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EP 4

命のビザ(月の奇跡)――黄金の大地への招待状

昭和16年(1941年)。

アメリカ発の世界的な株価大暴落(幸隆のカウンター)によって列強の経済が阿鼻叫喚の地獄と化していた頃。

ヨーロッパはそれとは別の、血と絶望の泥沼に沈んでいた。

ナチス・ドイツの台頭により、迫害を受けた数百万のユダヤ人たちが故郷を追われ、ヨーロッパ中に溢れ返っていたのである。

だが、正義を標榜するアメリカやイギリスといった連合国(列強)は、自国の経済と治安を優先し、彼ら難民の受け入れを頑なに拒否していた。

「……助けてくれ。どこでもいい、私たち家族にビザを……!」

「我が国では受け入れられない。他を当たれ!」

各国の大使館の前では、毎日こうした無慈悲なやり取りが繰り返され、難民たちは行き場を失い、冷たい路上で凍え死ぬのを待つしかなかった。

そんな中、中立国スイス・ジュネーブの国際会議場。

世界中のメディアや各国の外交官が集まるその壇上に、大日本帝國・特命全権大使である日野輝夜が静かに歩み出た。

日本といえば、数日前にアメリカから「禁輸措置」を受け、逆にアメリカ経済を崩壊させたばかりの国である。

欧米の記者たちは「野蛮な極東の国が、ついに世界に向けて宣戦布告でもする気か」と、敵意と警戒心に満ちた視線を輝夜に向けていた。

フラッシュの嵐の中、輝夜は真っ白なドレスを揺らし、凛とした佇まいでマイクの前に立った。

「……世界中の、心ある皆様へ」

輝夜の、静かだがよく通る澄んだ声が、張り詰めた会議場に響き渡った。

「現在、大日本帝國はアメリカ合衆国より不当な経済封鎖を受けております。彼らは我が国を『世界の脅威』と呼び、国際社会から孤立させようとしています」

記者席から、欧米の記者たちの「当然だ!」「貴国がアメリカの市場を破壊したからだろう!」という野次が飛ぶ。

だが、輝夜は全く動じず、悲しげに目を伏せた。

「……ええ。大国同士の争いは、いつの時代も泥にまみれています。ですが、その泥の中で一番苦しんでいるのは誰でしょうか?」

輝夜は顔を上げ、会場の後ろの方で不安げに様子を見守っている、ボロボロの服を着た難民の代表者たちへと視線を向けた。

「国家の都合で故郷を追われ、列強から見捨てられ、明日の命すら保証されない人々。……大日本帝國は、この悲劇を座視することはできません」

輝夜は、手元の分厚い書類――近衛総理の署名と、大日本帝國の国璽が押された『勅令』を高く掲げた。

「本日、大日本帝國政府は宣言します。……我々は、ナチスの迫害から逃れ、行き場を失った『すべてのユダヤ人難民』に対し、無条件で日本への通過・滞在ビザを発給いたします!!」

「な……ッ!?」

「す、すべてだと!? 数万人、いや十万人規模だぞ!!」

会議場が、一瞬にして凄まじいどよめきに包まれた。

アメリカやイギリスでさえ「自国の負担になる」と見捨てた難民たちを、極東の島国が丸ごと受け入れるというのだ。

「馬鹿なことを言うな!」

イギリスの記者が立ち上がり、怒鳴りつけた。

「資源を封鎖され、自国民すら養えるか分からない極東の島国に、何十万人もの難民を受け入れる余裕などあるはずがない! これはただの偽善プロパガンダだ!」

「いいえ。余裕はあります」

輝夜は、世界中を射抜くような力強い視線で、記者たちを見据えた。

「我が国の総理は、数年前からこの事態を予測し、広大な『満州』の地に、世界最高のインフラと農地、そして誰もが平等に働ける巨大な『受け入れ都市』を建設しておりました。……資源も、食料も、彼らが新しく人生をやり直すための仕事も、すべて我々が用意しています!」

幸隆が、史実の満州国が抱えていた負の遺産を完全に浄化し、理研の技術と巨額の資金を投じて作り上げた『黄金の大地』。

それは、いざという時の日本の生命線であると同時に、輝夜が世界を救うための「巨大な箱舟」でもあったのだ。

「大日本帝國は、いかなる人種も、宗教も差別しません。……どうか、絶望しないでください。私たちが、皆様の命と尊厳を、必ず守り抜きます」

輝夜が深く、美しく一礼した瞬間。

会議場の後ろにいた難民たちが、ポロポロと涙をこぼし、次々とその場に崩れ落ちた。

「おお……おおおお……ッ!!」

「神よ……! 救世主だ……!!」

彼らにとって、輝夜の背中には、文字通り後光(月の光)が差しているように見えた。

そして、その衝撃的な「命のビザ宣言」は、ラジオと新聞を通じて、瞬く間に世界中へと発信された。

『アメリカとイギリスが難民を見捨てる中、日本が全世界の難民救済を発表!』

『大日本帝國こそ、真の人道主義国家である!』

アメリカが流そうとしていた「日本=野蛮な侵略国家」というプロパガンダは、輝夜の放った神々しい王道の光によって、完全に粉砕されたのである。

   ◆

数日後。

アメリカ・ワシントン。大統領執務室。

「……何が起きているのだ。これは、何の冗談だ……ッ!」

大統領は、窓の外の光景を見て、頭を抱えていた。

ホワイトハウスの周辺は、自国の国民たちによる『数万人規模のデモ隊』によって完全に包囲されていた。

『偽善者の大統領を引きずり下ろせ!!』

『なぜ我が国は、あんなに慈悲深い国(日本)を経済封鎖しているのだ!』

『難民を見捨てた非人道的な合衆国政府を許すな!!』

幸隆の経済攻撃によって株価が暴落し、生活が苦しくなっていたアメリカ国民の怒りは、輝夜の「世界的聖女」としてのニュースによって完全に爆発し、自国政府の首へと向かっていた。

(ワシが経済でアメリカの息の根を止めた瞬間、輝夜、お前は表舞台で世界の世論を奪い取ってこい)

すべては、極東の島国にいる二人のチートプレイヤーが仕組んだ、完璧な『サンドイッチ戦略』だったのだ。

幸隆が放つ、容赦のない「黒い太陽(覇道)」。

輝夜が放つ、慈愛に満ちた「月(王道)」。

武力ではなく、経済と人道によって、大日本帝國は今、世界の覇権国としての階段を一気に駆け上がろうとしていた。

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