14話【ご飯は一日に、何回食ってもいいんだぞ…。そういうの、特に決まってないから…。】
「じゃあ、縄を解くからじっとしてろよ。 クラウディア。」
「かしこまりました。」
俺の指示を受けたクラウディアがナイフを取り出すと、一瞬でキースに近づく。
「ひぃ!!」
その瞬間、キースの身体がびくりと震え、あからさまに怯えている。
「ちょ、待ちぃや! 急に動くな! 怖いやろ!
あとナイフの持ち方ぁ!!
なんで逆手やねん!そんな持ち方人刺す時以外にするなぁ!」
「いえ、これは持ち替える前ですから。取り出しただけです。
心配せずともこの程度の拘束なら一太刀でバラバラにして見せます。」
「ゆっくり切れ!大道芸なんて求めてへんわ!
こっちはお前のせいで心に傷負ってんねんで!?」
あれ、結構これガチでトラウマになってる感じか? 今後の仕事とかに支障が出ても困るんだが…。
「クラウディア、丁寧に切ってやれよ…。 トラウマが染みついたら今後お願いする仕事に支障が出るかもしれないだろ…。」
「はぁ…丁寧に切るつもりではありましたが…。」
「そうじゃない、そうじゃないんだ…。
もう良いからゆっくり切ってやれ…。」
なぜかどことなく不満そうな空気を漂わせながらキースの拘束を切ってゆくクラウディアだったが、一応言われた通り丁寧には切っているようで、やがてすべての拘束が解かれていった。
「うー……。 体中が痛いわ…。 やっと体が動く…、しんど…。とりあえず、はよあいつらの顔拝ませてくれや。」
やはり長時間の拘束で疲労が表情に出てはいるが、体全体の動きを確認するように少しずつ動かしており、問題はなさそうだ。
「よし、じゃあとりあえず二人のところに案内するぞ。肩貸すから、ほら。」
俺たち三人はアルト、ニナの二人が待つ客間へとゆっくりと歩いていく。
「そういや俺のアジトの件なんやけど、どうやってこんな短時間で見つけたんや?
相当綺麗に隠しておいたつもりなんやけど…。
こんなちょっと探したくらいで見つかるとかありえんやろ。」
「確かに…、そこは俺も聞いてなかったな。
何かわかりやすい手がかりでもあったとか?
クラウディアはキースのアジトをどうやって発見したんだ?」
「どうやってと申されましても、普通にですが。」
「いや、普通ってなんだよ。どうやって見つけたかって聞いてんの。」
「ですから普通にです。探したらすぐ見つかりました。」
「ええ…え?…え…?俺も数日がかりのもんだと思ってたんだが…。」
「なんであんたが引いてんねん。
あんたの部下やろ。」
クラウディアの要領を得ない答えに困惑しながらも歩いていると、どうやって探したのか詳しく問い詰める暇もないまま客間へ着いてしまった。
「あははは! アルトったら何言ってるのよ!」
「だっておねぇちゃんが――」
部屋の近くまで来たあたりですでに扉の中から弟妹達の話し声が聞こえてくる。 その声を聞いた瞬間、キースは居ても立ってもいられなくなったのか俺たちの元を離れた。 そのまま扉へ駆け寄り、勢いよく部屋へ飛び込む。
「あ! ほら!ちゃんと来たじゃない!りょーしゅ様が待ってたら会わせてくれるって言ってたんだから!
