23話【本日の領主業務実績『労働力の搾取・公的資金不正受給・カスタマーハラスメント・不正融資』】
アルンに戻った俺たちはその足で冒険者ギルドへ向かった。
「さて、大将。俺はもうこの辺まででええやろ。
仕事も終わったしアルトとニナ迎えに一旦家戻ってから酒場にでも飯食いがてら呑みに行ってくるわ。」
ギルドの目と鼻の先まで来るとキースが唐突にそんなことを言い出す。
「え?お前そんなに飲兵衛だったっけ?
っていうかもうここまで来たんだからお前も冒険者登録しとけよ。
色々と便利だろ。」
「いや、…その…。」
「……?………ああ!
そういえばお前懸賞金かかってたな!忘れてたわ悪い悪い!」
「しーー!しーー!アホ!こんな近場でそんな大きい声で!バレたらどないすんねん!…ってか忘れんなや!」
「ごめんごめん、いいよ。わかったわかった。登録は俺達だけで済ませておくから行ってこいよ。」
俺は懐からいくつかの硬貨を取り出してキースに握らせる。
「大将…これ…。」
「構わん。今日の日当だ、気にしなくていいぞ。3人で飯食ってこい。」
「……。日当って考えたら金額少なくないか?今日の内容考えたらこの倍は…。」
こいつ…。
「飯代!光熱費!家賃!身元保証!それもお前とアルトとニナの三人分!」
「…………。ほな、行ってきます!
おおきにやで!大将!」
現金なヤツめ、逃げやがったなあいつ。
まぁ、飯代は持ち出しだけど他の項目に関しては金のかかるもんじゃないからこれで納得してくれるんならボロ儲けなんだよなあ…。
とはいえキース達にとってもそんなに悪くない話のはずだ。
雨風しのげて食事も安定して摂れる。
しかも犯罪歴あっても領主の後ろ盾付きな訳だし。
まったく、もう少し感謝してくれてもいいと思うんだけどな。
「あの…、領主様…キースさんは…。」
「ああ、ちょっとワケありでな…。
まぁ、悪人ってわけじゃない。…ってのはエルナも話してみてわかるだろ?
だから今のは内緒な!
もし誰かに話したら…、触ったもの全てが土塊になる呪いをかけさせてもらう…。
お前は一生土塊に塗れて暮らすのだ…
食べることも飲むことも許されず、愛する者すらお前の抱擁で土塊と化し崩れ落ちてゆく恐怖に震えるがよい…。」
「ひゃ…ひゃいぃ…。」
無意味に怖がらせてみる。
ここまでの道中こういう事を何度かやっているが、人を疑うことを知らないのか、簡単に騙せてしまうので正直…面白い。
それと同時にすごく不安になる。
この娘はまともに生きていけるのだろうかと。
まあ行きずりでたまたま出会っただけの関係性なので正直余計なお世話なのだろうが…。
「残酷な内容の嘘を毎回吹き込むのはおやめ下さい。
どうしてそうも歪んだ発想がすぐに浮かぶのか感心すら覚えますね。」
ビクビクと怯えるエルナの頭を撫でるクラウディア。
なんかこいつエルナの事、妙に気に入ってないか?
エルナもエルナでちょっと懐いてきてるし…。
うちにはもうこれ以上人を養う余裕は無いんだ。
まかり間違ってコイツまで住むみたいな話になったら困るんだけど…。
犬猫じゃあるまいしそんなペットを拾うみたいに数を増やすなんて無理だぞ。
「う…、嘘なんですか…?」
「当たり前だろうが…。毎回騙され易すぎだろ…。」
これは王都じゃやっていけないだろうな…、アルンに来て正解だったかも…。
もぉぉ!というエルナの抗議の声を適当に受け流しながら冒険者ギルドの建物の中に入る。
もうそろそろ日の落ちる時間だからか受付のフロアの中は落ち着いていて静かなものだった。
冒険者達は皆報酬の詰まった財布を片手に酒場へと繰り出しているのかもしれない。
そのまま奥へと進んでいき受付嬢に話しかける。
「こんばんは。
素材の買取をお願いしたいのと、冒険者登録をお願いしたいんだけど。」
「あ…、はい!素材の買取ですね。
かしこまりました!
それと…冒険者登録は…えっと…失礼ですが、もしや最近新しくこの町へ来た領主様ですか…?」
なんでわかったんだ?と一瞬思ったが今日も今日とてクラウディアはメイド服だ。
今日は街道の整備があるから動きやすい格好で来なさいと言ったのに、決して譲らず結局メイド服で家を出ることになった。
そういや酒場でもこんなことあったな…。
「ああ、新しくこの街の領主になった高橋悠人だ。よろしく。」
「はい。よろしくお願いいたします。
私は冒険者ギルド、アルン出張所の受付をさせていただいております。
ルーニアと申します。
そちらのお嬢様の冒険者登録ですね?でしたらこちらにお名前のご記入を…」
領主が冒険者をやるなど普通はない事なのだろう。
勘違いしているようでエルナの方にだけ登録の用紙が差し出される。
「あ、いや、この子も登録してもらうんだけど俺も冒険者登録をしたくて…。」
「領主様が…ですか…?
