表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/93

EP 3

傲慢なる鷲の墜落――音なき心臓破壊

昭和16年(1941年)。

アメリカ・ワシントンD.C.のホワイトハウスで、大統領が「対日全面禁輸措置」を高らかにラジオで宣言した、まさにその直後。

世界経済の中心地であるニューヨーク・ウォール街の証券取引所に、前代未聞の「嵐」が吹き荒れていた。

「お、おい! 何だこの売り注文の嵐は!?」

「軍需企業の株が、秒単位で暴落していくぞ! いったいどこのファンドが投げ売りしてるんだ!?」

立会場に響き渡る、仲買人たちの悲鳴。

大統領の演説からわずか一分後。世界中に散らばっていた複数の巨大なダミーファンド(その実態は、幸隆が理研の電子計算機を駆使して構築した日本の特務金融機関)が、一斉に保有していたアメリカ国債と、航空機・造船などの『米国軍需産業』の株式を、市場の底が抜けるほどの規模で「空売り」し始めたのだ。

さらに、そこに追い打ちをかけるように、ロイター通信のテレタイプが、とんでもない臨時ニュースを打ち出した。

『――緊急速報! 大日本帝國政府が、東南アジアから米国へ向けた【特殊レアメタル(タングステン・チタン等)】の輸出を全面停止と発表! これにより、米国の最新鋭爆撃機および艦船の製造は、事実上不可能になる見通し!!』

「な、なんだってェェッ!?」

「日本が資源を絶たれたんじゃないのか!? 逆に俺たちの兵器工場が止められたぞ!!」

『売りだ! 全部売り払えェェッ!!』

パニックは連鎖し、瞬く間に制御不能の暴走機関車となった。

アメリカの株式市場は、かつての暗黒の木曜日ブラック・サーズデーすら児戯に思えるほどの、絶望的な垂直落下を開始した。大統領が引いたはずの「日本への死刑宣告の引き金」は、完全に自国の経済(心臓)を撃ち抜いていたのである。

   ◆

同時刻。ホワイトハウスの大統領執務室。

日本への「完璧な兵糧攻め」が成功したと確信し、側近たちと最高級のシャンパンで祝杯を挙げていた大統領の元へ、財務長官が血の気を引かせた顔で転がり込んできた。

「だ、だだだ大統領閣下ァッ!! 大変です!! ウォール街が……アメリカ経済が、完全に崩壊しています!!」

「……は?」

大統領は、シャンパングラスを持ったまま呆然と声を漏らした。

「何を馬鹿なことを言っている。日本への禁輸を発表したのだ。我々の軍需産業は、これからますます……」

「違います! 日本が……日本が、数年前から密かに我が国の国債と株を買い占めており、大統領の演説のタイミングと『一秒の狂いもなく』、全財産を投げ売りしてきたのです!!」

「な……ッ!?」

ガシャンッ! と、大統領の手からシャンパングラスが滑り落ち、床で粉々に砕け散った。

「さらに、日本が東南アジアのレアメタルの輸出をストップしたことで、我が国の軍需工場は明日から完全な操業停止です! ……閣下、我々は日本を経済封鎖したのではありません! 日本の仕掛けた『巨大な経済のキルゾーン』のど真ん中に、自ら嬉々として飛び込んでしまったのです!!」

財務長官の悲痛な叫びが、執務室に空しく響き渡る。

傲慢なアメリカは、自分たちが狩る側だと信じ切っていた。だが、極東の島国で糸を引いていた「黒い太陽」は、未来の知識(歴史のカンニング)を使って、アメリカがその行動に出ることすら、何年も前から完全に予測していたのだ。

「あ……あり得ない……。資源のない後進国である黄色人種の猿どもに、そんな高度な金融工学と、深謀遠慮があるというのか……ッ!」

大統領は、心臓を鷲掴みにされたように胸を押さえ、その場にへたり込んだ。

   ◆

その翌日。

帝都・東京の首相官邸。

「総、総理ィィッ!! どういうことだ、これは!!」

顔面を真っ青にし、髪を振り乱した駐日アメリカ大使ウィリアムズが、護衛の制止も聞かずに総理執務室へと怒鳴り込んできた。

数日前にソファにふんぞり返り、傲慢に日本を見下していた姿は見る影もない。

近衛文麿(若林幸隆)は、デスクの奥でゆったりと備前焼のぐい呑みに注いだ日本酒を呷り、氷のように冷たい三白眼でウィリアムズを見下ろした。

「……何がじゃ、ウィリアムズ大使。ワシは今、旨い酒を飲んどるんじゃ。騒ぐな」

「とぼけるな! 貴国が我が国の市場に仕掛けた空売り攻撃とレアメタルの禁輸……! あんな卑劣な真似、国際社会が許すと思っているのか!! すぐに制裁を解除しろ!!」

ウィリアムズの悲痛な叫びに対し、幸隆はドス黒い広島弁で低く笑った。

「卑劣じゃと? 笑わせるな」

幸隆は、ドカッとデスクに足を乗せ、狼のように牙を剥いた。

「ワシらは一発の銃弾も撃っとらんし、誰の命も奪っとらん。お前らが大好きな『資本主義のルール』に則って、合法的に経済で殴り返しただけじゃろうが」

「ッ……!!」

ウィリアムズは言葉に詰まり、ギリッと唇を噛み締めた。

「そもそも、先に『禁輸』という経済の暴力でワシらの首を絞めに来たのは、お前らの方じゃ。……自分が殴るのはよくて、殴り返されたら『卑劣だ』と騒ぐ。毛唐のタヌキどもは、ホンマに都合のええ脳みそをしとるのう」

幸隆は、備前焼の灰皿にタバコを押し付け、地獄の底から響くような声で言い放った。

「……おどれらが『大日本帝國に手を出せばどうなるか』、その傲慢な身体の芯まで叩き込んじゃる。帰って、お前の大統領に伝えろ」

幸隆の放つ、圧倒的な強者としての覇気。

それは、かつて史実で日本を蹂躙した大国に対し、完全に『格付け』を済ませた瞬間であった。

「……アメリカが『完全降伏』のサインをするまで、この首輪は絶対に外さん、とな」

ウィリアムズは、恐怖でガチガチと歯の根を鳴らし、へたり込むようにして執務室を逃げ出した。

大日本帝國の最高権力者チートプレイヤーが放った、一滴の血も流さない残酷な『逆包囲網』。

無敵を誇ったアメリカ経済は、開戦すらさせてもらえぬまま、黒い太陽の熱によって無惨に焼き尽くされていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