お姉ちゃんの言う通りだったでしょ!」
「そ、それはそうだけど…。 遅かったから…僕もう会えないのかと思って…」
キースは弟妹達の姿を確認するとすぐに二人の元へ駆け寄り、跪いて抱きしめる。
「ごめんな…。 ごめんな…二人とも…。 良かった…! ほんまに良かった…!」
「お兄ちゃんどうして泣いてるの…!? あ! ケガしてる! ここ痛いの!? 」
「キースお兄ちゃん…遅いよぉ…!僕たちずっと待ってたのに…うわあああ…。」
「ちょっと…アルト、泣かないの…!孤児院の先生達にいつも、泣いちゃダメだって…。 二人が泣くから…私まで…。 う゛う゛…。」
「お姉ちゃんだって泣いてるのに…ひっぐ…」
「これは…違うもん!泣いてない…!」
孤児院の先生? こいつら孤児院育ちなのか…? まぁ、幼い子供二人抱えてる時点で割と重そうだったけど…
そういや、そういう話はクラウディアになんも聞いてないな。
そして、感動話みたいになってるけどこの兄弟達が泣くことになってしまったのは大半が俺のせいなんだと気付き、ちょっと罪悪感を覚えてしまう。 まぁ、弟妹の方は俺が全部嘘の情報を教えておいたから状況分かってないみたいだけど…。
「うぉっほん…。 えっと、三人とも感動の再会を果たしているところ申し訳ないんだけど、今後について話をさせてもらっても良いか…?」
「……。なんや気ぃ悪いわぁ〜。
兄妹の感動の再会に水差しよってからに。 あんたのせいでこんな――」
「りょーしゅ様のせい?」
「せや、こいつのせいでこんなけったいな――」
「あああああああ!! ニナちゃん! アルトくん! お昼ご飯食べてから結構経ったし、そろそろまたお腹が減ってきたんじゃないかな!? 良ければ感動の再会を祝してお食事会を開こうと思うんだけどどうかな!?」
「え!? ご飯!? 今日は二回もご飯食べていいの!?」
「僕もご飯食べたい…!! 二回目のご飯!! やった…!」
俺の苦し紛れの食事の誘いに、何とも悲しい反応が返ってくる。
二人の弟妹は満面の笑みで喜んでいるが、悲しすぎる…。
悲しすぎるよ…。 お前ら、どんだけ過酷な環境で…。
「…。ごめんキース。 俺、二人の事大事にするよ…。飯には困らないように給金もちゃんとした額出すから…。」
「…。 はい。 お世話になります。 領主様に生意気言ってえらいすんませんでした。
もう二度と逆らいません。」
先程まで泣いていたというのに満面の笑顔ではしゃぎ回る二人の子供と対照的に男二人の沈痛な面持ち、そして無表情なクラウディア。
「では、食事の用意はお任せください。
腕によりをかけて作成させていただきます。」
「ダメ!! 昼もダメだって言ったばっかりだろうが!! 料理に『作成』なんて言葉使う奴に任せるわけないだろうが!」
「ん? 料理ならメイドの姉さんに任せたったらええやん。
昼飯食わせてくれたって事はそれも姉さんが作りはったんちゃいますの?」
「…。」
瞬間的に視線を逸らしたから表情は窺えないが、クラウディアからすさまじいプレッシャーを感じる。
今までは簡単に「お前料理できないだろ!」とか言えていたのに、何故か突っ込みの言葉が出てこない。
言葉が喉まで出かかっているのに、そこから先が何故か出てこない。
やっぱ、プライド自体はあるのだろう…。
「出来ます。」
「まだなんも言ってないだろ。」
「出来ます。」
「はぁ…。 昼は、ほらお前を警戒中だったからあんまり時間を長く開けられないだろ?
それに家族の再会を祝して食事会やるなら品数があった方が良いだろ。 うちの炊事場ちょっと見たと思うけど、あんまり食材の種類が多いとも言えないからさ。
せっかくならこの領都の酒場の料理ってのも食べてみたいし。」
一通り庇って安心させたところで、俺はくるりとキース達の方へ向き直る。
「あと、クラウディアは料理が滅茶苦茶ヘタクソだ。」
「くっ……!!!」
次の瞬間には、俺は頭部を鷲掴みにされ、身体ごと宙に持ち上げられていた。
「い゛た゛い゛! い゛た゛い゛! い゛た゛い゛! ご、ごめんなさいいぃぃ!
で、でも遅かれ早かれバレるだろうが…!
ずっと隠すなんて無理なんだから最初に言っといた方が良いだろうが! わ、わかった! 今度練習しよう! な!? 練習!今度また教えてやるから!」
こいつまた頭掴んでくるじゃん!! キースの説得中にもやられたけど、これって異世界のメイドの嗜みだったりする?
それか、もしかしてこいつご主人様の事舐めてるの?
