20 安全な場所
証拠が揃った翌日、動いたのは側妃の方が早かった。
朝、魔法師団の長から報告が入る。前夜に捕まった不審人物が、夜のうちに王宮の留置室から消えていたと。
外部との繋がりがある者に解放されたか、あるいは最初から黙認されていたか――いずれにせよ、側妃の陣営がこちらの動きを掴んだことは確実だった。
「動くなら今夜だ。父上に報告して、側妃の居室を押さえる。留置する名目は――証拠は十分ある」
「ただ、逃げる可能性もある」
カイが言った。
「西翼には別の出口があります。昨日の今日で、すでに荷物をまとめているかもしれない」
「見張りをつけろ。全出口に」
「すでに手配中です」
話し合いが続く中、リリーナは資料を確認しながら考えていた。
(今夜、決着がつく)
証拠はある。魔法師団が動く。王の権威がある。正面からぶつかれば、負けない。
ただ、一つだけ頭から離れないことがあった。
側妃は、追い詰められた状況でどう動くか。
証拠が揃った、こちらが動こうとしている――
それを知ったとき、人はどう動くか。逃げるか、戦うか。あるいは――
切り札を使うか。
(切り札)
リリーナは頭の中でその言葉を確かめた。
アーレンにとっての最大の弱点は、呪いだ。呪いで動けなくなれば、何もできない。
側妃はそれを二年以上使ってきた。ならば、いざとなれば――
もっと強く、もっと深く、呪いを発動させようとするかもしれない。
そしてもう一つ。
先日、中庭でライゼルと出会った時に言っていた――「私のそばにいた方が、あなたのためになる」――
あの言い方は、リリーナがアーレンの弱点になり得ることを、すでに知っている口ぶりだった。
(リリーナを使えばアーレンを止められる)
その発想に、側妃が気づいていないはずがない。
「アーレン」
リリーナが言うと、アーレンが顔を向けた。
「今夜の動きの間、私はどこにいればいいですか」
「この部屋だ」
「ここで待つということですか」
「そうだ。外に見張りも残す。ここが一番安全だろう」
「分かりました」
答えながら、リリーナは思った。
(この部屋で待つことが、正解だろうか……)
◇ ◇ ◇
夜になった。
アーレンとカイと魔法師団の者たちが動き始めたのは、月が中天に差し掛かったころだった。リリーナはアーレンの部屋に一人残って――
いや、残るはずだった。
扉を閉めてから十分ほど経ったとき、部屋の壁が、動き始めた。
正確には、壁の一部が扉になっていた。
リリーナがそれに気づいた瞬間、後退しようとしたが、間に合わなかった。
複数の人間が、隠し通路から出てきた。どれだけの時間、壁の向こうで待機していたのか、行動に迷いなく、素早かった。
リリーナの両腕が後ろに取られる。
「……っ」
声を出す間もなく口を塞がれて、別の布で目を覆われてしまった。




