16話【この作品は、未成年の飲酒・喫煙及び他人の肩にナイフを突き立てる等の違法行為を推奨するものではありません。】
店で出された料理は洗練されてるとは言えなかったが、いかにも田舎料理という素朴な感じで悪くはなかった。
俺としては気持ち味が薄かったけど。
あと、味付けがちょっと単純な感じかな。
そういえば王都に滞在してる時もこの世界の料理は食ったんだが、なんかやたら固いパンとよく分からん具材の入ったスープが出てきていた。
あとはたまに肉類…。
あの頃は混乱してたし、正直味なんて覚えてない。
あんま美味いと思った記憶無いって事は美味くなかったんだろうなぁ…。
あれがデフォルトなのか、嫌がらせを受けていたか…。
でも流石に叙爵してもらって、こっちは貴族ですよ!?
高貴なる貴族の末席に身を置く我に対し、その様な無体を働くとは到底思えぬ。
いや、実際どうなんだろ…。
ほぼ客間に軟禁状態だったし…。
もういいや…。
あまり深く考えて悲しい事実に傷付きたくはない。
そんなことを考えながら飯を食っているうちに、俺の自己紹介だけで一旦話が止まっていたことを思い出し、食べながらではあるが改めてキースに話を振ってみる。
「そういや、話止まってたけどお前ら三人の身の上はどうなの?
俺の自己紹介しかしてなかったと思うけど。」
「あと、私の自己紹介もまだですね。」
「あ…。ごめん…。
……………あ、俺がした方が良いのか。」
自分から言い出したため、そのまま彼女自身で自己紹介するかと思ったが黙ったままだ。
そこでやっと、俺から紹介しないといけないのかと気付いた。
「こちらはメイドのクラウディアさんです。
俺の専属メイドをしてる。すごく強い。」
そこまでは良かったが、アドリブが利かず実に適当な紹介をしてしまった。…ごめん。
「クラウディア・ローゼンハインと申します。
今後ともよろしくお願いいたします。」
お前、こんなんで良いのかよ…。
いや、俺も悪かったけどさ…。
「お、おう…。もっとマシな紹介したれや…。
姐さんが可哀想やろ…。」
そんなわけで、ここからキース達三人の自己紹介に移っていった。
「じゃあ私から!私はニナです!9歳!
アルトのお姉ちゃんでキースお兄ちゃんの妹なの!じゃあ次はアルトの番ね!」
「あ…、あ…、えっと…、アルト…です。」
急に振られたアルトがわたわたして言葉が出てこない。
年齢を考えたらまぁよくあることではあるか…。
「ま、アルトは人見知りなんや。すまんなぁ。
コイツもニナと同い年になる。
ちなみに俺もニナもアルトもみんな血ぃ繋がってへんねん。三人とも王都の孤児院育ちや。」
「ああ、それで三人で再会した時にニナちゃんが孤児院の先生がどうとか言ってたのか…。
で、孤児院で育ったのは分かったけどなんで下二人はキースと暮らしてんの?
まだ孤児院に居ないとダメな年齢なんじゃねーの?」
「そうやなぁ…、そうなんやけどなぁ…。
孤児院が潰れてしもうたみたいでなぁ…。
あん時は俺、もう既に孤児院出て冒険者やっててん。
で、ある時王都の町ぶらついてたらこいつら二人を見つけてな。
ボロボロになって路地に二人して固まってちぃちゃくなってたから、はじめ死んでんのかと思うてほんまに焦ったわ。
そっから、しゃーないから俺が何とかして二人を養ってたんや。
俺が死んだら二人の事養えんくなるから冒険者は辞めた。
そっから最初のうちは普通に仕事しとったんやけど、三人で食ってくんはちょっときつぅなってな…。
で、そのうち首回らんようになって盗みをやるようになったり………って、普通こういう重い話聞く時って飯食うの一旦止めへん?」
「ほ〜はぁ〜ほはへはほうほうはっはんはは〜…。」
「ほれみい、人がシリアスな話してんのに飯頬張るから全然まともに話聞いてないみたいになっとるやんか。
タイミング考えんからそうなるんやで…。」
まだまだ腹減ってたんだからしょうがないだろ。
「んぐ…、なるほどな。
だいたい事情はわかった。
ただの小悪党かと思ったらお前ちゃんとお兄ちゃんしてたんだな。」
「うっさいわ。成り行き上!
しゃーなしや、しゃーなし。」
「でも、キースお兄ちゃんあの時泣いてたよね!」
「ニナ!うるさいわい!
