17話【食い物のブームって、結局味よりどうやって流行らせるかが大事なんだよね。】
「よし!お前ら出来たぞ! これがこの領地の未来を変える新作料理だ!さあ!食ってみろ!」
「これ芋か…?大将が自信満々で厨房入っていったからなんや凄い料理でも出てくるんかと思たらえらい地味やなぁ…。」
キースが期待していた物と違う…と露骨にガッカリしたような表情を浮かべ皿の中のポテトを見る。
「芋だよ。芋だからいいんだよ。 安く簡単に作れるし量産も出来る。
だからこそ流行りやすい。 流行ればそれだけ需要が伸びるからな。」
俺の力説をよそにたいして興味なさげな、「ほーん…」という気のない返事をこぼしながらポテトを1本口に運ぶ。 サクリ、という小気味の良い音がしてキースの動きが止まった。
その後たっぷり5秒ほど静止してから口元だけが再起動し、モグモグと動き出す。
「アカン…。アカンわこれ…これはアカンで…」
アカン、アカンと呟きながら取り憑かれたように一定のペースで口の中にフライドポテトが消えていく。
おい、食うの早すぎるだろ。 そんなに量ないんだから。 あとニナとアルトにも食わせろ。
「ゴクン…。さ、酒…ング…ング……ゴク…………くっ……くぅぅぅぅああ゛あ゛あ゛!!美味い!!なんやこれ!こんなん出したらあかんて!無限に飲めてまうやんけ!おーい!おばちゃん!酒もう一杯持ってきてーな!」
それを見ていた姉弟2人も皿の中のポテトに手を付ける。
「フー…フー…ホフ……ぁふい…あっつい、けどおいしい!」
「カリカリで美味しい…!僕これもっと食べたい…!」
子供二人にももちろん評判は上々なようだ。
「どうだ?クラウディア、美味いか?」
「はい。とても美味しいです。 油分が多く、塩分濃度も高くて食べた後、油の味が口に残ります。」
「お前食レポの才能無さすぎだろ…。美味かったんなら良いけどさ…。」
食レポとしては最悪だったが何度も皿に手を伸ばしているあたり一応ちゃんと美味いと思っているようで安心した。
そうこうしていると女将さんがエールの入ったジョッキをキースの前に持って来てドンッと置いた。
「ジャンジャン飲んでくださいね! アタシもあんたの気持ちわかるよ!領主様の作ってくれたこの…なんてんだっけ?この芋の…油で揚げた奴!酒が進むでしょう!?アタシも仕事中じゃなきゃ迷わず飲んでただろうね!」
「ング……ング……ング……くぁぁぁぁ!!大将…やっぱこれ最高や!食感も軽くて美味いしそれに、この塩気と油がええわ…!でもってここにエールが…ング……ング……う゛う゛ぅう゛…きもち〜〜!」
キースのこの反応を待っていた。 これだけ騒いでくれればもう十分だろう。
いつの間にか店内は静かになっていた。 俺は店の中をぐるりと見渡す。
すると案の定テーブルに座っている客の冒険者達がこっちをじっと見ている。
まだ時間帯が早く、店内の席は疎らにしか埋まっていない。 だが、その客達は全員こっちを見ていた。
ここで俺はこのフライドポテトブームを巻き起こすために必要な一手を仕掛ける事にした。 厨房へと入っていき店主に話しかける。
「フライドポテトなんですが、今店内にいる他のお客さんにも提供していただけませんか? 勿論まだ試作段階で値段も決まっていないでしょうから材料費プラス多少色をつけた金額をお支払いしますので…。」
「ああ、そいつぁ良いな! 試食品って事で出させてもらいやしょう! こりゃさっさと値段決めて売らねぇとな! おい、エマ!この料理いくらで出す? 早く決めねぇと夜の営業に間に合わねぇ!」
店主はかなり乗り気のようで、早速今夜からの販売を考えているようだ。
「あ、ちょっと待って。水を差すようで悪いんだけど、今日は今ここにいる客の分だけにしておいてくれないか?」
「ええ……そりゃどうしてです? せっかく久しぶりにでかい売上になりそうだってのに……そりゃねぇですぜ……。」
「まぁ数日の辛抱だよ。今日は試食だけにして、ちょっと勿体つけたいんだ。いきなり好きなだけ食えるようにするより、噂になってから売り出した方が客も食いつくだろ?」
今ここの店にいる客のグループは6組ほど。
あとから来る客達には食べさせず、そいつらだけに食べさせたい。
そうすれば噂が噂を呼ぶ。
昨日早い時間にこの店に行ったら、変わったうまい料理を食べた。
まだ売ってないらしいがかなり美味かった。 次はお前も食べてみろよ。
そんな具合にクチコミで話が回れば、フライドポテトへの期待値は勝手に上がっていくわけだ。
この領都にはぶっちゃけまともに娯楽もないしな。 酒飲むか仕事するかくらいしかないのだ。
