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婚約破棄された世話焼き令嬢は、隣国で問題児に捕まりました  作者: ミナト


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20/25

20 安全な場所

 証拠が揃った翌日、動いたのは側妃の方が早かった。


 朝、魔法師団の長から報告が入る。前夜に捕まった不審人物が、夜のうちに王宮の留置室から消えていたと。

 外部との繋がりがある者に解放されたか、あるいは最初から黙認されていたか――いずれにせよ、側妃の陣営がこちらの動きを掴んだことは確実だった。


「動くなら今夜だ。父上に報告して、側妃の居室を押さえる。留置する名目は――証拠は十分ある」

「ただ、逃げる可能性もある」


 カイが言った。


「西翼には別の出口があります。昨日の今日で、すでに荷物をまとめているかもしれない」

「見張りをつけろ。全出口に」

「すでに手配中です」


 話し合いが続く中、リリーナは資料を確認しながら考えていた。


(今夜、決着がつく)


 証拠はある。魔法師団が動く。王の権威がある。正面からぶつかれば、負けない。

 ただ、一つだけ頭から離れないことがあった。

 側妃は、追い詰められた状況でどう動くか。

 証拠が揃った、こちらが動こうとしている――

 それを知ったとき、人はどう動くか。逃げるか、戦うか。あるいは――

 切り札を使うか。


(切り札)


 リリーナは頭の中でその言葉を確かめた。

 アーレンにとっての最大の弱点は、呪いだ。呪いで動けなくなれば、何もできない。

 側妃はそれを二年以上使ってきた。ならば、いざとなれば――

 もっと強く、もっと深く、呪いを発動させようとするかもしれない。

 そしてもう一つ。

 先日、中庭でライゼルと出会った時に言っていた――「私のそばにいた方が、あなたのためになる」――

 あの言い方は、リリーナがアーレンの弱点になり得ることを、すでに知っている口ぶりだった。


(リリーナを使えばアーレンを止められる)


 その発想に、側妃が気づいていないはずがない。


「アーレン」


 リリーナが言うと、アーレンが顔を向けた。


「今夜の動きの間、私はどこにいればいいですか」

「この部屋だ」

「ここで待つということですか」

「そうだ。外に見張りも残す。ここが一番安全だろう」

「分かりました」


 答えながら、リリーナは思った。


(この部屋で待つことが、正解だろうか……)


 ◇ ◇ ◇


 夜になった。

 アーレンとカイと魔法師団の者たちが動き始めたのは、月が中天に差し掛かったころだった。リリーナはアーレンの部屋に一人残って――

 

 いや、残るはずだった。


 扉を閉めてから十分ほど経ったとき、部屋の壁が、動き始めた。

 正確には、壁の一部が扉になっていた。

 リリーナがそれに気づいた瞬間、後退しようとしたが、間に合わなかった。

 複数の人間が、隠し通路から出てきた。どれだけの時間、壁の向こうで待機していたのか、行動に迷いなく、素早かった。

 リリーナの両腕が後ろに取られる。


「……っ」


 声を出す間もなく口を塞がれて、別の布で目を覆われてしまった。


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