6話【スタッフの皆さん…ネタばらし…まだですか…?かれこれもう、2週間以上経ってます…。】
とりあえず旅程もあと僅かということでクラウディアによって処理されたダイアウルフの毛皮などを馬車に積み込み、旅を再開する。
さっきはパーティ構成おかしくね? とも思ったが……。
なるほど。
確かにクラウディア一人がいれば、ほとんどの危険は退けてしまえるだろう。
彼女に守ってもらえるのであれば、残り一日も問題はなさそうだ。
ただ、護衛にいくら強いメイドが付いていても俺のケツは誰も守ってくれないらしい。
もうしばらくこの痛みとの戦いは続きそうだ。
自分の身――尻――は自分で守らなくてはならない。
ということで、先程手に入ったオオカミの毛皮を尻の下に敷こうと手を伸ばすが、
「それはまだ、なめし等何の処理もしていない生の毛皮ですので、ご主人様のズボンが酷いことになりますよ?」
と言われ、そのまま無言で元の場所へ戻した。
それから2時間ほど走り続けたが、周りに見えてくるのは木、森、草。
たまになんかヤバそうな魔物。
あ……。
なんか人っぽいけど人じゃない、猿みたいな奴が直立してこっち見てる……。
ずっと俺と目が合ってて怖い。
なにあいつ。
命の危険とか、そういうのじゃない恐怖を感じる。
微動だにしないのに顔の向きだけはこちらに向けて、目線でずっと馬車を追いかけてくる。
やだ。
ほんとに怖い。
「どうかいたしましたか、ご主人様」
「ほら、あそこの猿みたいなのが……ずっとこっち見てて……」
「……? そんなもの、いませんけど」
「え。 じゃああれ何!? マジで怖いんですけど!」
「何が見えてるんですか?」
「知らないよ! こっちが知りたいよ!」
ずっと目が合い続けていたが、そのまま謎の存在は遠ざかっていき、やがて見えなくなった。
いや、この森マジで怖い。
「怖いのはご主人様の方ですよ」
「違うって!ほんとに見たんだって!」
そんなトラブルもありつつ、馬車はひたすらガタゴトと道を進んでいく。
「ご主人様。 あと少しで『領都アルン』に到着します。
良かったですね。長旅、お疲れ様でした」
「良かった……ほんとに良かった……」
もうすぐ、この長旅をようやく終えられる。
その解放感から、これからの自分の領地について前向きな思いを馳せる。
領都か。
どんな町なんだろう。
新しい領主としての俺を受け入れてくれるだろうか。
町の顔役の人たちにも挨拶して回らないといけないわけだから、忙しくなるだろうが最初が肝心だ。
俺にしては珍しく、やる気のある前向きな考えが頭を巡っていた。
――――――――――。
「俺、もう脳内で3回くらい領都に到着してるよ!! もうすぐ着くって言ったじゃん!
あれから、かれこれ二時間以上走ってるよ!」
「ですから、もうすぐですよ」
「それに、おかしいよね!? あれから見える景色もほとんど変わらないんだけど!?
領都アルンだっけ?
向かってるのって領『都』だろ!? 普通もっと城壁とか建物とかいっぱいあって人の行き来とかあるもんなんじゃないの?」
「アルンはアルヴァルト領最大の集落ですが。」
「集落……?今、集落って言ったか……?」
「集落です。」
「嘘だろ……」
聞き間違いではなかった。
なにが領都だ!
何が領主だよ!
これじゃ、嘘つき伯爵から貰った嘘つき村で村長さんやらされるだけじゃないか!
……ホントに涙出てきた。
そこから更に1時間ほど馬車に揺られた。
途中、小さな集落を一つ通り過ぎたが、領都ではないらしい。
畑仕事をしていた住民たちが手を止め、見慣れない馬車を物珍しそうに眺めていた。
領主だなんだと仰々しく名乗るのは恥ずかしかったため、軽く挨拶だけしてそのまま通り過ぎる。
きちんと自己紹介するのは明日以降でいいだろう。
まだ到着すらしていないのだ。
そして、いよいよ我が領都に到着する時がやってきた。
もうわかっていたが、領都と言っても城壁などはない。
領都とは名ばかりの、本当に田舎の集落といった感じだった。
もっと石造りの建物とかあっても良かったと思うんだが……。
大体は平屋の木造建築。
うーん。
分かってはいたけど……という感じ。
だが、悪いことばかりではない。
あれって、もしかして冒険者か?
いかにも異世界という光景に少しテンションが上がる。
剣を腰に差し、鎧や胸当てを身につけて闊歩する、鍛えられていそうな男たち。
浅黒い肌に眼帯をつけている者もいる。
目つきも悪い。
…………。
あれ?
