13話【泥棒に選択肢なんてないぞ。あーあ、小さい子供達二人……この先どうやって生きていけばいいんだろうなぁ。】
「アイツらに何をした!!!!」
気付けば叫んでいた。 キツく縛り付けられた縄が、血が滲むほど食い込むがそんな事は関係ないとばかりに全力でもがき暴れる。 脱出するためだとか拘束を解くためだとかそんな理性的な理由ですらない。 ただ湧き上がった感情のままにひたすら暴れていた。 目の前のコイツらにも慎重さの足りなかった馬鹿な自分にも腹が立って仕方がない。
「おいおい、落ち着けよ。 ほらそんなに暴れたらまた怪我するだろ? ほらそれに、そんなに取り乱すからあの可愛い弟妹がお前の完全な弱点だってバレちゃったじゃないか。 そっかぁ…。 冷静で居られなくなる程大事にしてるんだなぁ…。 可愛い年頃だもんなぁ…?」
目の前のクズ男にそう言われ、またしても失態を重ねてしまった事に気付き悔しさと情けなさが積み重なってゆく。
こいつの言われた通りにするのは心底癪だが、これ以上の過ちを犯さないため、何とか冷静さを取り戻そうとする。
「フーッ…、フーッ…、こ、殺す…。 アイツらになんかしたら絶対殺したるからな…。」
「まだなんもしてねーよ。 そこはお前の出方次第だな…。 でもまぁ返答によってはあのガキ共がどうなるかなんて知らんなぁ…。 あの年代のガキなら高く売れ…あだだだだだだだ!! 何しやがる!」
こちらを煽るように顔を近づけてクソのような発言をしてきたこいつの顔に悔し紛れに噛み付いてやろうと思ったその瞬間、横から伸びてきた手がクソ領主の頭を鷲掴みにした。 そのまま俺から引き剥がすように持ち上げていく。
「ご主人様。 そういった人として、貴族として品位を損なうような事をするおつもりですか? ならば私もこれよりご主人様を成敗させていただきますがよろしいですね? 先程ご主人様はあの幼子達を助けると仰っておりましたよね? 話が違…」
「あ゛っ!!馬鹿馬鹿!! お前!それはダメだって!」
「…どういうことや?」
「あなたの弟妹を私が保護したことをお知らせしたところご主人様が保護し…」
「馬鹿!黙ってろ!」
「…。」
「…。」
「…。」
三人の間に気まずい沈黙が流れる。
いや、クラウディアに関しては俺が黙ってろと言ったから黙ってるだけだろうな…。
「クラウディア。 一旦手を離せ。」
人の頭を片手で掴んで、人一人持ち上げるってどうなってんだよこいつ…。
指食い込んでたからめっちゃ痛いんですけど。
俺ご主人様なんですけど。
「で、どういう事なんや…?」
「……。」
「黙っとらんとなんとか言わんかい!!」
「う…、うちで働きませんか…? (ニコリ)」
「自分、馬鹿なん!? 俺の今の状態見てみぃや!! 椅子にこんな縛り付けられて肩にナイフ突き立てられて! 頭おかしいんか!? これが働いて欲しい人間にする所業か!?」
「肩を刺したのも椅子に縛り付けたのもご主人様ではなく私です。」
「クラウディア…ちょっと…。 今はちょっと黙ってて…。 お願いだから…」
「知るかボケ! 意味わからんわ。 なんで俺がこんな頭のおかしい領主の下で働かなあかんねん! さっさと俺ら三人とも解放しろや!」
「ごもっともです…。 でも、うちの領地は人が足りなくてですね…。 キースさんのお力で是非ともうちの領地を助けていただけないかと…。 働いていただけたら様々な特典をご用意させていただこうかと考えておりましてですね。」
「傷の手当も致します。」
「当たり前やろ!」
「ほんと、やめて、クラウディアが喋れば喋るほど状況悪くなっちゃうから…。」
「わけわからんわ。 そもそもなんで働いてもらおうって相手に脅しかけたり弱み握ろうとしとんねん。」
「それは…普通に言っても無理だろうし、コソ泥やってるくらいだからいざとなったらこんな領地捨てて逃げちゃえばいいと思われそうで…逃げられなくなるような弱味を無理矢理作って、うちに縛れれば…なんて…ハハ…。」
「アホ! 弱気な口調で、なに悪辣なこと言っとんねん! しっかり悪党やんけ! とにかくこんな所で働くなんてごめんや! それにそのメイドが帰ってきたら無事に返す言うとったやんけ! 約束まで破るんか!? ほんまけったいな領主様やで!」
クラウディアがいる手前、弟妹達に直接危害を与える事を匂わせる様な強い脅しに出ることも出来ない。
「まっ…待ってください…」
「待たれへん言うとるやろ!」
「う゛…う゛ぅぅう…。 ど、どうしたらいいんだ……… ………う゛ぅ………うん? おい。ちょっと待てよ。
そもそもお前、領主の家で盗みを働いておいてなに普通に出ていこうとしてんだよ!
