18話【上下関係というのは、やはり最初が肝心なわけで…。】
結局あれから3日後個人の行商人が来たようだった。
様子見がてら、夕飯を酒場に買いに来てみるとまだまだ早い時間だと言うのに席がほぼ満席になっていた。
ここまで人気になればしばらくはブームも続きそうで安心した。
正直俺も食いたかったが、在庫もまだまだ十分でないという事で仕掛け人の俺が顧客の分を奪うわけにも行かない。
今日のところは飯だけ貰って退散するとしよう、とそのまま帰ったのが昨日の話。
で、今日は何をしているかと言うとライオード商会に上手く渡りをつけるためヘルマンを屋敷に呼び出して作戦会議。
当面の間ヘルマンには相談役を務めてもらう事になっている。
せっかく代官業務から解放されたというのに毎度の如く呼び出してしまい、申し訳ない限りではあるが、現状のアルンを一番良く知っている彼が居ないと話が前に進まないのだ。
「ってわけで、ライオード商会に渡りをつけるための材料は準備出来た形になるんだけど俺はその商隊の代表者の名前とかどんな奴なのかよく知らんのよ。
知ってる範囲で良いからその辺の情報を教えてくれ。」
「なるほど……。以前、領主様がお話しされていたギルドの輸送業を請け負うという件……。
ようやく、何をなさろうとしていたのか分かりました。」
「え…?何が…?」
補助金を吸い取る事に関して、分かりやすく明言はしてないが割と意図が伝わるように触れて話してしまっている。
反応を見る限りちょっと心証良くなさそうで内心失敗したかなと思ったので、もしもの場合の逃げ道を確保するため一度とぼけさせてもらった。
てっきりヘルマンも乗ってきてくれるかな、とも思ったが急ぎすぎたかもしれない。
まぁまだ犯罪の計画を立てただけで実行してないわけだから如何様にでもここから逃げられるわけだけど。
「はぁ…かしこまりました。
しかし、あれから数日でよくそんな仕組みを思いつかれましたな…。
そのなんとかという料理の事も伯爵様の補助金利用の事も…。
領主様は謀の才能がお有りと言いますか、なんと言いますか…。」
言葉的には褒めているが表情を見る限りどちらかと言えば呆れに近い感情が読み取れてしまう。
「内容としては正直グレーですからなぁ……。本来であればお止めすべきなのでしょうが、私はもう代官代理ではございません。
伯爵様へ直接ご報告する立場でもありませんし、何より今この領地を治めておられるのは領主様ですからな……。
私のような一領民が領主様にご意見を申し上げるというのも不敬に当たります。
というわけで、私は本日は何も話しておりませぬ。
本日はたまたま領主様に食事に誘われただけでございます。」
こいつ意外と汚いな…。
俺が領主様だとかなんだとか調子いい事言ってるけどこのまま俺が何も政策打ち出さなかったら前代官の二の舞で失踪しそうだからとりあえずやらせてみるか…ってところだろ…。
代官職に戻るのはよほど嫌らしい。
その上でしっかり、俺関係ないからね、俺はダメだって言ったからね?みたいな逃げ道も残そうとしてやがる。
「わかったよ…。
俺は俺のためにやってるだけだから…。
フライドポテトが食べたくて、油をたくさん持って来てもらえば俺も好きな料理が食べられて嬉しいなぁ〜…って。」
「それはそれは。
良い考えでございますな。
油を使って領民のために美味しい料理を作れるようにしてくださるとはご立派な領主様でございます。」
俺が意図を理解した、とアピールしたところでヘルマンが満面の笑みで大きく頷く。
油の件は協力する。
ただし補助金をチューチューする部分に関してはお前が勝手に考えた事だからこっちには関係ない、知った上で黙っといてやるけどこちらに相談を持ち掛けられても困るって所だろう。
