表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
124/145

EP 11

伝道師オタクたちの帰還――世界総属国化計画

昭和17年(1942年)秋。

大日本帝國が主催した『世界平和記念・大晩餐会』から数週間後。

花の都と称されたフランス・パリの豪奢な邸宅に、数十人のフランス貴族たちが集まっていた。

彼らの中心にいるのは、日本から帰国したばかりのフランソワ侯爵である。

「……やれやれ、災難だったな侯爵。極東の未開な島国で、さぞ野蛮な食事と退屈な余興を見せられたのだろう?」

貴族の一人が、同情するような、しかし日本を見下すような笑みを浮かべてワイングラスを傾けた。

だが、フランソワ侯爵は、その言葉を聞いた瞬間、ワイングラスをテーブルに激しく叩きつけた。

「野蛮だと!? この無知蒙昧な愚か者どもめ!!」

「な、なんだ侯爵!?」

侯爵の凄まじい剣幕に、周囲の貴族たちがビクッと肩を震わせる。

「貴様らは何も分かっていない! 我々が誇るフランスの芸術や美食など、あの大日本帝國の『エンターテインメント』の前では、泥水と子供の落書きに等しいということをな!」

フランソワ侯爵は、目を血走らせながら、背後の従者に合図を送った。

「見ろ! そしてひれ伏せ! これが神の国の芸術カルチャーだ!!」

従者たちが恭しく運んできたのは、輝夜から特別に譲り受けた『理研特製・超高精細プロジェクター』と、大量の『翻訳版コミックス(マンガ)』であった。

部屋の明かりが落とされ、巨大なスクリーンに『未来の日本アニメ』が投影される。

「な、なんだこの美しい色彩は……!」

「絵が……絵が生きているだと!? この音楽はなんだ、魂が震える……ッ!!」

二時間後。

パリの豪邸には、フランソワ侯爵と同じように、床に這いつくばってボロボロと号泣するフランス貴族たちの姿があった。

「うおおおおッ! 主人公の少女が……尊い! 尊すぎるぞォォォッ!!」

「侯爵! この『マンガ』という神の書物、一巻の続きはないのか!? 頼む、私の領地の半分を譲るから、二巻を読ませてくれぇぇッ!!」

「馬鹿者、私だってまだ三巻までしか持っていないのだ! だが安心しろ、来月になれば日本から貨物船で『新刊』と、キャラクターの『フィギュア(偶像)』が届く手はずになっている!」

かつて気位の高かったフランス貴族たちは、完全に日本のサブカルチャーに脳を破壊され、ただ新刊の発売日を心待ちにする『重度のオタク集団』へと変貌を遂げていた。

彼らは自らの資産を惜しげもなく投げ打ち、日本のエンタメを輸入するための「布教活動(オタ活)」に狂奔し始めたのである。

   ◆

同じ現象は、どん底の貧困と敗北感に沈んでいたイギリス・ロンドンでも起きていた。

ダウニング街の首相官邸。

「……首相閣下。日本から帰国した元・大臣が、市民に向けて奇妙な『配給』を行っております」

秘書官の報告に、疲れ切ったイギリス首相は重い顔を上げた。

「配給だと? 我が国にはもう、パン一つ買う外貨もないはずだが……極東の日本から食糧でも施されたというのか?」

「い、いえ。配っているのは食糧ではありません。『アニメのフィルム』と、『マンガ』と呼ばれる娯楽本です。……それが今、ロンドン中の市民に爆発的に蔓延しておりまして……」

「なんだと? 飢えと寒さに苦しむ市民に、そんな娯楽を与えて何になる!」

首相が声を荒らげた、その時だ。

窓の外から、何万人もの市民による「地響きのような大合唱」が聞こえてきた。それは暴動の怒号ではない。

日本のアニメの『オープニング主題歌(もちろん日本語)』を、ロンドン市民たちが完璧な発音で熱唱している声であった。

「な、なんだこれは……ッ!?」

首相が慌てて窓を開けると、そこには、数日前の暗い表情が嘘のように、目をキラキラと輝かせた市民たちが、手製のキャラクターグッズを振り回して熱狂している姿があった。

『大英帝国は終わったが、我々には日本のアニメがある!』

『推しのために生きるぞ! 次の配給(新刊)まで、絶対に死んでたまるか!!』

彼らは、日本のエンタメという【極上の精神安定剤】を与えられたことで、飢えや寒さの絶望から完全に立ち直っていた。

いや、立ち直ったというよりも、「日本のコンテンツを消費するためだけに生きる労働力」へと、そのアイデンティティを完全に上書きされてしまったのだ。

「そ、総理……市民たちは、日本から送られてくる『グッズ』を買うために、家の家具や貴金属をすべて日本円に換金し始めています。……我が国の残された富が、凄まじい勢いで極東の島国へと吸い上げられています!」

秘書官の悲鳴に、イギリス首相は膝から崩れ落ちた。

武力で奪われるのではない。市民たちが、自ら喜んで全財産を差し出しているのだ。

「これが……これが極東の魔女(輝夜)のやり方か……。我々は、精神の根底から、完全に大日本帝國に支配されたのだ……」

もはや、イギリスに反逆の意思を持つ者など一人もいなかった。

なぜなら、「推し(キャラクター)を生み出してくれる神の国」に銃を向けるオタクなど、この世に存在しないのだから。

   ◆

時を同じくして。帝都・東京、首相官邸。

総理執務室の巨大モニターには、世界中からリアルタイムで送られてくる『凄まじい莫大な利益(外貨獲得額)』のグラフが、天井知らずの右肩上がりを描いていた。

「……アーッハッハッハ! 笑いが止まらんわ!!」

近衛文麿(若林幸隆)は、デスクの上に足を投げ出し、最高級のブランデーを煽りながら悪党の笑い声を響かせた。

「見ろ輝夜! ヨーロッパの貴族どもが、ただの『塩化ビニール(プラスチック)のフィギュア』に、本物の金塊をポンポンと払いよるわ! 錬金術なんてもんじゃねえ、究極のボロ儲けじゃ!!」

「ふふっ。理研の工場をフル稼働させても、生産が追いつかないほどの大盛況のようですね」

日野輝夜は、優雅に紅茶を啜りながら、手元の報告書に目を落とした。

「フランスでは、侯爵が自費で『アニメイト(日本文化専門店)』の第一号店をパリに建設したそうです。イギリスでは、配給のマンガを巡って徹夜組が出ているとか。……彼らはもう、私たちのエンタメなしでは一日も生きられません」

輝夜の瞳が、静かに、そして恐ろしいほどの知性を帯びて細められる。

「幸隆さん。これで世界は、本当の意味で『一つ』になりました」

「ああ。武力で脅した時は裏でコソコソ反逆を企てとった連中も、今や『次のアニメの放送を止めるぞ』と一言脅すだけで、土下座して靴を舐めてくるんじゃからな。……全く、オタクちゅうのはどこの世界でもチョロい生き物じゃて」

幸隆は『ピース』の煙を吐き出しながら、クックックッとドス黒く笑った。

武力(兵器)の力で理不尽を粉砕し。

経済チートインフラの力で傲慢な国を干上がらせ。

最後に、文化エンタメの力で世界中の精神を完全に支配する。

太陽と月の最強バディが仕掛けた、人類史上最も残酷で、最も平和的な【世界総属国化計画】は、一発の銃弾も流すことなく、ここに完璧なる完成を見たのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