22話【メイドと以心伝心なことが、こんなに嫌な事だと思わなかった。】
「俺。冒険者になろうと思うんだ。俺と一緒に目くるめく冒険の旅に出よう!」
俺は以前から心に決めていた夢をクラウディア達に伝えた。
「そんな事よりパッカーウルフの解体、ご主人様も早く手伝ってくださいね。
解体の終わった死骸を埋める穴を掘っていただければそれで構いませんので。」
クラウディアが何の興味もなさそうに俺の夢の話を冷たくあしらってくる。
こっち見てすらいないんだけどあいつ。
「なんでだよ!幼気な少年の夢をそんな風にあしらったら俺グレちゃうよ!?
良いの!?なぁキース!俺のメイドひどいと思わないか!?」
「うーん・・・。メイドとしてはバッテンやけど大将やからなぁ…。
それに・・・夢?それさっき思いついたやろ?
さっき解体始めたあたりで大将が『あ!』って顔してるの見たで・・・。」
「・・・。ちがわい!!俺も冒険者になりたいの!」
「なんやまた悪巧みするつもりか知らんけど俺はパスや。
アルトとニナがおるのに今以上に危険なこと出来んわ。
大将もそもそも危ない事したないタイプやろ?俺も大将の考える事はもう分ってんねん。」
なんだよこいつら!俺の純粋な夢を否定するような事言いやがって。
さっきクラウディアが狼達を解体する様子を見て俺はこう思ったのだ。
これこのままギルドに持っていったら素材分の金しかくれない。
でも冒険者登録したら討伐クエスト分の報酬くれるんじゃね?と。
冒険者って素晴らしい、カッコイイなと。
「おそらく、先ほどわたくしが狼達を解体する様子を見て
ご主人様はこう思われたのでしょう。
これこのままギルドに持っていったら素材分の金しかくれない。
でも冒険者登録したら討伐クエスト分の報酬くれるんじゃね?と。」
「やめろよ!!・・・・・・・・・やめろよ!!」
「図星やんか・・・。」
脳内で思った事を一言一句そのままクラウディアに言い当てられて結構本気で怖かった。
「で、でも冒険者良いですよ!自分自身の知恵と勇気、力で道を切り開く!カッコイイじゃないですか!」
「素晴らしい。エルナ君には我がアルヴァルト領の名誉領民の地位を与えよう。冒険者の一人としてこれからも精進し給え。」
「やったぁぁぁ!私頑張ります!目指せSランク冒険者!」
こんな簡単な言葉で飛び跳ねて嬉しそうに喜ぶとは。
やはり子供よな。
おい、あんまり飛び跳ねんな。
胸揺れてるから。そういうのはよくない。
俺クリーンな領主目指してるからもうそろそろやめような。
「でも、自分冒険者登録もまだしてないやん。」
「あ・・・。そうでした・・・。」
先ほどまで飛び回っていたというのにいきなり意気消沈するエルナ。
もはや単純を通り越して情緒不安定なんじゃないの?この娘。
「喜びに水を差すなよキース。大人げないぞ。」
「そうやけど・・・。」
「じゃあ、俺が特別に領主権限でAランク冒険者から始めさせてあげよう!」
「ぃやったああぁ!」
うん。やっぱこいつなんかおかしいわ。
「いくら領主やからってそんなん出来るかい!