そこへ食べたことのない目新しい料理の噂と来れば、それなりに話題にはなるだろう。
3日後くらいにはまた個人の行商人がアルンに来る。
そいつが今持っている油を仕入れて、そこからその油を使って販売を始めてもらえばいい。
これできちんと客が付けば油の消費も伸びるし、副次効果として酒も多少は需要が増えるはずだ。
その後はフライドポテトだけじゃなく、油を使うようなレシピを小出しで領内の酒場や宿に教えていけばいい。
問題は、その増えた油の需要を誰に持っていくかだ。
「じゃあ…3日後に来る個人の行商人からは、とりあえず今持ってきてる分の油を仕入れてくれ。それで販売を始めればいい」
「へぇ。じゃあ次からもっと油持ってきてくれって、そいつにも頼んどきますぜ?」
「ちょい待ち!そっちに言うのは待った!」
「へ?」
「悪いけど、個人商人の方には多少油が足りなくても『次はもっと持ってこい』とは言わないでくれ。」
店主が訳が分からないという顔をする。
まぁ当然だ。 せっかく売れる商品を作ったのに、その材料をもっと仕入れるなと言われているようなものなのだから。
「本命は2週間後に来るライオード商会の商隊なんだよ。
アルンに出入りしてる商人の中じゃ、あそこが一番規模がでかいんだろ?」
「ええ、まぁ……そうですが」
「俺が増やしたいのは油の量だけじゃない。
この領地に出入りする荷馬車そのものを増やしたいんだよ。
個人の行商人一人が積荷をちょっと増やしたところで、たいした量にはならないだろ?
その行商のおっさんの儲けが油一樽か二樽分増えてはい終わり、じゃ意味が無いんだよ。
自由に売りたいだけ売れるってのはちょっとの間出来なくなるが、二週間くらいの辛抱だから我慢してくれ。
それに、一気に広まったら飽きられちゃうかもよ?」
まぁ別に個人商人の商売を潰したいわけじゃない。
今持ってきている油を買う分には何の問題もないし、むしろありがたい。
ただ、こっちからわざわざ新しい需要が生まれていることを教えて、次から大量に油を持ってこさせる意味がない。
その需要自体が、ライオード商会と交渉するための材料になる。
アルンでは今まで以上に油が売れる。
しかも一時的なものではなく、これからさらに需要を増やしていくつもりだ。
それなら、小さな行商人に少しずつ需要を食わせるよりも、荷馬車を何台も動かせる商会にまとめて話を持っていった方がいい。
「だから、ライオード商会が来た時にはあんたからもしっかり言ってほしいんだ。
油が足りない。もっと持ってきてくれってな。
いいか? ライオード商会だぞ? 個人商人の方じゃなくてそっちな。」
「ええ、まぁ……領主様がそこまで言うなら。ライオード商会、 わかりやした。
でも、なんでそこまで俺から頼ませたがるんです?あんた領主様だろ?
領主様の口から頼めば一発なんじゃ…」
「いや〜俺から『この町では油が売れます』って言うより、実際に商品を買って客に売るあんたの口から言ってもらった方が商人も信用するだろ? 確実に需要があるってことも伝わるしな。
とにかく俺は、この油の需要を足がかりに領地全体の物流量を増やしたいんだよ。
こうやって、それなりに見返りがあるようには動くから協力頼むわ。」
「うーん・・・。領主様、あんた意外と商売人みたいなこと考えるんだな。若ぇのにしっかりしてら・・・。」
考え込んでいたから何を言うかと思ったらこいつ馬鹿にしてんのか。
俺は貴族様だぞ!
俺にそんな態度とってるのクラウディアに見つかったらお前も怒られるし俺も後で小言言われるんだぞ!
ちゃんと貴族としての威厳示せとか…そんなん言われても知らねぇっての。
「意外とは余計だ。失礼だろ! こんなんでも一応俺、貴族なんだからな!」
「すまねぇすまねぇ!勘弁してくだせぇ! ただ、前の代官様とはやり方がちょっと違うなと思ってよ。
やり方っていうか考え方っていうのか・・・? そもそも貴族っぽくねぇしよ。
俺ぁあんまり頭も良くねぇからこまけぇ事はわかんねぇけど、なんか違うってのは商売人の勘としてわかんだよ!」
「なんか違うってお前ふわっとしすぎだろ…褒められてるのか、貶されてるのかどうかすらわからん。
まぁ、正直俺はお前らのためじゃなくて俺のために動いてるんだよ。
物流量増やすのだってなんとか領主として使える金を捻出するためだしな。
金が増えるようにしないと領主としても首が回らん。」
「結果的に俺たち領民のためになってりゃ俺は構わねぇと思いますぜ。
難しい事は領主様に任せて生活が楽になれば褒め称えるし、貧しくなれば文句垂れるだけだ!
