19話【『特異術式』こういうワードって男の子のロマンだよね。俺にはロマンなんてなかったわけだけど・・・。】
キース、クラウディアの二人を連れ立ってアルン近くの街道を散策してみる。
目的としては、街道の路面状況の確認及び改善。
魔物の出現状況の調査と必要であればその場での間引きだ。
「とりあえず、今日は街道の状態を調査しつつ魔物の出現状況も調べる。
って事でキースは先頭、クラウディアは俺の後ろに控えているように。」
「自分を守ることに関してはよう頭回るわ…大将。
リーダーやからって絶対前に行こうとせんしな。
一瞬で安全な位置の最適解出しよる…。」
「実際これが一番の正解ではあります。
キースが危機感知及び索敵、わたくしが全体の状況を視界に捉えながら移動。
ご主人様は何もしない。」
「何もしないってなんだよ!
君達なんでそうやってトゲのある言い方するかなぁ!?
俺だって指示出したりするから!」
「まぁまぁ、ええやんか。
ここは姐さんに任せときましょ。
実際俺も危なそうな事は多少知らせられるけど魔物との戦闘になったらたいして役にも立てへんやろし。」
いかん。最近ご主人様としての威厳が明らかに無くなっている気がする。
ここらで一発尊敬されるようなところを見せておいた方がいいのか?と悩み始めたところーーー
「あー、これ完全に道塞いどるやんか…。まだ数日やな…こんなぶっとい木何本も倒すような魔物おったか?だいぶ危ないんとちゃう?」
街道沿いにあった木が10本近く倒れている。
アルンへ俺がやってきた時の道中ではこんな事になっていた記憶はないため、キースの言う通りここ数日の話なのだろうが…。
「この規模だと相当デカいんじゃないか?普通にやばい気がするんだけど。離れた方が良くない?」
「これはおそらくルーターボアの仕業かと。
巨大な猪ですね。
動きは緩慢ですが力は強いので時折こうして掘り返して木の根や虫などを食べるのです。
通常であれば一箇所に留まる習性はありませんから恐らくもうこの付近には居ないでしょうから危険度は低いかと。」
そういえばクラウディアはアルンに向かう道中から割とこの辺の魔物事情は把握してるっぽかったな。
この辺の生態系とか割と勉強してきたって言ってた気がするし、こいつが言うんならまぁそうなんだろう。
違ってたとしてもどの道クラウディアさん頼みになるからどうにもならないわけだけど…。
「まぁ、姐さんが大丈夫や言うとるんならまあ信用させてもらいます。
で、問題はその魔物がやらかした後片付けの方やなぁ。
これどうするん?結構手間も人手も要るで。
どうするにしてもギルドに一旦は報告せんと…」
遂に俺の力をこの不敬な部下達に見せつける時が来たようだ。
というか俺自身も最近力を使う機会も無かったので悲しい事に自分の力を忘れかけていた。
俺は念じただけで物を動かす事が出来るのだ。
「いや、俺が退かすわ。」
「え…、大将何言うてますのん?
俺より華奢なくらいの体型なんやから!
そんな嘘付いたらあかんで〜。
こんな大木退かせるわけ……って、うそ…、うそうそ…、ありえへんって…ってか一本だけやなくて同時に…そんな…」
俺はご主人様に対する敬意の足りない態度を取り続けるキースを横目に街道に倒れ重なった巨木を複数同時にゆっくりと持ち上げ、動かしてゆく。
そしてそのまま複数の木を街道から離れた林の奥へと移動させるとその場で力を解除する。
途端に複数の倒木が轟音と共に地面に落ちてゆく。
「あ……、あ……た、大将!あれなんなん!?俺あんな魔術使えるなんて聞いてへんぞ!」
「どうだ?ようやく俺の偉大さがわかったか?わかったら今後はあまり不敬な態度をーーー」
キースに対しドヤ顔しているとクラウディアが鬼気迫る雰囲気を纏いながらこちらに距離を詰めてくる。
そして俺は両肩をがっしりと掴まれてしまった。
「ご主人様、それは特異術式では…?」
「は?特異…え、なにそれ?」
「特異術式です。
ご主人様は魔術をお使いになれたのですか?」
そういえば、なんかイノシシのトレイン事件の時助けたお姫様も魔術師がどうとか…。
「いや、魔術とか使えないよ。使えるのはこのわけのわからん力だけだし…。」
「特異術式単体ですか…?どういう事でしょうか?
他の魔術は使えないという事ですか…?」
「う…うん。っていうか特異術式って何?」
「ご主人様…、余程苦労なさったのですね…。」
どういう事か、わけがわからない。
なんでクラウディアの奴、俺の事を可哀想な目で見てんの?
それにキースまで…。
「大将…、あんた苦労したんやな…。
なんや俺も苦労したっちゃ苦労したけど大将には敵わなかったようやな…。
大将に比べれば俺は幸せもんなのかもしれへんなぁ…」
「いや、だからわけわかんねぇっての。何?どういう事?
