3話【設定だけ見たら完璧。何も思い通りになってないけどね!】
あれからかなり酷い目に遭った。
現場でひたすら尋問されて、針のむしろ状態。
日本から来ましたと言ったところで、誰にも信じてもらえないどころか頭がおかしい扱いだった。
ただ、そのおかげというべきなのか、ここで薄々勘づいていた現実に確信を持つことになる。
ここはどこですか?と聞いたら「アルディア王国だろ。何言ってんだ?」 という反応。
やっぱそうだよね。異世界じゃん……。
これって……異世界転移ってやつ!!??
………とは思ったがなんで初っ端からこんな酷い展開になっているのか本当に納得がいかない。
その後も延々と尋問されたが埒が明かず、ずっと不審者扱い。
とはいえ、姫様を守ったというのもまた事実なわけで…手荒な真似はできないらしい。
これによって俺の首と胴体はなんとか繋がったままでいられるらしい。
どう考えてもおかしいと思いますけどね。
ちなみにグロリアスボア、トレイン容疑については盗賊との戦闘による騒ぎと血の匂いに誘われて寄ってきた可能性が高いらしい。
俺があの場にいなくても遅かれ早かれ乱入していた可能性が高いということで、なんとか疑いは晴れている。
とにかく全ての疑いが晴れたわけではないが一番ヤバそうなところは何とか回避できた形になったのは不幸中の幸いであったと思う。
その後、姫様を助けた功績があるということで一旦王城へと護送――もとい連行される運びとなった。
俺、この国のお姫様助けたんだよね?
なんで馬車の中で抜き身の剣を持った人が見張りに付いてるの?
それが恩人に対する態度かよ。
――――――――――。
王城に着いた。
これから俺は王様に謁見するらしい。
アニメとかで見たことある、5mくらいある豪華な両開きの巨大な扉の前で待たされていた。
あっちが扉を開けるまで待っていろとのこと。 今更ながら、極度の緊張で膝が震え始める。
これ、入った途端に弾劾裁判みたいになったらどうしよう……。
そんな嫌な想像をしていると、中の空気がシン……と静まり返ったのを感じた。
それから間もなく、目の前の扉がゆっくりと開いていく。
中からは警戒、侮蔑、疑念――様々なマイナスの感情を伴った視線が突き刺さってくる。
緊張で動けずにいると―― 「タカハシ=ユウト!!王の御前へ!」
一瞬怒ってるのかと思うほどの大声で名前を呼ばれ、ビクリとなる。
慌てて早歩きで王様の前へ出てゆき、立ち止まる。
「王の御前であるぞ!!!跪かぬか!!!」
「は、はい!!」
俺の近くに立っていた口ひげを生やしたゴツいおじさんに大声で怒鳴りつけられた事もあり、日本人の悲しき性で思わず正座してしまう。
そしてそのまま三つ指をついて、全力で額を擦り付けるように床に伏せる。
これでは奉行所で裁きを待つ罪人ではないか、俺は悪いことは何もしてないのに……。
「よいよい……。すまぬな、タカハシ=ユウト。お主もそう虐めてやるな。
こんなに萎縮させてしもうては話もできんだろうに……。」
「は!申し訳ございません!」
俺を怒鳴りつけてきたおっさんの返事に元気がありすぎて申し訳なさが感じ取れない…。
「さあ、面を上げるがよい。」
王様の許可を貰い恐る恐る顔を上げる。
凄い。
こんなのアニメでしか見たことない。
当たり前だけど「王様」だ。
王様が目の前にいる。
見た目からオーラから何から何までどこからどう見ても王様だ。
「して、タカハシ=ユウトよ。
儂の姪を救ったのは、お主で間違いないな?」
「いや。その……」
「事情は聞いておる。少なくとも状況を見る限り、我が姪を救ったのはお主であると、儂はそう思うておる。
なんでも…戦場にあった剣を自在に操り、あの巨大なグロリアスボアを一撃のもとに打ち倒したと。
相違ないか?」
嘘ではない。
状況を文字に起こすと、一応嘘ではないんだけど……。
ここの国って報連相ちゃんとできてる……?
「いや、まあ……はい……」
「ほっほっほっ……! なるほど、実によい。それでこそ英雄じゃ……。
これは褒美をやらんといかんのう! それに、それだけの力と勇気、闘争心。
まさに勇者と言っても差し支えあるまい!」
「いや、そんな……へへ……」
「そうじゃ、勇者タカハシよ。
儂の姪の婿にならぬか?
それだけの実力じゃ! このまま平民にしておくには勿体ない!
是非とも王族に名を連ね、この国の繁栄に協力してほしい! ゆくゆくは国の柱として名を残すがよかろう!」
「まあ! それは素晴らしいことですわ! 助けていただいたあの時から、実はわたくし……」
マジか!
やっぱり異世界転移じゃないか!!
こんな超展開アリかよ!?