子供は黙って飯食うとけ!
んぐ…んぐ…んぐ…ぷはぁっ…!
もう一杯や!」
恥ずかしいのか、そのまま酒のジョッキをあおり追加を要求する。
それ、俺の金だからな?
「そういや大将は飲まへんの?
自分も飲めるんやろ?」
確かに考えてみればここは異世界だ。
こっちじゃ俺ももう成人扱いだし、とやかく言われるわけでもないようだし。
飲んでいいなら飲むか…。
酒なんて親戚の酔っぱらいのおっさんに正月に飲まされたぐらいしか記憶がない。
飲んでみるか…と思う。
そして、酒を頼むなら他になにかつまめるものもついでに追加しておきたい。
メニューを開いて眺める。
腹に溜まるものはもういい。
スープもツマミとしては向かないだろうし、ニナとアルトも居る。
何かみんなでつまめるものが良い。
…そうだ!
子供は唐揚げとかポテト好きだよなと思い、メニューの文字を追っていくが…その辺のものは見つからなかった。
酒場と言えばフライドポテトに唐揚げだろ。
って…それは酒場っていうか居酒屋か…。
「そういえば、こっちにフライドポテトとか唐揚げとかって無いの?」
「は?なんやそれ。
大将の世界の料理かなんかか?」
「う゛っ…。
俺の中の存在しない記憶が…!」
「あんたそれ持ちネタにしようとしとるやろ…。」
「冗談はさておき、フライドポテトとか唐揚げとかほんとに知らんの?
揚げ物だよ揚げ物。食材が泳ぐくらいのたっぷりの油で食材を加熱すんの。」
「しらん。まぁ、俺らはロクな食事してへんかったから知らんだけかもやけど姐さんは?
揚げ物なんて聞いた事あります?」
「私もありませんね。
アイゼンベルク伯爵家に勤めていた際も、そういった調理方法も見聞きしたことはございません。
それにそんなにたくさんの油を使って食材を加熱したら火事になったり、食材が真っ黒になってしまうと思いますが。」
「お・・・、んおぉ・・・?そ、そうだな…。クラウディアはやらないようにしような…?危ないから。」
それはおまえだけだろという言葉を必死で飲み込む。
しかし・・・・・・。
あれ?
俺なんかやっちゃいました?
これ、所謂知識チートって奴じゃね?
その時、脳内で何かが繋がったのを感じた。
数日前、ヘルマンに商人の荷馬車の数を増やせないかと提案した時のことを思い出した。
その時は、追加の荷馬車を空荷のままこんな辺境まで走らせたがる商人はいないと無碍に断られていた。
そうだ。
そうだよ…。
空荷がダメなら、行きの荷物を作ればいいんじゃないか。
こっちで新しい需要を作って、往路に積む商品を増やす。
そうすれば荷馬車そのものを増やせる。
帰りは、その増えた荷馬車にこっちの魔物素材を積んで帰ってもらえばいい。
揚げ物は油を大量に消費する調理方法だ。
これが流行れば油の消費量が増える。
問題はこのフライドポテトが流行るかどうかだが、心配には及ばないだろう。
この街は冒険者というバリバリ肉体労働系の人間達が沢山いる。
そういう奴らなんて塩っぱくて、脂っこい炭水化物食わせとけば自分から勝手に沼にハマるだろ。
それに、酒との相性も抜群だ。
今よりもっと酒の需要も伸びるに違いない。
酒と油。
この嵩張って重くて、尚且つ利益を生みやすい商材が飛ぶように売れる状況を作ってやれば、ここに来る商隊もそれを積むために荷馬車の台数を増やす自然な理由が生まれる。
そして帰りは、その増えた荷馬車の空いた荷台がそのままこの領地で産出される魔物素材の積載スペースになるはずだ。
こう考えれば一気に状況が開けてきたぞ。
「ちょっと行ってくる。」
「ん?大将どこ行くん?
