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婚約破棄された世話焼き令嬢は、隣国で問題児に捕まりました  作者: ミナト


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17/25

17 第二王子

 王宮に来て七日目の午後。

 リリーナは一人で王宮の中庭を歩いていた。アーレンは魔法師団との別件の打ち合わせがあって、一時間ほど離れているから。

 噴水のそばで立ち止まって、空を見上げる。秋の光が、石畳に白く落ちていた。


「グランシアの侯爵令嬢だそうですね」


 声の方向に振り向くと、青年が立っていた。

 二十歳前後か、整った顔立ちで、金色の瞳。服装は明らかに王族のそれで、胸章の紋章がアーレンより上位のものを示していた。


(もしかして、第二王子……?)


 リリーナは直感した。アーレンから聞いていた情報と、目の前の人物が重なった。


「ライゼル・ヴェルト・ケセルトです」


 青年は、にこりと笑って自己紹介した。笑顔は愛想がよかった。

 だからこそ、リリーナは目の奥を見た。


「リリーナ・エルフォードと申します」

「知っています。アーレンの婚約者になったとか」

「そのように」

「ご愁傷様です」


 リリーナは少し首を傾けた。


「どういう意味でしょう」

「あの弟は問題児でしょう。学園でも散々だったと聞いていますよ。そんな相手を婚約者にするなんて、よほどのことがあったのかと」

「そうですね」

「ほう」

「でも、尊敬しているので」


 ライゼルが、わずかに目を細めた。


「尊敬、ですか」

「はい」

「物好きですね」

「よく言われます」


 ライゼルが噴水の縁に腰かけた。リリーナは立ったまま、距離を保った。


「一つ、教えてあげましょう」


 声が、少し変わった。愛想のいい層の下にあるものが、わずかに滲んだ声だった。


「アーレンにかかっている呪いは、そう簡単には解けません。術者が解かない限り、じわじわと効き続ける。最終的には――眠りから醒めなくなります」


 リリーナは動かなかった。


「……脅しているのですか?」

「事実をお伝えしています」

「そうですか……」

「怖くないんですか」

「もちろん、怖いです」


 リリーナは正直に答えた。


「だから解くためにもっと動かないと、と思いました」

「解けなかったら?」

「解きます」

「根拠は」

「あなたが術者なら、解いてもらいます」


 リリーナは動じずにライゼルを見た。


「……面白いことを言いますね」


 ライゼルが、また笑う。今度の笑みは最初とは違う種類だった。


「私が術者かどうかは、まだ分かっていないでしょうに」

「そうですね。だから『なら』と言いました」

「なるほど」


 ライゼルが立ち上がった。


「アーレンがそんな婚約者を選ぶとは思いませんでした」

「私も思いませんでした、こうなるとは」

「まあ――」


 ライゼルが、リリーナのそばを通り過ぎた。耳元に近い距離で、低い声が落ちた。


「兄上はどうせ長くない」


 リリーナは動かなかった。

 ライゼルの足音が、中庭の石畳を遠ざかっていく。

 噴水の音だけが残った。


(長くない、か)


 リリーナは息を吐いた。

 怖い、と思った。

 あの言い方は、単なる脅しではない気がしたから。

 確信を持って言っている声だった。

 でも――


 リリーナは空を見上げる。


(だから、早く解かなければ)


 それだけだった。

 アーレンが戻ってくる。一時間の打ち合わせはそろそろ終わる頃だ。

 リリーナは中庭を歩き始める。アーレンのいる棟の方向へと。


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