失礼ですが何故そのような事を…?」
「さっき言った素材の買取ってのがパッカーウルフだったのでそれの討伐報奨金が欲しいんです。
それと、今後も討伐クエストや街道整備なんかの公共事業系のクエストも受注したくて…。」
「あ…えっと…、せっかく討伐していただいたのに大変申し訳ないのですが、報奨金は事前にクエストを受注していただかないと…。」
マジか…、じゃあこれ討伐し損って事…?
まぁ、俺じゃなくて殆どクラウディアが討伐したんだけど…。
「あと…、街道整備のクエストですよね…?
それは領主様の仕事なんじゃ…。」
「え…、じゃあ冒険者登録出来ないの?」
「領主様が冒険者登録された前例はありませんが、一応可能です…。
ただ…領内の公共事業の仕事を領主様がこなすのに、ギルドから報酬を出すのはちょっと…。
ここの元領主のアイゼンベルク伯爵様から補助金も出てますし…。」
は?おかしいだろ。
労働の対価を領主だからって受け取らせないつもりか?
報酬は労働者の権利だぞ!
「………………それっておかしくね?
補助金って言ったって俺が出してるわけじゃないよな?
アルヴァルト領主府から出てるんじゃなくてアイゼンベルク伯爵領主から出てるんだろ?
だったらもうそこに関しては俺、無関係じゃん。
アイゼンベルクのおっさんから補助金が出てておっさん本人が冒険者になってクエスト報酬貰うならおかしいのはわかるよ?
でも俺はその補助金に関してノータッチで無関係なわけじゃん?
だったら補助金を貰う立場としては他の冒険者とほぼ一緒だろ。」
「そ、そう言われましても…。
領主様がご自分の領地を整備するのにギルドから報酬を貰うというのはちょっと…」
「はぁ?おかしくないだろ!
それに俺は領主として仕事をした報酬をギルドに貰いたいんじゃなくて、冒険者として仕事をした報酬をギルドに貰いたいって言ってんだよ!」
「うぅ…、ちょっ、ちょっと所長を呼んできます!少々お待ちいただけますか?」
「おう!良いだろう、待とうじゃねーか!」
受付嬢が所長を呼びに行っている間ふと周りを見渡すとパラパラとその場に残っていた冒険者達全員がこちらを見ている。
ただし、その視線は敵意ではなく「なんだアイツ?」というものばかりだった。
異世界転移者は影に隠れて?
んなもん知るか!目立とうが何しようが対価を受け取るのは当然の権利だろうがよ!
俺はその時、頭に血が上ってしまっていた。
…と言うよりも、正確には自分の理屈は完璧だと思っていたし受付嬢を言い負かすのがだんだん気持ちよくなってきていた。
単純に、調子に乗ってしまっていたという事だ。
今にして思えば周りの冒険者達のあの目は完全に受付嬢にくってかかる悪質クレーマーを見る目だったのだろう。
しかも自分が領主だと名乗っている。
俺だったらまさか本当にそいつが領主だなんて思わないし完全に頭おかしい扱いすると思う。
しばらく周りの冒険者たちをねめつけていると奥から初老の穏やかそうな男が出てくる。
「これはこれは領主様。
本日は冒険者登録のためにこのアルン出張所に足をお運びいただいたそうで、誠にありがとうございます。
話はこのルーニアから聞かせていただきました。」
「で、どうだったんだよ!?」
「領主様のおっしゃりたい事はごもっともでございます。
勿論冒険者になって頂くのに領主も貴族も平民もありません。
ただし…先程ルーニアに仰っていた街道整備などの伯爵様の補助を含めた報奨金をお渡しするのは少し問題がございます…。」
「は?なんでだよ。
さっきも言ったけどきちんと街道の整備を進めて、『冒険者として』この領地の平和を守ろうって言うんだぞ。
何もクエスト報酬を不正受給しようって言うんじゃないんだ。
これは正当な報酬の受け取りだろうが。」
「なるほどなるほど、それもごもっとも。
しかしですな、これが認められるとなれば領主様は今後いくらでもクエストをご自分で発注し、ご自分で依頼を達成し、いくらでも報奨金を受け取ることが出来てしまいますな。」
「いや…でも実際それで領内の安全が確保されるんならいいんじゃねーの?