領民ってのは楽で良いやなぁ!」
「ほんと領民って楽でいいよな…、お上の苦労も知らないで…。
俺だってちょっと前までただの平民だったんだよ。 ただのいけ好かない平民からの成り上がりだよ…。
じゃあ俺が褒め讃えられるためにあんたはフライドポテトを作ってくれ。
貴族様のために身を粉にして働け。」
「やっぱり貴族っぽくねぇとは思ってたが…なるほどな…。
じゃあいけ好かねぇ貴族様のために頑張らせていただきますよっと。」
そこから店主は凄い勢いでトルタ芋の下処理に入り、見る間に調理が進んでゆく。
話がついたということで酒場のホールへ出るとその場にいる冒険者たちに向けて試食品提供の旨を伝えた。
先程俺達の食べている様子を固唾を飲んで見ていただけあって各テーブルから小さな歓声が上がる。
あとは、実際に商品が届いてみての反応の調査だな。
それまでは俺も席に着いてゆっくりとフライドポテトを楽しみながら待つとしよう。
「……。おい…、キース。 これはどういうことだ。 俺のフライドポテトがないぞ。
俺1本も食べてなかったんだが?」
「あ〜?……ヒック…しゃーないやん。 あんなに待たされたらそりゃ無くなるやろ…ヒック…自分も薄々わかってたんとちゃうの?
自分ちょっとこの展開美味しいと思うとるやろ?
…ヒャハハ! この世は弱肉強食や。 気ぃ抜いたヤツからやられ…ゲフッ…ヒック…。」
席に戻ってみるとキースは半分潰れかけていた。
それはどうでもいいんだが俺の食べようとしていたポテトが無い。
どうなってんだよ…。 あと、その弱肉強食理論だと一番気抜いてるのはお前だからな?
一番最初にやられるのは間違いなくお前だから。
主人の金で好き勝手潰れるまで飲むってどうなってんのこいつ?
もう半ば諦めてテーブルの上に残していった食べかけの食事に手を付ける。
当たり前だがすっかり冷めてしまっており、口に運ぶ度に悲しさが積もってゆくようだ。
冷めきった店の料理をモソモソと口に運んでいると徐々に厨房の方からは香ばしい油の匂いが漂い始めた。
店内にその香りが満ちると各テーブルからはチラホラと期待のこもった声が聞こえてくるようになった。
そこからややあって遂に待望のフライドポテトのお目見えとなる。
各テーブルにポテトが運ばれると、皆が我先にと齧り付く。
「なんじゃこりゃ…うめぇ…」
「この塩っ気最高だな!酒の追加持ってきてくれ!」
「熱っ!熱くてザクザクして…この熱をエールで……ぷはぁ…!!」
かなり評判が良いようでひとまず安心する。
正直大丈夫だろうとは考えていたが ここでイマイチな反応をされてしまうとだいぶ困った事になってしまう。 万が一はやっぱり怖かった。
「おい!俺はこれに金払ってもいい! もう1皿頼む!」
そういった声も店内でチラホラと聞こえてきた。
タダで貰えるならみんな喜んで食うだろう。
だから金を払ってでも、もう一皿食べたいという言葉が今聞けたのはかなり大きい。
この商品に対する需要を直接表す言葉だからだ。
つまりこの商品は金になる可能性が高い。
「悪いな、もう材料がねぇんだ! 次の行商人が来るまでのあと数日待ってくれ!そん時ゃたっぷり材料を仕入れてオメェらに腹いっぱいこのフライドポテトを食わせてやる!だから今日のところはこれで勘弁してくれ!」
主人がわざわざホールまで来て店内の客に謝罪をしている。
俺の指示ではないし、本人はそんなこと意識しちゃいないだろうがこれはかなり上手く働きそうだ。
この料理が次はいつ食べられるのか、それと料理の名前をしっかり伝えてくれたのが大きい。
次の行商がアルンに来るまでに冒険者たちを始めとした酒飲み達の中でこの話題はしっかり回ってくれるはずだ。
それに、行商が来たからと言ってすぐに品不足が緩和されるとは思えない。
そこから暫くはフライドポテトを運良く食べられた者が食べられなかった者に自慢したりして期待値が上がる状況は続くだろう。
仕込みは完了した。
あとは、この状況を利用して具体的にどう商人を落とすかという話になる。
それさえ確約できればやっと最初の一歩を踏み出せる。
………。 この酔っ払いどうやって持って帰ろう…。
やっぱ俺? 俺が担いで持って帰らなきゃダメ…?
クラウディアに任せるのはちょっと怖いし俺が持って帰るしかないかぁ…。




