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婚約破棄された世話焼き令嬢は、隣国で問題児に捕まりました  作者: ミナト


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18/25

18 罠

 王宮への滞在は、二週間になっていた。

 魔法師団との調査は着実に進み、眠りの呪いの術式を分析した結果、王宮内で使われた魔法の痕跡と一致する紋様が見つかった。さらにその術式の癖が、特定の魔法系統――水と夢を司る「幻惑系魔法」に属することも判明した。

 王宮で幻惑系魔法を専門とする術者は、多くない。


「絞れてきた」


 ある夜、アーレンが地図と資料を広げた部屋で言った。


「幻惑系の免許を持つ宮廷魔法師は十二人。そのうち王宮に在籍している者は八人。この術式の複雑さを施せるほどの技量を持つのは、そのうち三人だ」

「三人のうち、第二王子の母君と繋がりのある者は」

「調べている。ただ証拠がない」


 アーレンは地図の一点に指を置いた。王宮の西翼――側妃の居住区だ。


「側妃、エリザ・ヴォルト。第二王子ライゼルの母。後宮で最も権力を持つ妃だ。幻惑系魔法の素養があることは記録にある。ただ宮廷魔法師の免許は持っていない」

「免許がなくても、素養があれば呪いはかけられますか」

「かけられる。ただし、そのレベルの術式を施すには相当な訓練が必要だ。独学か、誰かに師事したか――そこを洗っている」


 リリーナは資料を手に取る。


「側妃の周辺の人間で、幻惑系に詳しい者がいれば」

「そこだ」


 アーレンが別の書類を引き出した。


「西翼の専属魔法師に、一人いる。ルード・カナン。表向きは護衛担当だが、専門は幻惑系だ。五年前から側妃に仕えている」

「五年前」

「アーレンの呪いが始まったのは、二年と少し前のことでしたね」


 リリーナが言うと、アーレンがうなずいた。


「準備期間があったとすれば、つじつまは合う」

「証拠を押さえるには、そのルードという人物か、側妃の私室に近づく必要がありますね」

「そこが問題だ」


 アーレンが腕を組んだ。


「西翼は側妃の縄張りだ。俺が近づけば気取られる。カイを使うにも限界がある。魔法師団が動けば、調査していることが側妃に伝わる可能性がある」

「……誰も知らない顔で近づける人間が必要ですね」


 言ってから、リリーナは気づいた。


(私は、まだ顔を知られていない)


 ライゼルとは会った。だが側妃とは、まだ顔を合わせていない。王宮に来て二週間、リリーナはアーレンの部屋周辺と魔法師団の棟にしか行っていなかった。つまり側妃の陣営には、リリーナの顔がほとんど知られていないはずだ。

 その可能性を口にするより前に、アーレンが言った。


「お前の考えていることは分かる」

「……」

「やめろ、危険だ」

「一番近道だと思いますが」

「だからやめろと言っている」


 リリーナはアーレンを見た。前髪の向こうで、こちらをまっすぐ向いている気配がした。


「……分かりました」


 その夜は、それで終わった。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の昼前、アーレンは魔法師団との打ち合わせに出かけた。

 リリーナはおとなしく自室で資料を読んでいたが、一時間ほど経ったとき、廊下を通った使用人に声をかけられた。


「エルフォード様、西翼の倉庫で古い魔法書の整理をしているのですが、分類が分からないものがあって。魔法に詳しいと伺ったので、少しよろしいでしょうか」


 頼まれごとを断るのは、リリーナの性分に合わない。

 アーレンは打ち合わせ中で連絡が取れない。カイも今日は別の用事があると聞いている。少し見るだけなら、と。


(でも、罠かもしれない)


 廊下を歩きながら、半分は分かっていた。

 でも、使用人はごく普通の顔をしていたし、本当に困っているように見えた。

 こういうとき、リリーナは立ち止まれない。困っている人間が目に入ると、判断より先に体が動く。

 それは自分でも知っている、どうしようもない癖だった。


 西翼の廊下に入ったとき、使用人の姿がなかった。

 振り返る間もなく、背後から腕が伸びてきて――

 リリーナは反射的に身をよじる。

 完全には逃げられなかったが、腕に捕まる前に半歩だけ前に出ることに成功した。

 振り向くと、男が二人いた。見覚えのない顔だった。使用人でも衛兵でもない、私服の男がいた。


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