金貨、メイドさん、豪華な生活、お姫様、地位、名誉。
これからの華々しい生活が頭の中を駆け巡る。
――――――――――。
「何をニヤニヤしているのですか?」
「へぁっ?」
ガタンッ!!
「ケツ、いってぇぇぇえええ……!」
隣からの抑揚ゼロな声で強引に現実へ引き戻される。
それと同時に馬車の車輪が路面の石に乗り上げたらしく一瞬尻が座席から浮き、そのまま重力に従って硬い木の座席へ打ち付けられた。
この痛みは一体何回目だろう。
とうに二桁を超えて久しい。
そろそろ100回目くらいに到達しそうだ。
「俺の華々しい異世界生活は!?」
そう声の主に尋ねると無表情のはずなのに「何を言ってるんだこいつは?」という感情が伝わってくるような実に器用な表情を浮かべてこちらを見た。
「馬車は揺れます。
慣れないと色々なところをぶつけてしまいますのでご注意ください。
頭でもぶつけましたか?」
言葉だけはこちらを気遣う内容なのに、表情にも声色にも一切心配というものが見えない。
「違うよ!頭なんてぶつけてない!これはどういうことなんだよ!!!ここどこだよ!」
「道中、何度もご説明したはずですが。
ここはアイゼンベルク伯爵領です。
昨日の時点で王都を出て5日でしたので今日は6日目です。
現在は伯爵領を抜け、ご主人様の領地へ向かっているところです。」
こちらの感情を一切意に介さないまま実に無味乾燥な回答が返ってくる。
こいつの名前は
クラウディア=ローゼンハイン
俺のメイドらしい。
らしいというのは俺が選んだわけではなく勝手に押し付けられたからだ。
初めて紹介された時は美人なメイドが付くと聞いてそりゃテンションも上がったさ。
それから2時間もしないうちに絶望することになるとは思わなかった。
とにかく感情も読めないし愛想も無ければ何故かすげー辛辣な正論しか吐かねぇでやんの。
出会って30分の未来のご主人様に対してあんなこと普通言うかね?思い出したくもない。
この世界のメイドってそういうの許されてるの?と思ったが、クラウディアを俺に引き合わせるため彼女を連れてきたメイド長的な人はしっかり焦っていたのでこいつがおかしいだけのようだ。
その上でそのまま押し付けて来るんだからこの国の偉い人もどんな神経してんのか…もうわからん。
この性格は絶対昨日今日始まったことじゃないんだからわかるでしょ!?
……って言うか、わかった上で俺に押し付けたのか…。
そしてそんな無感情メイドと二人で珍道中の真っ最中なわけだ。
御者のおっちゃんはいるけど。
ちなみに、さっきクラウディアが言ってたのは事実だ。
領地は貰った。
アイゼンベルク伯爵から、姫様を助けたことへの褒賞として。
男爵の爵位まで貰った。
ただし…貰った領地はクソ僻地らしい。
俺は全力で断ったさ。
絶対にやばい予感しかないじゃん。
というかそもそも領主なんて立場貰ったところで俺になんの得があるの?
早い話、市長さんとか県知事みたいなもんでしょ?そんな面倒くさそうな仕事突然押し付けられて喜ぶ奴なんて居るわけないだろ。
後腐れのない金だけ貰ってさようならってのが一番良かったはずなのに、領地とか爵位とか面倒くさそうな褒賞を断ろうとしたら、アイゼンベルク伯爵とかいうおっさんが「王族を救った褒賞を断るのか?」みたいな圧をかけてきやがって。
なんでお礼される立場の俺が脅されなきゃいけないんだよ!
それに俺が姫様助けた時現場に居たのも確か、このおっさんだったし。
俺の事取り調べしてきたのもこのおっさんだったよな!?
そもそもあの場の責任者お前だったんじゃねーの!?
なんで俺のおかげで何とかなってるのにそんな態度とられなきゃいけないんだよ! ……………とは思ったが…。
一応グロリアスボアの件は俺のせいじゃないと言われたがあれをあそこまでトレインしてしまった負い目もある。
結局強く反抗しきれず最終的にこんな事になってしまった。
あ。あと、姫様と結婚するとか勇者とか、全部嘘ね。
あれ全部俺の妄想だから。
この過酷な旅の中で俺に許された娯楽は「妄想と睡眠」のたった二つだけ。
そのうちの一つさえたまにこうして隣のメイドに邪魔されてしまう。
普通お前が一番の娯楽になるはずじゃないの?美人なメイドとキャッキャウフフしながら二人旅とかさ。
おかしいじゃん。
・身元もよく分からない奴が姫様を助けて突然貴族の仲間入り
・男爵の位を得て領地も貰った
・美人なメイドさんと二人きり
設定だけ見たら文句なしだよ!
「…クソ……もう俺寝るから! 着いたら起こして!」
「到着まではあと一週間ほどかかりますが。」
「…………。」
絶対違う! こんなのおかしいよ!




