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10話【発言が意図せずダジャレになる事ってたまにあるけど、クラウディアさん…メイドが『冥土の土産に』は流石にないんじゃない…?】

「悪いな、早い時間から呼び出しちゃって。 今日呼び出したのはちょっとヘルマンに確認したいことがあってさ。 今まで代官をやってたわけだから、領内の事を聞くならヘルマンしかいないと思ってさ。」


「代官ではなく、代官代理です……。 しかし、聞きたい事とは……? 数字上の事であればお答えできますが……」


律儀にも、ヘルマンはあくまで「代理」というのに拘るらしい。

やっぱ正式にこういう仕事を押し付けられるのは嫌なんだろうか?


「聞きたいのは、アイゼンベルク伯爵から出てる補助金の詳しい条件。 あとはギルドと、この辺の物流についてだな。」


「なるほど、そういった事でしたら私でもお答えできますので、どうぞ何なりと。」


一体何を聞かれるのか、面倒事でも押し付けられるのではないかと若干緊張の色を漂わせていたヘルマンだったが、自分の範疇に収まる内容だと分かって少し安心したらしい。


昨日資料を漁って、大まかな金の流れまでは掴めた。

だが、それだけでは足りない。

俺の考えが本当に成立するのかどうか、一番大事な部分は資料だけじゃ分からなかった。


「まず確認。 これ…資料読んだ限りなんだけどギルドに出てる素材輸送の補助金って、実際に掛かった輸送費を後から精算してるわけじゃないんだよな?」


「はい。 素材輸送に関しては、一つの輸送隊ごとにあらかじめ定められた標準額が伯爵家から支払われております。」


よし。

ここは予想通り。


「じゃあさ。 仮に今までより安く素材を運べるようになったとしても、その分だけ補助金がすぐ減らされたりはしない?」


「少なくとも、現在の取り決めではそのようにはなっておりませんな。 実際の輸送費が多少上下したからといって、その都度補助額まで変更していては煩雑になりますので。」


「よし!」


思わず声が出た。

そこが一番大事だった。


今より安く運べた瞬間に補助金まで同額下げられるなら、昨日考えたことは全部無意味になる。


だが、補助額が一定なら話は別だ。


輸送に掛かる費用を下げた分だけ、少なくともギルド側には余裕が生まれる。

その仕事を俺達が請け負えば、その金の一部を領主府の収入に変えられる可能性がある。


「それともう一個。 昨日資料見てて気になったんだけど、輸送に使ってる馬車の料金が毎回違うんだよ。 同じくらいの規模なのに。 これってなんでなの?」


「そうですな。 アルヴァルトで素材がある程度溜まった段階で管轄の上位支部へ連絡し、そこから輸送隊を手配してもらう形になっております。 使われる業者も、時期や空き状況によって変わりますゆえ。」


やっぱりそうか。

ここまでは昨日クラウディアと資料を見て予想した通り。

問題はここからだ。


「でもさ。 なんでそんな面倒なことしてるの? アルンにも出入りしてる商人くらいいるだろ? そいつらに帰り道で素材運んでもらった方が、絶対安く済みそうじゃん。」


「普通ならそうお思いになるでしょうな……。 しかし、アルヴァルトのギルド出張所には輸送業者を選定する権限がないのです。」


「……権限がない?なんで…?」


「はい。 出張所の役目は、素材が一定量溜まった段階で上位支部へ報告するところまで。 実際の輸送業者を選ぶのは、その上位支部になります。」


なるほど。


アルン側が馬鹿みたいに毎回高い輸送業者を選んでるわけじゃない。

そもそも出張所だから立場的に弱すぎて自分達で業者を選ぶ権限すらないって事なのか…?


「上位支部からすれば、普段から取引している業者の中から、その時手の空いている者を使う方が確実ですからな。 わざわざアルヴァルトへ出入りしている商人と、その都度個別に交渉する理由もありません。 以前の代官様も積極的に介入はされなかったようですし、出張所側にも裁量がございませんので……。」


「結果、昔から同じやり方がそのまま続いてると。ガチでお役所仕事なんだなぁ。」


「そういうことになりますな。」


なんだそれ。


特定の何処か、誰かが悪いというよりも現場には権限がなくて変えられない、上の方は権限はあっても変える必要性を感じていないから変えないってところかな…。


上位支部側からすれば、現状でも仕事は回っている。


わざわざ辺境の商人と新しく交渉する手間をかけなくても、普段から付き合いのある業者に頼めば確実だ。


運送業者だって仕事を貰える。

結局、多少無駄があっても今の仕組みで誰も困ってない。

そりゃわざわざ変えようとは思わんわ…。


でも逆に言えば――


「じゃあ、別に特定の運送業者と利権でガチガチに固められてるわけじゃないんだ?」


「少なくとも、私の知る限りではそのような話はございません。」


「だったら俺が領主府直営で運送業作って、ギルドに参入を持ちかけても問題ない?」


「へ? ま、まぁ……制度上それを禁じる決まりは存じませんが……。 わざわざ領主様が運送業を……?」


ここだな。


「よし! だったら俺がその縦割りを横断すればいいんだよ! 領内の立て直しのために無駄を削減する! 領主として実に立派な仕事じゃないか!」


と、言ってしまえば方便だが、補助金は俺が出している金ではない。


無駄の削減どころか、領地に流れ込んでいる公金という蜜を吸いに来る羽虫が一匹増えただけとも言えなくはない。


で、でもほら。

ちゃんと輸送費自体は安くするわけだし。

俺は領民のためを思ってやってる事だから!