5秒ほど身体を宙に浮かされた後は気が済んだのか、そのまま手を離され床に尻もちをつく。
俺はキース達の方を向いていたため、クラウディアがどんな顔をしたのかは見ていない。
ただ、キース達三人が揃って身を寄せ合って怯えているところを見るに、どうやら一瞬だけ相当な顔をしていたらしい。
「姉さん、あ、あんた表情のパターン真顔以外もあったんやな…。」
尻もちをつかされたところから、痛む頭部を押さえ何とか立ち上がる。
「うーん…痛い…。お前…個人的な恨みで主人を攻撃したらもうそれはただの反逆だからな…?
もうやめてね…?」
「はい。」
わかってるんだか、わかってないんだか…。 返事が簡素すぎて判断に困る。
「え〜っと…、って事は自分ら今まで食事はどうしてたん…?」
恐怖からいち早く立ち直ったキースが、未だに怯える二人の頭を撫でながら当然の疑問を口にした。
「俺が作ったり…。まぁ、俺自身まだここに来て4日くらいしか経ってないから…。」
たしかに、今後ここで暮らす人間が増えるということで食事の問題は無視出来なくなる。 とはいえ、芋ばかりしかこの家にはないので今日のところはこれから酒場に食べに行こうと思う。 夜遅くなってくると冒険者も多くなって騒がしくなるだろうし、小さい子供連れであれば早めに行って早めに退散したい。
「領主がメイド連れて自炊って…。 ………あ゛…! あ゛あ゛…、ご…ごめんなさい!ごめんなさい…!
コイツらには手出さんといてください…!お願いします…!」
「何故私があなたの弟妹を傷つけると? 二人は何も言っておりませんし、何もしていないでしょう? それに、子供の前で他者を傷付けることはご主人様から禁止されていますので。」
自らが失言した事に気付いたキースが泣きそうな顔で二人を背中の後ろに必死に隠しながら、慌てて謝罪をしている。
まぁ、子供の前云々の話はキースは気絶してたから知らんだろうが、脅しとしての機能は十分に発揮されたらしい。
まぁ、クラウディア自身に脅しの意図があったかどうかは微妙だが…。
「じゃあ、飯食いに行くか…って、ちょっとこの格好だとあんまり良くないか…。」
二人の姉弟の服装を見ると、まさにボロ切れと言っていいような有様。 状況を考えたら替えの服なんて買えず、ほとんど着たきり雀の様なものなのだろう。 ただ、万が一酒場の冒険者たちにそういった部分を難癖つけられでもしたら、無用なトラブルに巻き込まれかねない。 このキースの感じだと二人に対して難癖つけられたらガチで大揉めしそうだしな…。 子供に服買うくらいの小金でトラブルが回避できるなら安いものだ。
「キース、とりあえず飯食いに行く前に二人の服を買いに行くから。
あと、お前の肩も出掛ける前にもう一回ちゃんと手当てするぞ。
お湯も沸かすから、その後三人とも身体を拭いた方が良い。
お前もその……血で汚れてるし。」
「なんでやろなぁ…?
なんで怪我してるんやろう…?
俺なんもしとらんのになぁ…。」
「なんもしてない事はないだろうに…。
根に持つのはわかるけど、後からあんまり突っついてくんなよ…。」
「ちょっと揶揄っただけやん。堪忍してーな。
そういや、金は大丈夫なん? 急にこいつらの服まで買ってくれるとか、屋敷の割に随分金持ちやないの?
太っ腹やん! よっ! お大臣様!」
「まぁな…。」
ホント言うと節約はしたいが、これは初期投資ということで…。
まぁ実際、支度金自体はちょっと余裕を持って持たされてるっぽかったから、子供に服買ったり飯奢ったりするくらいの金はある。
屋敷を直すほどの金は流石にないが…。
「じゃあ、準備できたら出発するからふざけてないで三人ともちゃっちゃと行ってこい。
お湯はクラウディアが沸かしてくれるから。」
冷静には振る舞っていたが、俺にとっても久しぶりのまともな食事だ。
もちろん自炊すれば食えるんだが、やはり他人に作ってもらううまい飯は格別だからな。
どんなものを食おうか、今からワクワクと期待に胸をふくらませていた。