「じゃあ早速ライオード商会に関して教えてくれ。」
お互い意図には気づいているが、俺達は暗黙の了解のうちに話を進めるのだった。
ーーーーーーーーー。
とりあえず、アルンにやってくるライオード商会について教えてもらった情報をまとめてみる。
アルンにやってくる商隊の代表はウォルターという男が務めているらしい。
てっきり代表って言うからそこそこ年齢行ってるのかと思ったらまだ30代半ばだそうだ。
ただ、商隊長歴としては意外と10年と長く、その前の一般の商会員として出入りしていた期間も合わせればアルヴァルト領との付き合いは20年近くなるベテランだそうだ。
この、アルヴァルト領という立地の特殊性から担当者をコロコロ変えることが出来ないと言うのが理由らしい。
まぁ、考えてみたらそれなりにこの土地の事を熟知してないとかなり危険な現場にはなる。
魔物だらけだしな。
やりたがる奴も、任せられる奴も中々居ないんだろう。
扱う商材としては領内で使う物資のほぼ全てと言っていい。
一般の領民のための生活用品や食料から、冒険者のための装備類、ポーション等に至るまで実に様々。
正直、このアルヴァルト領という土地の生活にかかる物資はこの商会の商隊にほとんど依存していると言っても過言では無い。
他の個人の行商人も居ることは居るが、ライオード商会の隙間を縫っておこぼれに与かるように在庫が不足しがちな商品を少量運んでいる程度である。
まぁ、そこから個人の行商人がこの土地で楯突いて商圏を広げようとしようもんならライオード商会に目をつけられかねないからってのもあるのかもしれないが…。
それでもコソコソと隙間を縫って行商にやってくる行商人が居るのは、この土地の商売に関しての税が安いからだ。
わざわざこんな危険な魔物の跋扈する僻地までやってきてくれる行商人にまで税金をまともにかけてしまったら当然商品を売りに来ようという人間もいなくなる。
ここまでわざわざ来るのは遠いし、隣国に接してはいるが、何処かへの行商の通り道にもなりやしない。
この領地の危険な森を抜けたところでぶち当たるのは隣の国とを隔てる巨大な山脈であり、通常の旅や行き来では通ることが想定されていないため実質行き止まりなのだ。
だから、ここへ行商に来てもらう為の旨味として税金の優遇措置がある。
しかし改めて見るとこの領地…全ての事が伯爵の負担や損失前提で回ってやがる…。
そりゃこんな土地誰かに押し付けたくなるわな…。
かと言って俺が当事者になってもいいなんてこと絶対ないから。
領主を押し付けられたのが他の誰かなら心から同情してやったが、自分が当事者になったなら話が違うだろうが。
「じゃあとりあえず、このウォルターとかいう商隊長を上手い事誘えれば良いわけか。
正直失敗出来ないなぁ…断られたらどうしよ…。」
「そうですなぁ。
あとは、これ以上の利益をチラつかせるか…将来的な利益を約束するか…。
誠意は…あの方は認めてくれはするでしょうがそれ一本では動かないでしょうな。やはり商売人ですから。」
「まぁ、そうだよなぁ…。
これ以上の利益とか将来的な利益は、一応方法は考えてあるけどこの領地の人口の問題で近い将来頭打ちになりそうだし…。
あと、商人に対する誠意って…イコール利益なんじゃねーの?」
「ふむ…。ああ、ではこうしてはいかがですか?
以前領主様の方でも街道の整備を行うと仰っておりましたが、商隊が来るまでにその仕事に着手されては如何ですか?
商隊の旅の安全を図る事になりますし、この地の領主であるあなたがそれをやるというのは紛れもない誠意になるのでは?
