釣り仲間(1)
週末を楽しむ。斬の周りには大可士と海督と大夢。これから凸沢新港にクロダイ釣りに行く。
…つうか、僕と大夢は実際無関係なんだよね。事の発端は海督のあの一言。時は昨日の放課後の図書室。
「ルアーで釣れない魚はいないよ。」
この海督の一言に、偶然居合わせた大可士が反応した。静かな図書室の空気を、ガタンという椅子の音が揺する。
「…ならば言おう。繊細なフカセ釣りで釣れない魚はいない。大雑把にぶん投げるだけの釣りは到底敵うわけがない。」
「ほう?そこまで言うんでしたら、土曜日の午後から対決しましょうよ、クロダイ釣りで。」
「…クロダイがルアーにかかる訳がない。悪い雑誌のハッタリ記事でも読んだか?」
「今のルアーをなめちゃいけませんよ?んじゃ、土曜午後2時に新港で。」
「フカセ釣りの前にひざまずくんだ、ルアーマンよ。」
近くにいた僕と大夢も、その対決に巻き込まれたって訳だ。にしても、大可士は釣りの話になるとほんと口調と雰囲気変わるよな…。
背後から独特なエンジン音が迫ってくる。トラックとスポーツカーの音を足して3で割ったような音。あのトライトンだ。
やがて、黒いトライトンが僕達の隣に停車する。僕達はチャリを停め、ウィンドウから覗く金髪の青年の顔を見る。
「よぉ。お前ら、釣りするのか。」
「あ、こんにちは。これから新港に行くんです。」
「ほぉ…。いい趣味だ。おぉ、そうそうちょうどいい、今日はお前を探してたんだ。」
僕は指さされ、驚いた。
「?何の用ですか?」
「色々と、軽い世間話ってノリじゃあ出来ねぇ話があってよぉ。後で家に来ないか?」
どんな話だろう?
「最近は予定空いてなくて…中2も何かと忙しいんですよ。」
「ハッ、そうなのかい。」
「うーん…来週の日曜なら空いてるんで、そこでどうですか?」
「おう、いいぜぇ。んじゃ、釣り楽しめよ。」
大きな後ろ姿が排ガスと共に去っていく。大夢が一言呟く。
「デカールのデザイン変わってる…。」
え?うそ?気づかなかった…。
新港に着いた。
「俺はここに決めた。」
新港の堤防を少し歩いたあたりで大可士は立ち止まった。外海側に竿を向け、準備を始めた。足下には内湾から繋がる通水溝があり、流れのあるポイントだ。
「大可士、そこは足場高くないか?」
が、その問いは愚問だったとすぐに気付かされた。5m以上あろうかと思われる竿を軽々と操り、仕掛けと撒き餌を投げ込み、もう釣りを始めていたのだ。
「すごいな大可士。僕は到底そんな場所には立てないや。」
僕は高所恐怖症である。仕方ないので、安物の竿と仕掛けのセットを取り出して少し足場の低い内湾に向かって釣りを始めることにした。
海督はそんな僕達をしばらく見ていたが、やがて堤防の先端に向かって歩き出した。
「んじゃ、俺らは先端の方に行ってますね。」
ひょい、と安物の竿を振る。釣りは何度もしたことがあるが、未だに海底の障害物と魚のアタリを間違える。お、かかった!キリキリと音が鳴るリールを巻く。キリキリ、キリリ、キリキリキリ…お、ハゼじゃん。針から外してバケツに放り込む。また投げる。巻く…投げる…巻く…。そういや、大可士の様子はどうだ?
「大可士ー!どうだー?」
「餌取りが多くて難しい。」
「そう言えば、クロダイって『乗っ込みシーズン』てのがあるんだよな?それって春じゃねぇの?今って本来釣りづらいんじゃね?」
「この辺は乗っ込みが遅いんだ。磯でも5月。堤防に来るのは乗っ込みから2か月位後だから、ここの堤防では今時期が結構いい感じなはずだ。」
「そうなんだ。あ、そう言えばこっちはハゼ釣れたよ!」
「そうか。お土産ができて良かったな。」
海督の方はどうなってるんだろう?
「またヒラメかよ…。」
俺、ポイント間違えたか?この辺はフカセでもブッコミでもクロダイ釣れてるんだけどな…。今までヒラメ5枚。シンキングペンシルで表層を攻めてるんだが、水深浅いからヒラメが食ってくる…。丁寧に障害物周り探るしかないか。…お、今までとは違う引き。これは…!?
「よし来たー!」
ネットで黒光りする魚を掬う。紛れもないクロダイだ。
「海督ー!釣ったかー!!」
「おう!案外でかいぞ!」
ヒラメ5枚と並べてみても、頭1つ分大きかった。あっちは見た感じ磯竿が満月にしなった気配は無いし、これは勝てるかも?
「ところで大夢!お前は釣れたか?」
すると、バケツから1匹の魚を取り出した。
「こいつを筆頭に同じのが15匹だ!」
それは…巨大なフグじゃないか。しかも15匹…。たまにリーダーが傷付いてるのもフグの仕業か?
「大可士ー。時間なるぞー。」
「あせるな。小魚の下に魚影が…。むっ…!!!」
空気を切る音。アワセが決まり、同時に美しい満月のように竿が曲がる。左右に巧みに竿を振り、魚を疲れさせる。
その時、海督達が戻ってきた。
「お…。」
大可士が器用にタモも操り、黒い魚体を手中にした。
「ヘイ、ゲット。」
「さすがだな、大可士!!」
さて、釣果発表か。どうなったかなぁ。
「んじゃ俺から発表しますね。まず…」
重そうなクーラーを開けて見せる。
「おお…。」
「ヒラメ8枚にクロダイ1匹です。」
「俺はもっと釣ったっすよ!」
「へぇー。見せて。」
「これです!!」
…これは…まぁ確かにすごいけど…。
「フグ25匹にキス3匹っす!!」
「食べられる魚が3匹しかいないじゃん…。しかもフグでかっ!」
「よし、次は俺が発表しよう。」
大可士がクロダイを1匹、高々と掲げる。
「39cmのクロダイだ。」
「まぁ、僕はハゼ12匹にキス2匹だけどね。」
「でかいですね…。」
「あれ?けどクロダイはどっちも1匹しか釣ってないから、大きさで勝負ってことでいいんだよね?」
「そうですね。メジャー貸してください。」
「いいぞ。」
大可士が釣り用メジャーを投げ渡す。海督はじっくりと魚体を測り、結果を口にする。
「35cmでした…。負けました、先輩。」
「だから言ったろう?」
「よし、んじゃぁ僕の家でこいつら捌いていこう。その方お前らの親も楽だろ?」
「ありがとうございます、斬さん!」
「よし、じゃあ僕の家に向かおう。」
こうして、楽しく土曜日は終わった。