ホントだから!


………ホントだから!!


とりあえず、昨日思いついた案が制度上いきなり門前払いされる可能性は低そうだ。

あとは、どうやって今より輸送費を安くするか。


「ちなみにさ。 アルンに出入りしてる商人って、ここに来た後は何を仕入れて帰ってるんだ? 特産品とか?」


「特産品……そういった物がこの村でもあればよろしいのですがなぁ……。」


ヘルマンの顔が一気に曇った。


「商人に売れるような物は、この村にはほとんどありません……。 行商隊は基本的に、そのまま空荷で帰っていきます。 まぁ、たまに住民の手紙などを預けることくらいはありますが……。」


……マジか。


行きは商品満載。

帰りは空っぽ。

どこまで無駄だらけなんだこの領地。


「じゃあ決まりじゃん。

俺がギルドから輸送を請け負って、帰りの空いた荷車に魔物素材積んでもらえばいいだろ。

わざわざ別の輸送隊を呼ぶより絶対安いって。輸送力の一部を商人から買ってギルドに転売して儲ける!」


「いえ、お恐れながら、それだけでは難しいかと。」


早いな…。

もう却下された。


「商人の輸送隊だけでは、魔物の素材を全て積み切るには荷車が足りませぬ。 確かに帰りは空いておりますので、ある程度の素材を載せることは出来るでしょう。 しかし、アルンで出る魔物素材も量だけはございますからな。」


量だけは。

この領地を説明する時、やたらと悲しい言葉が多いな。


「じゃあ何回かに分けて――」


そこまで言いかけて、嫌な予感がした。


「……待てよ。 補助金って輸送隊一つごとだったよな?」


「はい。」


あぶねぇ。

自分で聞いたばっかりじゃん。

何便にも分けて運んだら、その分補助金まで増える。


確かに帳簿上は利益を作れるかもしれないが、それはもう完全に違う。

まぁ、公金チューチューのやり方としてなら、むしろそっちの方が悪どく儲けられるんだけどね。


回数を増やせば、それだけ補助金も下りる。

……いやダメだ。

増便されてるのに一回の輸送量まで減ってたら、誰が見ても不審だろ。

そんな事が伯爵に見つかろうものなら大目玉で、下手すりゃ普通に裁かれる。

しょうがない。

真っ当に公金を吸うしかないか……。


「んー。 そしたら商人に、最初から荷車を余分に連れて来てもらえばいいんじゃねーの?」


「何も載せる物がない荷車を、わざわざ空のままアルンまで引いて来てもらうのですか?」


「うん。」


「商人が嫌がりますぞ。」


「ですよねー…。」


「金を出せば引いて来てくれるでしょうが、それこそ輸送費を安くするという目的から外れてしまうのでは?」


「まぁ、そりゃそうだけど……。」


この人、意外とズバッと言ってくるな……。

まぁ、その方がありがたいっちゃありがたいんだが……この感じ大丈夫なのかな……?


そう思ってクラウディアの方にチラと目を向けると、僅かに眉間に皺を寄せている。

あ、やっぱダメなんだ。

彼女は元々表情に乏しいため、ヘルマンは気付いていないようだが……そう睨んでやるなよ。


しかし……この領地、ギリギリで成り立ってるから思いつきで発言しても速攻で正論言われて潰されるなぁ。


でも、今ので一個分かった。


「じゃあ逆に言えばさ。 こっちに持ってくる積荷さえ増えれば、商人だって荷車を増やす理由が出来るってことだよな?」


「……それは、そうですな。 売れるだけの商品がこちらで確実に捌けるのであれば、商人側も輸送量を増やす理由にはなるでしょうが…人口自体は少ない小さな領都ですから…」


よし。

今すぐ具体策は思いつかない。

だが少なくとも、行きの荷物を増やす。

帰りに空いた荷車へ素材を積む。

これが出来れば、片道ごとに別々の輸送を用意するよりはずっと無駄が少ない。

問題は、何をそんなにアルンへ運ばせるかだ。


「具体的にどうするかはこれから考えるとして……まず商人と話してみたいな。 アルンに来る中で、一番規模が大きいところってどこ?次いつ来る?」


「……小規模の行商であれば三日に一回ほどは行き来がありますが、領主様の目的を考えますと……そうですな。 二週間後くらいにライオード商会の行商の馬車がやってきます。 アルンに出入りしている中では、規模的にここが一番大きいかと。」