俺がこの世界にやってきた時に戦ってた野盗の人たちと、あんまり変わらんな……。
まあ、冒険者といえば荒くれ者だし、こんなもんなのかな……。
見た目は置いておいて、意外と冒険者たちの人数も多い。
異世界の経済事情なんてさっぱりだが、これは集落の人口構成としては悪くないのではないだろうか。
規模は置いておいて、この土地には少なくとも働き盛りの年齢と肉体を持った人間が、「稼ぐ」目的でわざわざやって来るだけの価値があるということになる。
正直ここに来るまで、行ってみたらほとんどがヨボヨボのおじいちゃんおばあちゃんだったらどうしようと心配していたが、そこまで絶望的ではないようだ。
それに、こういった冒険者の相手をするためか、大きめの宿や飲食店もいくつか建っている。
まあ、『都』という字をこの場所に使っていいかは甚だ疑問だが、これなら少なくとも田舎の寂れた観光地くらいの規模はありそうだ。
そのまま町の景色を眺めながら、馬車は進んでいく。
途中、冒険者らしき人間たちがこちらを物珍しそうに眺めていた。
流石に露骨にこちらへガンを飛ばすような輩はいなかったが、一部の冒険者からはなんとなく好意的ではない視線を感じることもあった。
そうこうしているうちに、馬車がゆっくりと止まる。
外を見ると、少し大きめの宿泊施設のような建物が一つ建っていた。
ボロくはあるが、建物の意匠自体には少し工夫が凝らされていて、昔は結構客入りの良かった宿なんだろうなぁ、という印象だ。
しかし、ボロいことはボロい。
そこは如何ともしがたい。
あそこなんて結構でかい穴空いちゃってるし……。
今日は領主邸に泊まるんじゃなかったのか?
などと呑気なことを考えていたが、クラウディアから声がかかる。
「ご主人様、到着しました。
こちらが今後、ご主人様が生活なさる領主邸でございます。」
「……うそ。 これ、ボロ宿じゃなくて?」
「宿ではありません。領主邸です。 ボロくはありますからボロ領主邸と言ったところでしょうか?」
「そういうことを言ってるんじゃないんだよ! ここで俺暮らすの?
これからずっと!? 俺、領主だよ!?」
「ええ。ですから領主邸で生活していただきます。」
「さっきの宿の方が綺麗で立派だったじゃん! 領主邸ってもっとキラキラしててさぁ……」
俺のあまりの落胆ぶりに、クラウディアが僅かに困ったような表情を浮かべて口を開く。
「ご主人様の故郷の事は存じ上げませんが、過疎地の地方自治体など、こんなものです。 使わない公共の設備には、なかなか税金の投入も難しいのですよ。」
「嘘でもいいから一旦慰めてくれよ。 そんな現実的な話をしないでよ……。 ここはファンタジー世界なんだよ? 現実とは違うんだ」
「ファンタジー世界ではありませんよ。 ご主人様と違い、私はこの世界で生まれ育ちましたから、これが現実です。 ご主人様も今ここにいらっしゃる以上、ご主人様にとっても紛れもない現実では?」
「正論で返さないで。頼むから。」
「住めば都と言いますし。」
「都って言葉は普通に無理がある……。 もういい! 公金ジャブジャブ使って領主邸改築してやる! 税金は今後10倍!! 今日から俺は悪徳領主だ!」
「…………。成敗した方がいいですか?」
まあ、クラウディアが本気になったら簡単に成敗されてしまうので、もう黙ることにした。
まずは中を確認しよう。
この分だと、中身にも期待はできそうにないが…。
そこからは本当に落胆続きだった。
領主邸というだけあって部屋数自体はそれなりにあったが、まともに使えるのは執務室や寝室、来客を通すための応接室、それに税として納められた穀物などを保管する倉庫くらい。
それ以外の部屋は、ほとんどが雨漏りしていたり、床に穴が空いていたりして、まともに使えない状態だった。
まあ、まともに使えると言った部屋に関しても補修跡だらけで、環境がいいとは言えないが。
思うに、
使えないとどうにもならないところ以外は、金がかかるから放置!
って感じなんだろうな。
もう馬車で旅暮らしよりはマシだと思って暮らすしかない。
はぁ…………。
これが領地と爵位を下賜された英雄の暮らしってことで、本当にいいんですかね……。
クラウディアのテンションが突然変わって
「領主とか貴族とかぜ〜んぶ嘘でしたー!
こんな簡単に騙されるとかダッサぁ〜♡」
なんて言われた方がまだ信じられるわ…。




