21話【自己顕示欲は、時として人を窮地に陥れる。】
「おい!キース!なんか見えるか!?」
「木が生い茂ってて視界悪いからまだなんも見えん!でも人の足やったらパッカーウルフからはそんな長い事逃げられへんやろ!せやからまだやられてないとしたらもうすぐ出くわすと思う…!」
全力で走りながらもキースは的確に予想を立て、状況を判断している。
「あ!おった!大将!おったで!あそこの拓けてるところ!まずいわ、めっちゃ囲まれとるで・・・ってか、なんやほんまに子供やないか!いや、杖持ってる!魔術師や!」
「そ、そうか!そのまま一気に雪崩れ込め!こっちに注意を逸らすんだ!」
「了解や!おら!ウルフどもこっちや!かかってこいや!」
キースの挑発の声が聞こえ、頃合いかと思い叫ぶ。
「おい!そこの魔術師!こっちだ!俺の仲間が注意を逸らしてるうちにこっちに逃げて来い!」
「ふぇ・・・た、助かりまし・・・ぎゃあぁぁぁぁお尻が喋ってるぅぅぅ!!」
「違う!そうじゃなくて!あ・・・・・・。クラウディア、降ろして。」
「はい。」
恐れていた事が起きてしまった。
流石にこんなふうな驚かれ方をするとは思わなかったけど・・・。
まぁ、あの状況から悠長に降ろしてもらってカッコつけて・・・なんて流石に出来なかったがもろにケツからエントリーしてしまった事は普通に恥ずかしい。
「・・・・・・おい!そこの魔術師!こっちだ!俺の仲間が注意を逸らしてるうちにこっちに逃げて来い!」
「二回も言わずとも聞こえていると思いますが。」
「カッコ付かないだろうが。テイクツーだよ、テイクツー。」
「はぁ・・・?」
はぁ?じゃねぇよ!メイドがそんな口利いて良いわけないだろうが!
いや、もういいよ・・・。
気づいたらいつの間にか魔術師の子もこっちに来てたし。
もうグダグダだった。
颯爽と登場してピンチの冒険者を救うというミッションは無事失敗したようだ。
なんだこいつ、みたいな目で俺を見ないでくれ。
助けてやろうとしてるんだから・・・。
「まぁ・・・、もう良いです。クラウディアさん。あと、お願いします。」
「かしこまりました。」
そう言った瞬間クラウディアの姿が視界から消え失せた。
辺りには落ち葉が舞い、地面に踏み込みの跡であろう大穴が開いている。
森の土は柔らかいから、と言ったところでどんだけの力で踏み込んだらこんなに抉れるんだよ…。
基本俺にはクラウディアの動きは目では追いきれない。
それでもところどころ人間離れした動きをしていることはわかる。
ただ、流石に今回は数が多いため、討ち漏らしてこちらに来た時の事を考えると多少の防衛策は必要だ。
実際、こっちに意識向けてる奴もいるし。
ってわけで即席シールド~~~!と言えるかどうか微妙だが、そこらにある小石やら何やらを拾い上げて俺と魔術師の子を囲う様に、適当な場所に掲げ、そのまま固定していく。
初めて実戦で使った時は剣やら槍やらをいちいち特異術式使って持ち上げていたが考えてみればそんなことする必要もなかった。
物を動かす時は能力を使って、という固定観念に縛られていたが地面の砂利をザッと握って適当な高さにパラパラと砂利を撒く様に固定していけばいいだけだ。
しかもだ、こうすることで設置場所までは手で移動出来るので固定する事の方に集中出来るし、時間を割ける。
おかげでスムーズに事が進み、俺達の周りの空間にはパラパラと小さな小石が20個ほど浮いている。
ちなみにここがミソなのだが、あまり大きな石は固定しないでおいた。
無意識に認識出来てしまうようなサイズだと石の間を縫ってこっちまで飛び込まれてしまうかもしれない。
何もないと思って突っ込んできて顔面に一撃食らってくれれば御の字。
そうこうしていると狼達の数も減ってきた。
結構大きな群れだったので心配していたが何とかなりそうだ。
しっかし、相変わらず強いな・・・あのメイド。
メイドである必要あるのか…?