特異術式ってなんだよ。
さっきからわけわかんねえっての。」
「特異術式とは通常魔道の極致に至ったものが稀に発現する固有の術式です。
言わばオリジナルの魔術ですね。
ですが、稀に魔術を極めた者でなくても発現するケースがあります。
理は解明されておりませんが…そういった魔道の頂きに至っていない者が特異術式を獲得する際は何か強烈な経験や臨死体験、トラウマ等によって偶発的に獲得する場合があると聞いたことがあります。
私も魔術は専門ではありませんが多少の知識は持ち合わせております。
ご主人様のその力は既存の術式には当てはまっている様子がございません。
そうなれば、ご主人様は何か余程の事情の末その力を手に入れたのではないかと…。
ご主人様の年齢で特異術式を獲得するなど…流石の私も同情を禁じえませんね。
何か余程の事情があったのでは…?」
………。
心当たりはある…。
「心当たりはある…。」
「やっぱりな…。
大将の事勘違いしとったわ…。
普段の軽薄な態度からは想像も出来んくらいの心の傷を抱えていたなんてなぁ…。」
「森の中で目が覚めて、数時間彷徨い歩いて…」
「う゛ん。うん…ぐす…」
「腹が減って…死にそうになって…」
「う゛ん……、それでどないしたんや…」
「美味しそうな木の実を見つけて…まぁ、今思えばあれはリーンの実だったんだろうな…で、リーンの実が取れなくて泣きそうになりながらジャンプしてたら…勝手に落ちてきて…気付いたら…この特異術式?って奴が…。」
「………?
ではご主人様は空腹でリーンの実が食べたかっただけの事で特異術式を獲得されたのですか?
………馬鹿なんですか?」
「馬鹿じゃねぇよ!
危機的状況だったんだよ!
5時間も歩いてフラフラだったんだぞ!喉渇くし遭難してて死ぬかと思ったんだぞ!」
「ふざけんなや!俺らなんか3日もなんも食えへんかった事あるんやぞ!甘えんな!アホ!そんなんで特異術式覚えられたらみんな使えるようなっとるわ!」
「アホじゃない!俺にとっては突然知らん森に放り出されて遭難しかかって死にかかったんだから十分ヤバい体験だろうが!」
「じゃぁ、客観的に見て俺やニナやアルトの方が大変じゃなかった言うんか!?」
「………。ごめんなさい…。
で、でも…俺は大変だと思ったし…辛かったし…。
そりゃお前らの方が大変だっただろうけどさ…。
そんな事言われても…。
それに…こんなの、はずれスキルだろ!ゴミだよゴミ!こんな魔物がわんさかいるような土地なのに戦えないスキルなんだぞ!」
「は?何言っとるん?
ゴミなわけあるかいな。
無理してたとはいえこの大きさの木をこの本数一遍にって普通ありえんやろ。」
「ん?無理なんてしてないぞ?
持ち上げようと思ったらまだ本数的に余裕あるし。」
「いやいや、大将。
流石にそれはパチこきすぎやって。
めっちゃ辛そうにゆっくり持ち上げてたやん。
良いとこ見せよ思って無理して持ち上げたんちゃうんかい!
まぁ、無理してたとしても凄い力なんやから必要以上に自分を大きく見せようとすんなや…。恥ずかしいでそれ?」
そういう事か…。
なんか話が噛み合わないと思ったらそういう事なんだな…。
キースはこの特異術式の真の力を知らないようだ…。
なら教えてやろう。
恐れ慄くが良い。
「お前さ…、俺の力が足りないからゆっくり持ち上げてると思ってる…?
頑張って無理してギリギリで持ち上げてると…そう思ってるってことか?」
「そうやろ。何言っとんねん。」
「この力な…、これ以上早く動かせないの…。」
「は…?どういう事や…?」
「だからな。物体を動かす速度に制限があってこれ以上早く持ち上げたり、動かしたり出来ないんだ…。
多分、キースはこの力って物体を自由自在にビュンビュン飛ばしたり出来る力だと思ってただろ?」
「え…、嘘やん…じゃあ、土魔法みたいに石とか飛ばしてーー」
「…もう試したよ…。この力に気付いてから5分後くらいにワクワクで試したさ…、ほらこれだろ…?」
俺は適当なサイズの石を宙に浮かせると、キースの方へ指で鉄砲の形を作りわざと格好つけたポーズでストーンバレット!と技名を叫ぶ。
すると、宙に浮いた石ころはキースの方へ向かってナメクジの這うようなスピードで飛んでゆく。
そして、俺が適当な所で力を解除すると全く勢いも無く進んでいたため慣性の力も無くその場で情けなくコロリと地面に落ちていった。
「……。
こんな、こんなかっこ悪い特異術式があってたまるかいな…。」
「では、ご主人様がグロリアスボアと戦った際に使用した魔術というのは…」
「ああ…、それね。
もちろんこの力だよ。
最初はあのお姫様も古の大賢者の再臨だとか何とか言って騒いでたよ…。
戦場にあった剣を浮かばせてたからね。
ビュンビュン剣を振り回すとでも思ってたんだろうよ…
結果、これ。剣を空中に固定して馬鹿な猪がそこに突っ込んで来ただけ…。
暫くして王城で一瞬目があった時ゴミを見るような視線を向けられたよ。
なにかに目覚めてしまいそうだった。
ハハ…なんか凄い能力に目覚めたと思ったらこれだよ…カッコ悪いよな……ハハハ…」
上手く笑えている気はしない。
気付けば頬を涙が伝っていた。
「……そうですか。
ですが、たかが5時間の空腹と遭難程度の苦労で手に入れた能力と考えたら破格では?
あまり人生を舐めない方が良いですよ?」
「そうやな。かっこいい事出来へんだけで能力としては破格やろ。
普通に有用やろ。
普通特異術式って壮絶な体験の末に人生の転換点として手に入れるようなものなんやで。
冷静になりや。あと人生舐めんな。
その程度の苦労でなんでも思い通りいく思うとったら大間違いやで。」
「・・・はい。」
結果的にますます2人からの評価が下がった気がする。
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