オマケに家の窓まで壊しといて大罪人だぞ!
打ち首だぞ!打ち首! あーあ、あんな幼い子供達二人だけで今後どうやって生きていけばいいんだろーな?
お兄ちゃん犯罪者で捕まっちゃって、今後二人だけってかわいそー!
どーすんの? ねぇ? あの子達可哀想だと思わないの!?」
「あ……う゛ぅ…。クソ…せやった…俺………。なんでこんな…ヘマして捕まって…。
ごめんな…にーちゃんがこんなアホなことしたばっかりに…。 ……ぐぅ゛う゛………あ゛…?
まてまてまて、おかしいやろ?
俺なーんも盗んでへんぞ! しかも、窓壊したん俺とちゃうやんけ! お前んとこのメイドが壊したんやろ!
お前のメイドが壊したんやから俺なーーんもしてへん!
これ、俺肩刺され損やんけ! どないしてくれるんや!! あぁ?
あー、痛いわー! この肩一生動かれへんくなったらどうしよー?
幼い弟妹抱えて一生懸命生きてたのに、しょーもない疑いかけられて。 あーこれは一生働けませんわー。」
「あ…、あ…、あ…。 ご、ごめんなさい…。 ど、どうしたら…。」
「これだけの事されたんや。 もう後はお金で解決するしかないんとちゃいますのん?
これは怪我が治るまでの当分の生活費と誠意の籠った慰謝料をしっかりと頂かんとあきまへんなぁ!!」
「ど、どうしよう…クラウディア…。 もう…俺終わりだ…! うちにはお金なんて…」
「打ち首かどうかはともかく、そもそも貴族の邸宅に窃盗目的で忍び込むなど間違いなく重犯罪では?
お二人とも何を言い合いしているのかよく分かりませんが。」
「よっしゃぁぁぁ! クラウディアよくやったぞ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
長い長い高度な頭脳戦の末、勝敗はここに決した。 悪は裁かれるのが世の理であり、悪は決して栄えることはないだろう。
「ふう…。 と言うわけでわかってくれたかな? キースくん。 君は僕と契約しなくてはいけないんだよ。」
「自分…頭おかしいやろ…。 クソ……。ホンマにアルトとニナには手ぇ出してへんねやろな?」
「ああ、もう必要なさそうだからもうなんでも良いや、と思って言うけど弟妹は二人ともこっちで保護してる。
今は飯食わせて待たせてる。
良い子で待ってたらきっとお兄ちゃんが迎えに来てくれるからね、と言い含めてるから大人しく待っているはずだ。
後ほど会わせてあげよう。」
「なんで悪人の常套句みたいな言い方やねん…。その言い方だと普通、絶対再会出来んやろ。
ってか、なんで俺やねん。自分で言うのも変やけどこんなコソ泥雇っても大した得ないやろ。
俺にここまで執着する意味がわからんし、普通に気持ち悪いわ。」
「お前…そんなストレートに気持ち悪いとか言うなよ…。ちゃんと理由はあるんだよ。
第一にお前、後ろ盾も地盤もないだろ。 だったらさっきも軽く言ったけど、仕事と住む場所をこっちで用意すればそう簡単には出ていかないかなって。
それに弟妹二人の生活までこっちで面倒見ればお前だって簡単には裏切れないだろ?