ちなみに今回は魔物の出没に備えて短剣は二本持っているらしい。
飛び掛かってくる獲物はその場から動かず切り伏せて、逃げようとする獲物には二本のうちの一本をぶん投げて動きを止め、一瞬で距離を詰めて首を落としたと思ったらいつの間にか刺さっていたはずの投げた短剣がもう手に握られている。
何あの戦い方・・・。
そのための二本持ちか…。
近距離×近距離=中距離
計算式も答えも全部間違ってる気がする…。
「やっ!そこです!!うわ!すご・・・!」
やたらとトリッキーな戦い方で見ててちょっと面白いのか魔術師の女の子が、暢気にもクラウディアの動きに歓声を上げている。
あと、見ていて思ったが意外とキースも戦えている。
クラウディアの足元にも及ばないが、一対一なら陽動くらいにはなっている。
まぁ、でも今回は数がなぁ…。
上手く位置取って複数を相手にしないようにしているがどうしても…あ…、おお、危ない。
間一髪クラウディアの投擲が決まって難を逃れる。
って・・・トラウマ発動してるじゃん…。
どうやらクラウディアのナイフがあいつのすぐ横に飛んできたところで心の中の開いてはいけない蓋が開いてしまったらしく明らかに動きが悪くなっている。
「キース!やばそうならこっちに逃げて来い!」
「何言ってんねん!このくらい余裕や!」
とは言うが俺の声を聞いた次の瞬間にはこちらに向かって走り出していた。
せめて言動一致させろよ…。
キースの背後に目をやると先ほどまで相手をしていた一匹が逃がすものかと後を追いかけてきている。
「キース!そこに石あるから!そこ!当たると痛いから避けろよ!」
「はぁ?石ぃ?何が!?石なんて、がぎゅっ・・・」
「あ!!キース!!」
「いっだあぁぁぁ!なんやこれ!」
指示が上手く伝わらないうちにキースはこちらに走ってきてしまいそのまま空中に浮かぶ小石に額をぶつけ、転倒する。
ぶつかる直前で気づいたらしく急ブレーキをかけてはいたようだが勢いを殺しきれなかったようだ・・・
直前まで引き付けて石を避けてもらい、狼に突っ込んできてもらう計画が…。
ってか、今のぶつかり方大丈夫か?結構な勢いでいってたけど…。
と、心配に気を取られていると既にキースを仕留めるべく跳躍していた狼がこちらに迫ってきている。
仕留める気満々だったらしくかなり滞空時間の長い跳躍だったようでキースという標的が視界から消えた後も方向転換は出来そうにない。
そして次の瞬間、ギャインッ!と狼の悲鳴が上がった。
え・・・?あ・・・あわわわわわ・・・これは・・・ごめん・・・ごめん・・・そこまでするつもりじゃ…
狼を見ると空中に固定された小石に頭から突っ込み、その小石が眼窩へ・・・これ以上はグロくて説明できない・・・。
空中で壮絶な悲鳴を上げながら悶え狂っている狼。
かと言ってこれを解除してしまっては俺が今度は襲われる。
これ以上見る事も聞く事も出来なくなって思わず耳を両手で塞ぎ、目を瞑ってしまう。
しばらくそうしているとひと際大きく、ギャイン!と狼の悲鳴が上がり静かになった。
目を開けると目の前にはクラウディアが立っていた。
「ご主人様。流石に魔物とはいえ、いたずらに苦しめるのは感心しませんが……まさか、楽しんでおられたのですか?」
クラウディアが珍しくドン引きしていた。
「ち、違う!事故なの!事故!今の見てたよな?わざとじゃ・・・」
何とか弁解しようと魔術師の女の子の方を見ると地面に倒れ伏し、泡を吹いて気絶していた。
これ、十中八九俺のせいだよな・・・。
だってさっきまで悠長に二人の戦いを見ながら「いけ!そこです!」とか散々騒いでたし・・・。
「可哀想に。ご主人様がこんなひどい事をするからですよ。」
クラウディアから可哀想なんて言葉初めて聞いた。
俺に言ってくれた事なんて一度もないのに!!