確かに商人にとって利益は大事ですが、それと同時に儲けるための苦労は少しでも少ない方があちらも嬉しいでしょうから。」
「確かにそうだな…。
正直そこまで頭回ってなかったわ。
実務的な面ではもちろん街道の整備は必要になるけど取り掛かるだけでひとまずアピールになり、それが交渉材料になるわけか。
これから物流を増やそうって時に道がボコボコだったり魔物と頻繁に遭遇するような道じゃ話にならないもんな。
少なくとも改善しようとしてる様子くらいは見せないとだしな。アピールは大事だ。」
領都までの道程の厳しさは俺も身をもって知っている。
ここを改善する事で今後ライオード商会だけじゃなく、様々な人や物の流れが出来れば良いなとも思う。
まぁ金の無い今、やるべき事なのか?と言われたら微妙なところではあるが領民の安全な往来の為でもあるので他に選択肢が無いのならやっておいて損は無い。
実際ライオード商会が来るまでまだ10日近くあるわけで、全部整備するなんて事は無理だろうけど今後の街道整備の現場調査位は出来るはずだ。
軽く泥濘や穴ぼこを均しといてやるだけでもだいぶ違うはずだ。
今後の方針が決まったところでヘルマンとは別れ、キースとクラウディアの2人を呼び出す。
「直近の方針が決まったぞ。
ライオード商会が来るまでの間で街道の路面状況の調査及び整備だな。」
「かしこまりました。」
「ほーん…。フライドポテトの件はええのん?大事なんやろ?」
「ああ、まぁ大事だな。
でも、昨日見た限り大丈夫そうだったしそれより商隊を受け入れる準備をしないと。」
「でも、市場調査って大事やん?
どんな客が頼んでどのくらい商品が出てるか、毎日通ったら違う意見も出てくるかもしれへんやろ?
今から俺が行ってくるから任せてくれや。
斥候としての初仕事や。
バッチリ店に溶け込んだるで!
覆面潜入調査や!
そういう仕事のために俺を雇ったって、よーわかってるから。この俺に任しとき!
せやから大将!な!?わかるやろ…?」
なんかやけにフライドポテトの話題を振ってくると思ったら…こいつ…。
市場調査とかなんとか抜かしながら、単に主人の金で飲みに行きたいとのたまう始末に呆れてしまう。
「…はぁ…お前なぁ…。
街の酒場に潜入してなんの意味がある?酒場で何を斥候するんだよ。
世界一簡単な仕事だな…。
それと、お前じゃ覆面になんないから…。
言っとくけどあの後大変だったんだからな?
酔っ払った挙句突然吐きそうとか言って店の中で騒ぎ始めるし…。
お前じゃ完全に顔割れてるから覆面にならんだろ。
この間、飲みすぎて吐きそうとか何とか騒いでた胡散臭そうな人だーって一発でバレるでしょ。
ていうかお前もポテト食って酒飲みたいだけだろーが。
白々しいアピールすんなよ!」
「胡散臭くないわい!
ちょっとくらいええやん!これも立派な斥候の仕事やろうがい!
敵情視察やろ!?」
「敵じゃねぇから!
酒場は味方だろうが!
俺たちの協力者なの!
だから斥候役のお前に街道の現場調査しに行くぞって言ってんだよ!
そっちの方がよっぽどちゃんとした斥候の仕事だろうが!
馬鹿なこと言ってねーでお前も俺達と一緒に来いっての。」
「そんな…大将らと仕事終わってからやったら遅くなってしまうやんか!
早いうちに行かんと席埋まってまう!なぁ!大将お願い!ほんまに!」
こいつ…流石にしつこいな…。
「コラ!キース!大人しくしないとクラウディアさんに叱ってもらうよ!!」
「…………。クソ…しゃーないわ…。
……お二人について行きます。」
「なんなんだよ…お前…。
お前ら完全に格付け完了してるんだな…。」
「はい。」
はい。は良いけどなんで主人よりメイドのお前がキースにとって格上なの?
じゃあ俺もキースの反対側の肩刺さないとダメか?
俺は納得のいかないイラつきを抱え、2人を連れ立って街道の調査へ向かった。
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