ってか、仮に出来たとしてこんな初心者がAランクなんてぶち込まれたら速攻死ぬわ。
Aランクからは拒否出来ん特別依頼が付いてきよるからそれに強制参加させられたら終わりやろなぁ…。」
「何それ。そんなんあんの?断ればいいじゃん。」
「あんな・・・、Aランクからは三か月に一度中央のギルドから
指名依頼が来んねん。それこなさんとあかんのよ。で、基本それは断れん。
義務や義務。めっちゃ強い魔物と強制的に戦わされるんやで。
この嬢ちゃんに出来ると思うか?」
「無理です・・・。」
「確かに…。地道にやらないとダメって事か…。
そういや、強い魔物と言えば・・・話を蒸し返すようだけどエルナってあんだけの魔物に囲まれててよくあそこまで持ち堪えたよな?駆け出し冒険者にしてはなんかおかしくないか?」
「何言ってるんですか!おかしくないです!私が才能あふれるすっごい新人だったって事じゃないですか!」
「ええ・・・だってさ普通にピンチになっていたとはいえ、あそこまで粘れるのっておかしくないか?あの狼の数見たら一瞬でぐちゃぐちゃにされてもおかしくなかっただろ…」
「こ、怖い事言わないでくださいよ、領主様!そ、それに私だって割と善戦してたんですからね!一匹も倒せはしなかったけど…」
エルナはプンスカ怒って否定しているが正直疑問だ。
実際問題あの数相手ではクラウディアだって多少時間がかかっていた。
一瞬で全滅させるなんてことは出来てなかったし。
「・・・・・・・・・確かに妙ですね。参考までに先ほどの状況になるまでの事を詳しくお伺いしても?」
「メイドのお姉さんまで・・・ひどいですよぉ!!わ、わかりましたよぉ…じゃあえっと・・・」
そこからエルナの冒険譚(笑)を聞かせてもらったんだが、正直ツッコミどころ満載だった。
冒険者として致命的に注意力が無い。あと、衝動的過ぎる…。
どうやらアルンに向かう途中、街道脇の森で一匹のパッカーウルフを見つけたらしい。
一匹なら自分でも倒せるかも!と思ったエルナは、そのまま狼を追いかけて森へと入っていったそうだ。
ところが、狼はどんどん森の奥へと進んでいき、気付いた頃には周囲を大量の狼に囲まれていたという。
……いや、どう考えても罠じゃねぇか。
なんで人間が魔物相手に釣り野伏せに遭ってんだよ・・・。
まぁ、ここまでは駆け出し冒険者の失敗談としてギリわからなくもない。
問題はその後だ。
なんでも、襲ってくる狼達にひたすら炎の魔術を撃ち続け、俺達が到着するまでなんとか持ち堪えていたらしい。
……あの数を?一人で?
いや、それは流石におかしくないか?
まぁ、俺もキースも魔術のことはからっきしなので、クラウディアにも意見を求めてみた。
どうやら普通の魔術師は、魔術を発動するために詠唱が必要らしい。
もちろん熟練者ならそのあたりも短縮出来るんだろうけど、エルナは冒険者登録すらしていない駆け出しだ。
要するにゲームで言うところの発動までのディレイがあるわけだ。
しかも一発撃ったからといって必ず当たるわけじゃない。
相手は動き回る狼だし、外したらその一発は無駄になる。
そう考えるとおかしくないか?
十匹近い狼に囲まれて、一匹狙って撃っている間にも別の奴が飛び掛かってくるわけだろ?
詠唱して、狙いを定めて、撃って……なんて悠長なことを繰り返していたら、とてもじゃないが間に合うとは思えない。
なのにエルナは、ひたすら炎の魔術で狼を怯ませるだけの遅延プレイのような立ち回りを続けて、持ちこたえていたらしい。
だから、俺らが来なかったらいずれ・・・って感じだったんだろうけどな…。
いや、そもそもそれどうやったんだよ・・・。
という事を素直にエルナにぶつけてみたところ・・・
「え?だって、あの狼に当てようと思って撃ったんですよ?だったら普通に当たりません?」
………いかん。
この世界の魔術に対してあまりにも無知すぎて、こいつの言ってることが正しいのか間違ってるかすら判断付かない。
クラウディアはどう判断するのだろうと、目配せすると・・・
「それはおかしいです。もちろん私は魔術に対して造詣が深いわけではありませんが一応魔術理論についてはある程度理解しているつもりです。
そのような適当な狙い方では明後日の方向に飛んで行ってしまうと思うのですが。当たれ、と思うだけで当てられるようなものではありませんよ。」
「えぇ? でも、ちゃんと当たりましたよ?というか、魔術使って外したことなんて人生で一回もありませんし。」
「……そうなのですか?」
「はい! 威力が弱くて全然倒れてくれなかったんですけど、当てるたびにちょっと怯んでくれて!その隙に次の魔術を使って、なんとか……。」
「いや、ちょっと待て。お前、撃った魔術が全部当たるって事?」
「え? そうですけど……。」
「…………。」
なんだろう。この子、なんか話が噛み合わないぞ……。
それはいくら何でも・・・ウソついてない?
「じゃあ、一回実際に撃ってみてくれない?」
「すみません……もう魔力がほとんど残ってなくて……。」
「あぁ……そう……。」
もうわからん・・・。
正直、今はエルナの魔術の事を確かめるすべも無いしここで時間を浪費していても仕方がない。
とりあえず狼たちの死骸を埋め終えた俺たちは領都に戻ることにした。
エルナの魔術については気になるが、それはまた今度だ。
まずは冒険者ギルドに行かないとな。
待ってろよ、俺の輝かしい冒険者(副収入)生活!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「面白かった!」「続きも読んでみたい!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆評価で応援していただけると嬉しいです。
皆様の応援が執筆の励みになります。