二週間か……。

それまでに、こっちへ運ばせる荷物を増やす手立てを考えなきゃならない。

思わぬ宿題が出来てしまった。


「よし、じゃあそれまでに何か考えてみるわ。 今日はありがとう。 助かったよ、ヘルマン。 また何かあったら声を掛けるかもしれないから、助けて貰えるとありがたい。」


「いえいえ、もったいないお言葉でございます。 大したお力にもなれず申し訳ございません。」


クラウディアは途中のヘルマンの態度にお冠だったみたいだけど、俺はコレで良いと思ってる。


ヘルマンから遠慮のない意見を貰えるくらい打ち解けてきたって事なわけだし、緊張も少しは解けてきたみたいだしな。


とりあえず今日のところはこれでお開きにして、握手をして別れた。


――――――――――その日の夕暮れ時。


自身の手配書が出回っている事に気づき、慌てて身支度を整えて、その日の内に王都を出た。


そして商隊の馬車なんかを乗り継ぎ、ここアルンに着いたのがおよそ2週間前。


大きな町に潜伏するのは得策ではない。とにかく田舎を目指した結果がこれだ。


暫くはほとぼりが冷めるまで大人しくしていようと、森の獣なんかを狩って飢えを凌いでいたが、流石にそろそろ限界だ。


ここでの生活もそろそろ潮時やな。

ここにはまともな仕事もない。

冒険者は街の規模を考えたら異常な程の人数が居るが、冒険者なんてまっぴらや。


誰があんな危ない仕事するかいな。

そんなわけで、この村に着いて一番最初に目星をつけておいた領主の屋敷でひと稼ぎさせてもろうてから、村を出る事にするわ。


まぁ、ずっと人なんて住んでないみたいやから、ロクなもん残ってるか分からんけど。


多少の懐の足しになればええ。

屋敷に近付き、周辺をひと回りすると、都合よく割れた窓があったので、そこからいとも容易く侵入する。


埃っぽい匂いとカビの不快な匂いに一瞬顔を顰めるが、逆に言えば、これが誰も居ないことの何よりの証拠でもある。


勝手知ったる我が家のような顔で鼻歌を歌いながら、炊事場へと向かった。


このような田舎の屋敷では大したものはないだろう。

となれば、金目の物があるとしたら逆に炊事場だ。

来客をもてなすためのカトラリーの類や、運が良ければ銀食器の1つや2つ転がっているかもしれない。


「こんにちは〜邪魔するで〜って誰かおるわけあるか〜い!」


そのまま上機嫌で中まで進んでいき、戸棚の中を漁り始めた時、ふと違和感を覚える。

やけに片付いている。

そして、ここまで来る間そこかしこで見ていたぶ厚い埃の堆積層が、この部屋の中では見られない。


なにかおかしいなと思ったところで、何気なく視線を向けた先の光景に、一気に危機感が湧き上がった。


うず高く積まれたトルタ芋を見て、人が住んでいなければこんな事はありえないと確信してしまった。


そうとなれば住人と鉢合わせにならないため、いただく物をいただいて、一刻も早くここを離れなければならない。


さすがに警戒心が低すぎた自分を反省する。

だが幸い、ここに来るまでの間に鼻歌を歌ったり大きめな声で独り言を言ったりしていたにもかかわらず、住人は気付いていないようだった。


やってしまった事は仕方ない。

ここから先は、音を出さないように注意すればいいだけ。

今までも造作もなくやってきた事だ。

それに留守の可能性だってある。

それならそんなに焦らなくても良かったか?

などと間の抜けた事を思いながら再び戸棚に手をかけた、その時だった。


「おい! クラウディア! 急に走り出してどうした! 何があった!? 待てって……」


「ご主人様申し訳ございません。 ネズミに侵入を許してしまいました。 この屋敷の台所に一人、侵入者がおります。」


まだ距離はあるはずなのに、こちらの状況を的確に見抜いている女の声。

なんでバレた!?っていうか

じゃあ、なんで今はまでバレなかった!?

それと、その女が「ご主人様」と呼んでいた男の方が、恐らくここの家主だろう。


ということは領主か!?

ここ空き家じゃなかったんか!?


焦りで思考がまとまらずアワアワと狼狽えているうちに、炊事場のドアがドカリと大きな音を立てて蹴り開かれる。


先程の声が聞こえてから5秒も経っていないはずなのに、メイド服を着た女はもう目の前に立っている。


だとすると、先程声が聞こえた位置から、ありえない速さでここまで駆け込んできたことになる。


顔も見られてしまった。

おまけに、とんでもない身体能力を思わせる相手と対峙することになってしまった。

今の状況は最悪だ。

「薄汚いコソ泥には過ぎた栄誉でしょうが、冥土の土産に我が名を教えて差し上げます。」


目の前の女が、頼んでもいないのに自分勝手な事を言ってくる。

メイドが「冥土の土産に」って…何クソ真面目な顔してダジャレ言うてんの…?

ふざけとるんか?


「我が名はクラウディア・ローゼンハイン」


俺の脳内のツッコミを遮るように女は冷え切った声で、そう名乗る。


「……覚えましたね?」


「では、死になさい。」

お読みいただきありがとうございます。

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