はばかりか?」
「違う違う。
これ、もしかしたらこの領地を再建するキッカケになるかも。
厨房に行ってくる。
お前ら待ってろ、俺が最高に美味いもん作ってきてやるから。」
キースの軽口もたいして耳に入らないほど、思いついたアイディアで頭の中はいっぱいだった。
実際これが上手くいくかどうかで、領地の発展スピードがかなり変わってくる。
「あ、すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど。」
「ど、どうしました……?」
「揚げ物って知ってます?」
「揚げ物……ですか?」
「はい。芋とか肉とかを、たっぷりの油に入れて火を通す料理です。そういうの、この店では出してないだけですか?」
「え、ええと……。うちは見ての通り田舎の小さな店ですから、貴族様がお食べになるような料理までは……」
「いや、違う違う。出せって言ってるんじゃないです。そういう料理を今まで見たことがあるかって聞いてるんです。」
「は、はぁ……」
「王都の料理でも、旅の商人から聞いた話でも何でもいいです。本当に一度もないですか?」
気付けば、女将さんの顔が明らかに引き攣っていた。
厨房の奥を見ると、店主まで硬い顔でこちらを窺っている。
……あれ?
そこでようやく、自分がどう見えているのかに気付いた。
新任の貴族領主が突然厨房まで乗り込んできて、「お前らこんな料理も知らないのか」と問い詰めている。
そりゃ怖いわ。
「あっ、すいません! そういう意味じゃないです!
別に俺の食いたい料理を出せとか、知らないなら無礼だとか、そういう話じゃないですから!」
「お、おう……?」
「むしろ知らないなら、それでいいんです。俺にとってはそっちの方が都合がいいというか……」
余計意味分からない顔をされた。
「あー……とにかく、一皿だけ俺に作らせてもらえませんか?
厨房と材料を少し貸してほしいんです。」
「え…?ああ……、まぁ…そのくらいなら…」
異世界で元の世界の料理作るイベントって絶対こんな空気感じゃないよな。
普通はもっとうわーすごーいとか、和気藹々みたいなイベントのはずだ。
でも、俺にとってはそうじゃなかった。
異世界でフライドポテトを作れるかどうかに、こんなに真剣になってる奴なんて俺以外に居ないだろうな。
俺自身なんでフライドポテトひとつでここまで必死にならなきゃいけないのかわからんが、今後の人生がかかっている。
「じゃあ改めて念の為もう一度、お二人に確認させてください。
本当にさっき言ったような料理、揚げ物っていうジャンルの物は知らないってことでいいんですかね…?」
「…ええ、あたしらはこの領地を出る機会も殆ど無いというのもあるかもしれませんが…一度も聞いたことありません。
この店に来る冒険者なら他の領地からやってきたものも居るんで知っているかもしれませんが…、少なくとも冒険者の口からはその料理のことは一度も……、ねぇ?アンタ。」
「お、おう……そうだな!
俺もそんな調理法、聞いたことねぇ…、です。」
夫婦共々しっかりと記憶を探るように考えてから、はっきりと『知らない』と答えた。
道が開けた!
あとは普及するかどうかの話だ。
この店も巻き込んでしまえばいい。
とにかくどんな形でもいいから流行らせないと。
「ふぅ…。良かった…。
お二人とも、ありがとうございます!
正直、まだ上手くいくかは分からないんですが、この料理が領地を立て直すのに役立つかもしれなくて…。」
「はあ…?よく分かんねぇけど…。
なんでその料理がこの領地の役に立つんだ?」
「ん〜…今はお店も営業中なんで、詳しい話は省略しますけど、俺のお願いしたい事は一つだけです。
この街でその料理を流行らせて欲しいんです。」
「流行らせろって急に言われてもよぉ…。
それが何かすらわかんねぇんじゃ…どうにも…。」
「そうですね、だからまずは一皿作らせて欲しいってさっき言ったんですよ。
それを食べてみて、もし気に入ったらレシピは差し上げますし、自由にそれを使って商売をしていただいて構いません。
儲けの一部を上納しろなんて野暮なことも言う気もないですし。
ただし、流行りやすい値段設定にはしてください。
これが流行ってくれないと俺のやりたい事が実現できないので…。」
「領主様に何か得があって、それで俺らに作らせようってのは分かりましたよ。
こっちが損する話でもなさそうですし、商売の種が増えるってんならありがてぇ話でさぁ。」
店主も乗り気になってくれたようなので、早速調理へと取り掛かる。
トルタ芋を細長く切って、水に晒しておく。
その間に店主に確認を取り、大きめの鍋を用意してそこに油を注いでいく。
「おいおい!そんなに油使ったら…勿体ねぇですよ…。」
あれ…。
ここまで意気揚々とドヤ顔で調理を続けていた俺だったが、思わぬ言葉で一瞬動きが止まる。
「あれ?もしかして、油って結構高価なものだったりします…?」
「いや……そこまで高価って程じゃねぇですけど、そんなに使われちまったら次の商隊が来るまで持たねぇですよ……。」
危なかった。ほんとに今のはビビったわ。
早速計画が頓挫するかと思った。
材料のトルタ芋が安くても油が高いんじゃ話にならん。
「じゃあ、高い安いとかじゃなくて、この街だと手に入る機会が限られてるからってこと?」
「そうですぜ。
この街だと食材から何から殆どのもんは商隊頼りだから、使い切っちまえばそれきりなんでさ。
まぁ、元々油なんてそんなにバカスカ使うようなもんじゃねぇから、仕入れ自体も少ねぇってのもありますが…。」
「すいません。
じゃあ今回はもう少し減らして作ることにします。
でも次からは油をもっと運んで来てもらえるように商人とも話をしてみますね。
今回この料理を流行らせたいのは、油の消費量を増やすためなんです。
それに伴って他の物流量を増やしていきたいんです。
もっと物の流れを活発にするためっていうか…。」
「そんなに上手くいくのかい?