これはお前を縛る上での最も重要な要素なはずなんだ。 もちろん雑に扱うつもりはないぞ。
ここの信用を失ったらお前を引き止める材料にならなくなるからな。
きちんと三人とも衣食住を保証するし、危険が無いようにお前らは領主邸の中で暮らしてもらおう。
衣食住プラス、弟妹の安全も保障しよう。って事でまぁ…要するに、困り事を抱えてる奴の方が、そこをこっちで支えてやれば簡単には裏切らないだろって事。」
「せやけど、俺コソ泥やで。 犯罪者やん。 後暗い人間なんか雇ったら貴族としてまずいんちゃうの?
格が下がるやろ。」
「ああ、そこはあんま気にしてない。お前はコソ泥だけど小物だからな。
それにクラウディアが持ってきた資料で犯罪歴見てみたけど、たいしたことしてないだろ?
人殺したり、凶悪犯罪に手を染めてるわけでもない、ヤンチャしてる程度って感じだったし。
その程度の事で俺は人材を諦めたりはしない。 清廉潔白なんて目指してないからな。
あと、俺に貴族としての誇りだとかそんなもんを期待されても困る。
俺は嫌だって言ったのに押し付けられたんだ。 なりたくてなったわけじゃないのになんでそんなもんに縛られて行動を制限されなきゃならんのだ。
だから、たとえお前の過去を知ってる奴が現れたとしても俺は今の地位や状況を小汚く使ってでも全力で事実を握り潰しにいってやるよ。
これはお前の為じゃない。 俺の仕事をやりやすくするためだ。」
「やっぱ悪党やんか…。 自分、貴族なんやろ? そういうのちょっとは気にしぃや…。」
「そんなもん知らん。 あ!あとこいつ良さそうだなと思った理由にさ…、お前クラウディアから逃げてる時子供庇ったろ。 それ見てお前には事情も含めて何かあると思ってさ。 それを見たのは大きいな。」
「ちゃうわ。 あれは、ぶつかったら速度落ちるやろ。 だから避けようとしただけや。 というか、こういう感動話みたいなの自分、一番嫌いそうやん。 そんな事、急に決め手みたいに言われても取って付けたようなアピールにしか聞こえん。 信用出来るはずないやろ。」
「まぁ、嫌いだな。 でも、理由として大きいのは確かだよ。 倫理観のラインがしっかりしてるってのは大事だ。
俺の定めたラインの範囲内でなら悪事働くのも別に構わない思ってる。 でも、クズはダメだ。
クズが身内にいると余計なトラブルの元になるからな。 そんなわけでお前が適役だなと思ってさ。」
「………わかった。 ちょっと考えさせてくれや。」
「ダメ! これは絶対だから! 犯罪者に選択肢なんてあるわけないだろ!
ダメならお前を衛兵に突き出す! そんでもってあの二人は路頭に迷うことになるぞ!」
「クズはお前やんけ!!!」
領主としての体面もプライドも全部投げ捨てたようなクズっぷりに思わずツッコんだが、改めて考えてみる。
確かに条件だけを見ればそこまで悪くはない。弟妹であるアルトとニナの保護の確約、衣食住の保証に、給料まで出ると言っている。 不安要素としてはこの領主の性格か。
条件は良いのにこいつの性格や発言のせいで物凄く信用しづらい。
こいつもしかして一周まわって交渉が物凄くヘタクソなのでは?とすら思う。
汚い部分も全部開示してきているというのはこいつなりの誠意…なのか…?
普通に好意的に条件を出してくれていればこちらも気持ちよく同意出来たのだが…。
まぁ、どちらにせよ業腹だが従うしか選択肢はない。
「わかった…。あいつらの事助けてくれるならもうなんでもええわ…。
お世話んなります…。 よろしゅうお願いします…。」
「よし、契約成立だな。 とりあえず支度終わったら二人に会わせてやるから俺達と一緒に来い。」
無理矢理こんなことに巻き込まれるとは思わんかった。 やっぱり悪いことはするもんやないな…。 罰が当たったんや…。




