた塔から飛び出てきたのは、内部に入っていた人達だった。
全員が絶句していた。ただ、皆無事であることだけを願っていた。
決まった!!下を見ると、塔は爆発して粉々に崩れていた。外にいた皆がとても小さく見える。そういや、大夢達は脱出できたかな。
にしても、僕どこまで飛んでいくんだ?勢い収まる気配が一切無いんだが。つうか、ヤバいこのままだと大気圏いっちゃうどうしよう呼吸できなくなるうわやっぱなんとなく酸素薄い気が怖いよ下りないと…。何とか羽根でブレーキをかけ、下降できるように羽ばたかせる。うわ、ダメだ勢い強すぎバランスが…
「あぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」
ほぼ地面に垂直に落ちている。なんとか風をつかんで体勢を整えたいんだが…。地面がぐんぐんと近づいてくる。こんな死に方、嫌だ!!!!!
「無事か!!」
脱出してきた大夢達に駆け寄る陽響。
「なんとか無事ですけど…斬さんめっちゃぶっ飛びましたよ。」
皆が海督の指差す方を見ても、もう斬は見えなかった。
斬が落ちてくるのを最初に見つけたのは、南町さんだった。
「斬が落ちてくるぞ!!ほら、林の方!!」
「「「「え!?」」」」
全員の声が重なる。磨夏が、真っ先に落ちてくるところに向かって駆け出す。
「斬さーーーーーーん!!!!!」
磨夏がものすごい速さで走る。誰も追い付けない。疾走する斬と磨夏との距離はどんどん縮まり、斬も磨夏に気づいたようだ。
「斬さーーーーーーん!!!!!」
遠くから声が聞こえる。声のする方を見ると、磨夏が走って林の中に突っ込んできていた。
なんとか体勢は整った。これで無事に着地できるはずだ。けれど、どうせ林にぶつかるか。空から落ちてきて木々にぶつかって地面に落ちる演出はアニメとかで見るけど、あれって痛いのかな。多分痛いんだろうな…とか思ってるうちに、林の木々に本当にぶつかった。痛い!!やっぱり痛かった。スルッと葉と葉の間を抜けると、すぐ地面だった。固い地面に直撃を覚悟した。すると、誰かが僕の下に飛び込んできた。
「ぐへっ。」
細い腕が脇腹に食い込む。僕はその細い腕と体との間に挟まれているようだ。
しばらく固く歯を食い縛っていて、声が出なかったが、僕をダイビングキャッチしてうめき声をあげた本人が声をかけてきた。
「…恩返しができて、嬉しいです。」
聞き覚えのある声だった。
「…磨夏?」
「はい。頑張ってキャッチしました。」
「別に大丈夫だったのに…。けど、ありがとう、磨夏。」
「どういたしまして。」
心底嬉しそうに笑っていた。そっか、恩返し、か…。
「生きてるみたいなんで、いくら文句言ってもいいですよね?」
「…あぁ。そうだな。」
なんとか僕は立ち上がる。磨夏も一緒に立ち上がる。しかし、僕はなんとなく息苦しさを感じた。そして…
「悪い、磨夏。文句言うの、もうちょい待ってくれ…」
「え?」
こうして、僕はうつ伏せに倒れた。
「斬さん…?そんな、せっかく、せっかく恩返ししたのに!!斬さん、斬さん!!斬さーーーん!!!」
「陽響、磨夏の声だぞ。」
南町さんが声を聞き取った。
「斬に何かあったのか?」
「よし、皆急ぐぞ!」
こうして、陽響達は見つけた。林の中で泣き叫ぶ磨夏と、うつ伏せに倒れている斬を。