確かにこんなに大量の油を使うなんて聞いたことない料理だけど…。
領主様を疑ってるわけじゃないですけど、この料理が本当に流行るんですかい…?」
まぁ、女将さんの言う事はごもっともだけど多分流行る。
だってさっきも言ったけど肉体労働者は油物好きだろ。
俺も好きだし。
あと、正直フライドポテトってシンプルだから誰の味覚にも直接訴えかけやすい気がする。
そして、油が温まった頃合いを見て、しっかりと水気を拭き取った芋を油に投入する。
二度揚げしたところで塩をまぶす。
酒場だし塩味は濃いめが良いだろう。
色々不安はあったが、ついにフライドポテトが完成した。
水に晒してデンプンを落としておいた甲斐があった。
表面がさくりと揚がっており、渾身の出来だ。
「とりあえず、これ食ってみてくれ。
で、売れそうかどうか判断を頼みます。」
二人とも半信半疑という顔でフライドポテトを摘み上げる。
二人がほとんど同時にかじりつくと、ザクリと小気味の良い音が響いた。
熱を逃がすように時折ほふほふと息を吐きながら、黙々と咀嚼を続ける。
その頃には、二人ともすっかり笑顔になっていた。
そして、飲み込むなり感想を口にするより先に次の一本へと手を伸ばす。
どうやら味は聞くまでもないらしい。
そのまま皿の上のポテトは、ザクザクという咀嚼音とともに次々と消えていく。
最後の一本に至っては、手を伸ばした店主の手を女将さんが叩き落として無理矢理奪い取り、店主が意気消沈する一幕まであった。
やはり店主は完全に尻に敷かれていて逆らえないらしい。
皿の中身が綺麗に無くなったところで、改めて二人に声をかける。
「どうですか?
お二人の反応を見る限り味は大丈夫だと思いますけど、売れますか?
油とか結構多めに使いますけど採算とかは…」
「こりゃいいや。うめぇ酒の肴だ。
おまけに材料がトルタ芋と塩と油だけってのがいい。
手間も大してかからねぇし、油さえどうにかなりゃ材料費も大してかからねぇ。
採算どころか、大儲けさせてもらえそうですぜ。」
「いや、大儲け出来るかどうかは売れ行き次第でしょ。
売れなかったら儲けもクソも無いんだし…。」
「いや、売れる!
そもそも領主様だって売れると思って俺たちにこんなうめぇ料理を教えてくださったんでしょう?」
「まぁ、勝算はあっての事だけど実際分からんだろ…。
まぁいいや、とりあえず俺の部下たちにも食わせて反応見たいから、もうあと二皿くらい作ってくれ。」
「おう!任せてくだせぇ!」
そう言うと店主は、甕に残っていた油を鍋の中にドボドボと注いでいく。
「おい!そんなに使ったら次の商隊が来るまでもたないんじゃないのかよ!?」
「ああ?大丈夫ですぜ!
なくなったら次の商隊が来るまで煮込み料理だけ出しときゃいい!
次から油を多めに仕入れりゃ済む話でさぁ!」
自信満々に言ってるが、これで客にウケなかったらこの人どうするつもりなんだろう…。
不安な顔で調理を見守っていたが、流石料理人といったところか。
先ほどの調理工程を一度見ていただけで、難なくフライドポテトが完成していく。
まぁ、元々簡単な料理ではあるんだが。
出来上がったポテトを二皿受け取り、自分たちの席へ持って帰る。
とりあえずあいつらにも食ってもらうとするか。
店主夫婦にも好評だったし、あいつらにもウケるといいんだが。