クエストの報奨金額を水増しするわけでもないし、適正に行われた仕事なら適正に報酬が支払われるべきだろ。
それはつまり必要な仕事だったってことだ。」
「ええ、当ギルドが領内の安全確保のための公共事業として判断し、適正に行われた発注であれば制度上なんら問題はありません。
それに、今現在領内における魔物被害や街道の状況は悪化の一途です。
領主様が発注された依頼であっても必要とあらば正式にクエストとして募集をかけさせていただきましょう。」
「おお、じゃあいいでしょ。
なんも問題ないじゃん。
俺も必要な依頼しかギルドに出さないつもりだぞ。
不必要なクエストを作り出してギルドから金をせしめようとは思ってないからな。」
「なるほど、我々も正直…こう言っては失礼ですがそこを気にしておりました。
そのように正しく制度を運用なされるのであれば我々も煩くは申し上げません。
ただし…、それでも一点問題がございます。」
問題…?ここまでのやり取りで一通りの事は解決出来たと思ったがまだ何かあるのか?
「まぁ、私共の問題と言うより領主様ご自身の問題と申しますか…。
補助金の支給実績は年に一度必ずアイゼンベルク伯爵様にご報告差し上げているのでございます。」
「………う゛。」
「当然領主様の受け取られた補助金に関しましても報告書に載ることになりますが、それでもよろしければ。」
俺は、事そこに至って初めて冷静になる。
頭のテッペンまで上った血が一気に引いていくのを感じた。
これは良くない。宜しくない。
公金を吸い上げていた事があの嘘つき伯爵にバレてしまっては、なかなか面倒なことになる。
「そ…それは宜しくないな…。」
「そうでしょう。
なので、今回の件は私はお勧めいたしません。」
………考え方を少し変えてみよう。
どの道ライオード商会が来るまでに街道整備はしなくてはいけない。
補助金が貰えるとか貰えないとか以前にやらなくてはいけない仕事としてそこに存在してしまっている。
それならいっその事、堂々と補助金貰ってライオード商会が来る分までの街道整備は進めてしまってはどうだろう?
万が一伯爵にバレて詰められたとして商会との交渉のため、地域復興のための短期間の出費として許してくれないだろうか?
領主が一般の冒険者に混じって街道整備する姿を見せたかったんです、って事にすれば言い訳としては70点くらい。
怒られはするかもしれないが大目玉まではいかないだろう。
少なくとも今後公金を吸い続ける計画よりは領地のためという言い訳が立ちやすい。
問題はその後。
ライオード商会との交渉事が終わったあとだ。
そこから先も俺は公金を吸い取るのをやめる気は無い。
ここはどうにかして方法を考えなければ。
まぁとりあえず、一旦ここは冒険者登録をしてしまおう。
これは確定だ。
どの道必要になるからな。
「…………いや、冒険者登録してくれ。
俺は冒険者になりたい。」
「よろしいのですか…?」
補助金の件を告げられてから、思考の海に沈んで黙っていた俺が突然冒険者登録を希望したものだから、所長は目を丸くしている。
「領主様がそうおっしゃるのであればこちらとしては拒否することはできませんので登録させていただきますが、あくまで私共は適正にクエストを発注し、適正に受注していただくだけですので悪しからず。」
「ああ、それで構わない。」
ギルドとしてもこちらの悪巧みに付き合ってやる気は無いぞとの意思表示だ。
もちろんそれで構わない。
俺は公正公平な人間だ。
不正なんてするわけない。
ルールを守って正しい冒険者生活を送らせてもらうだけだ。
その後冒険者手続きを済ませるため受付へと再度戻る。
「あ〜…えっと、ルーミア…さんだっけ?」
「は、はい!!」
「さっきはごめん…。
正直あんな事言って詰め寄ってもルーミアさんにはどうしようも出来ないことだったのに…。
ちょっと熱くなっちゃって…迷惑かけてごめんなさい…。」
「ああ…いえ、全然!大丈夫です。」
「ルーミアさんは…」
「ルーニアです。」
「え?」
「ルー『ニ』アです。」
「………。ごめんなさい。ルーニアさん。」
「はい!では、冒険者登録を始めましょう。」
もう怒ってなさそうだけどちょっと、してやったりみたいな笑みを浮かべている。
まぁ、俺が悪いんだけど俺が領主って事を考えたらこの対応…、いい性格してるわ…。
その後登録も無事に終わり晴れて俺は冒険者となった。
いよいよ異世界っぽくてちょっとテンションが上がった。
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛〜…領主様〜!
お金…お金貸してください〜!
手持ちがなくて冒険者登録できないですぅ〜!!」
こいつ…冒険者登録も出来ないくらい金なくて、今日どうするつもりだったんだろう…。
「はぁ………、わかったよ…、トイチな。」
「…………?
あ、ありがとうございます!!
やたぁ〜〜!!これで私も冒険者の仲間入りですね!!」
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