「いつつ・・・、まったくもう・・・どういうこっちゃねん…。」
「あ、起きたか。すまんキース。もっと早く言っとけば良かったな…。」
「なんで空中に石が・・・ひぃ・・・!な、なんやこれ!」
額を押さえながら立ち上がったキースが目の前のグロテスクな状態になっている狼の生首を見て悲鳴を上げる。
先ほどクラウディアが切り離したものだ。
弁明に必死で石の固定を解除するのを忘れていたので生首だけが空中に浮いている状態になっている。
ってかよく考えたらキースはたまたま額をぶつけたから良かったものの一歩間違えればこのオオカミと同じような状況になっていたかもしれないと思うと流石に肝が冷えた。
「キース。これはね・・・君の有り得たかもしれない未来の姿だ。」
「どういう事やねん!」
「いや・・・お前を追いかけて来てた狼がこっちに飛び掛かってきたんだけど、石が目に当たったらしくて・・・、そのまま眼窩の中に…まぁ、生首になってるのはクラウディアがとどめ刺すために切り離したんだけど。」
「え・・・?」
状況を理解したキースの顔が途端に青くなる。
「ごめん。次からマジで気を付ける…。事前に必ず伝えるようにします・・・。」
「ほんま洒落にならんで…。」
そんな話をしているとようやく魔術師の女の子の目が覚めたようだ。
もちろんそれを察して再度気絶したりしないよう、すぐさま石の固定を解除し、狼の生首を遠くへ放り投げる。
「う・・・、うう~ん・・・。はっ!狼さん!!!」
彼女はようやく悪い夢から目覚めたらしく、勢いよく上体を起こす。
目は恐怖で見開かれていたがその元凶たる生首はもうない。
「大丈夫か?何かうなされていたみたいだけど・・・。」
「あれ?あなたが拷問にかけていた狼は!?」
「狼?何を言っているんだい?そんなもの俺は見なかったが…。」
「その嘘に何の意味があんねん・・・。」
俺がメンタルケアしようとしてたのに早速バラしやがって!
「馬鹿!あれ見て気絶したんだから怯えさせたらいけないと思ってせっかく気使ったのに!」
「え・・・、じゃあ、やっぱり…。」
魔術師の子は怯えるようにしていつの間にかクラウディアの後ろへと身を隠す。
「いや!違うから!あれはわざとじゃないんだって!・・・ってか俺達は助けに来たの!で、あれは魔物が寄ってこないように障害物置いといたらたまたま・・・そんなに怯えんなよ!」
「まぁ、俺らは助けたって言えるかもしれんけど大将は・・・なぁ・・・?」
「客観的に見たらご主人様は、部下に敵の処理を任せて魔物を拷問して楽しんでいたように映ってしまいますね。」
「なんでだよ!」
「ウソウソ!冗談やって!からかっただけやん!そんな必死にならんでもえーやん!」
「まず、領主を揶揄う部下がどこにいんだよ…」
マジでこいつらさ・・・。最近俺で遊びすぎじゃない?
まぁ、クラウディアに関しては状況の説明しただけかもしれないけど…
「あ、えっと・・・。ありがとうございます・・・?助けてくれて・・・。わ、私エルナって言います!故郷の村から出てきて旅をしてちぇ・・・あわわ噛んじゃった!」
テンプレみたいな自己紹介をしてもらった上、更にこんなテンプレみたいな噛み方する子いる?初めて見たわ。異世界怖い。
「しっかし、あんな数の狼に突っ込んでくとか無謀すぎないか・・・?
いくら冒険者と言えど流石に一人であれは無理だろ…。」
「あはは・・・そうですよね。最初は一匹だったんでこれなら私でもやれるかなと思って追いかけてみたんですけど、気付いたらすごい数の群れに囲まれちゃって・・・、ほんとにもうダメかと思いました。」
「見たところ経験もまだ浅いみたいやし、無理したらあかんで。
冒険者ってのは無謀な事したらあかんねん。一人の無謀はみんなの危険につながるんやで。まぁ、俺は冒険者やないけど・・・。」
「あ~、えっと。私も実は冒険者じゃなくて・・・冒険者志望・・・?みたいな・・・?」
「は?じゃあ自分、クエストとかでもなくあんな無茶したん!?
冒険者でもないのに!?なんのために!?」
「あ~、えっと・・・冒険者登録の前に魔物狩って持っていったら多少箔が付くかなって・・・。すごい新人が来たぞ~、みたいな…。あはは・・・。」
「お前・・・ある意味凄いな…。」
なんでこんなふんわり系のロリ巨乳みたいな見た目と喋り方してて自己顕示欲と根拠のない自信満載なんだよ…。
怖いのは異世界じゃなくてこいつ単体だった…。
その後こちら側もそれぞれ軽く自己紹介を済ませた後、エルナをアルンに送り届けるという話になった。
その前にこの狩った大量の狼達はどうするかという話になり、結局数匹分の毛皮と牙だけ持って帰ることになった。
本当は全頭分持って帰りたいところだったが数が多く、全て処理していては時間がかかるという事で泣く泣く諦める事となった。
で、問題はこの処理の最中に思いついたことなんだが・・・、これ、俺も冒険者登録したらクエスト報酬貰えるんじゃね?という事。
素材は勿体ないけど、狼の群れを討伐したわけだから当然報酬も支払われるべきだろう。
冒険者登録していなければこの大して高く売れもしないような素材のみ。
冒険者登録すればそれプラスでクエスト報酬も支払われることになるはずだ。
どちらが得かは誰でもわかる事。
そうと決まれば俺も今日から冒険者になろう!
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