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EP 8

神の火と、天照の天罰――時代遅れの終末兵器

昭和17年(1942年)春。

北米大陸の荒野の地下深くに建造された、旧連合国の極秘軍事施設。

その巨大な格納庫で、白人至上主義の残党たちを束ねるハリソン将軍は、歓喜のあまり全身を震わせていた。

「おお……。ついに、ついに完成したぞ。我々が極東の猿どもに裁きを下す、究極の兵器が!」

彼の視線の先には、鈍い銀色に光る巨大な爆弾があった。

ナチスから亡命した天才科学者たちと、アメリカの莫大な隠し資金をすべてつぎ込み、数年の歳月をかけて生み出された悪魔の結晶。

ウラニウムの核分裂反応を利用し、一発で大都市を灰燼に帰す大量破壊兵器――原子爆弾『ゼウス』であった。

「日本の連中がどれほど小賢しい未来技術を持っていようと、この圧倒的な『神の火』の前には無力だ。……今すぐ大型爆撃機に積み込め! 目標は、大日本帝國の心臓部・東京だ!!」

ハリソンの命令により、原爆『ゼウス』は最新鋭の高高度爆撃機へと慎重に積み込まれた。

彼らは完全に勝利を確信していた。

日本のレーダー網を掻い潜るため、成層圏ギリギリの超高高度を飛ぶ。そして帝都の上空でこの爆弾を投下すれば、数百万の命が一瞬で蒸発し、日野輝夜も近衛文麿も消し飛ぶ。

世界は再び、恐怖によって自分たち白人の前に平伏すのだ、と。

「……世界中に、我々の『勝利の宣言』を打電しろ! あの忌々しい月の女王の化けの皮を剥いでやる!!」

   ◆

数時間後。世界中のラジオ放送に、突如としてノイズが走り、ハリソン将軍の傲慢な声が響き渡った。

『――世界中の愚かなる民衆よ。そして、大日本帝國の偽善者どもよ!』

その声は、平和を謳歌していた世界中の人々を震え上がらせた。

『我々は、太陽の熱線を生み出す究極の爆弾【神の火】を手に入れた! すでに我が軍の爆撃機は、東京の真上へと向かっている。……日野輝夜よ、無条件降伏を宣言し、我々の前に跪け! さもなくば、東京は一瞬にして放射能の灰と化すであろう!!』

世界中がパニックに陥った。

あの無敵の大日本帝國が、ついに未知の超兵器によって滅ぼされるのか。インドやアジアの民衆たちは、輝夜の無事を祈って天を仰いだ。

だが。

ハリソン将軍の『勝利の最後通牒』が世界に響き渡っていたその時。

帝都・東京の総理執務室では、信じられないほど呑気な光景が広がっていた。

「……ほう。本当に作りよったか、原爆あんなもんを。ご苦労なこっちゃのう」

近衛文麿(若林幸隆)は、ソファに深く腰掛け、愛用の『ピース』を美味そうにふかしながら、けたけたと笑っていた。

彼の目の前にある理研の戦術モニターには、太平洋上空を飛ぶ敵の爆撃機の位置が、数ミリの狂いもなく正確に表示されている。

「幸隆さん。彼らは『神の火』だなんて、大層な名前をつけて喜んでいるみたいですよ」

日野輝夜は、淹れたての紅茶を幸隆の前に置きながら、心底呆れたようにクスリと微笑んだ。

「クックックッ! 核分裂あんなもん、ただウランを叩き割って放射能を撒き散らすだけの、はた迷惑な『汚い爆竹』じゃねえか。……五十年前の遺物でドヤ顔してワシらを脅迫してくるとは、マジで腹が痛いわ」

幸隆は、デスクの上の赤いボタンにゆっくりと指を乗せた。

「……輝夜。世界中が心配しとる。おどれの優しい声で、あの時代遅れのネズミどもに『現実』を教えてやれ」

「ええ。分かりました」

輝夜は、マイクのスイッチを入れた。

   ◆

『――ハリソン将軍。そして、地下に隠れ住む残党の皆様』

地下要塞の司令室で、勝利の美酒を傾けていたハリソン将軍たちの耳に、突如として日野輝夜の凛とした声が響き渡った。

回線を完全にハッキングされたのだ。

「な、なんだ!? 降伏宣言か!?」

ハリソンがモニターに噛み付くように身を乗り出す。

だが、スピーカーから流れてきたのは、命乞いでも恐怖の悲鳴でもなく。

彼らを心の底から憐れむような、絶対的な強者の『慈悲』であった。

『あなたたちが全財産と人生を賭けて、何年も地下に引きこもって作り上げたその玩具……。本当に、ご苦労様でした』

「……お、玩具だと!?」

『ですが、あなたたちは致命的な勘違いをしています。……私たちが、あなたたちの兵器開発に気づいていないとでも思いましたか?』

輝夜の声が、氷のように冷たく研ぎ澄まされる。

『私たちは、あなたたちが必死にウランを濃縮しているのを、ずっと宇宙(空)から見守っていました。……なぜ止めなかったか? それは、あなたたちが【最も希望に満ちた絶頂の瞬間】に、すべてを叩き壊してあげるためです』

「き、貴様ッ! ハッタリを抜かすな! 爆撃機はすでに東京の防空圏内に入っている! 貴様らの旧式な対空砲では絶対に届かない高度だ!! 投下しろォォッ!!」

ハリソンが無線に向かって絶叫した。

太平洋上空の成層圏。爆撃機のパイロットが、投下ボタンに手を伸ばす。

しかし。

そのボタンが押されるより、ほんの僅かに早く。

帝都の上空、遥か大気圏外に浮かぶ理研の軍事衛星『天照アマテラス』から、一条の【極太のレーザー光線】が、音もなく撃ち下ろされた。

ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!

「……え?」

地下要塞のレーダー画面から、爆撃機の反応が『一瞬』で消失した。

爆発すら起きなかった。

光の速度で放たれた数万度の高出力レーザーは、爆撃機と、それに積まれていた『ゼウス』ごと、細胞の一片も残さずに空中で【完全昇華(蒸発)】させたのである。

放射能の灰を撒き散らす暇すら与えない、神の怒りのような一撃。

「な……ば、馬鹿な……ッ!?」

ハリソン将軍の顔から、すべての血の気が引いた。

モニターが切り替わり、そこに、悪魔のようにドス黒く笑う近衛文麿(若林幸隆)の顔が映し出された。

『よう、負け犬ども。お前らの自慢の爆竹、ワシのレーザー網(ハエ叩き)で消し飛ばしてやったぞ』

「こ、近衛文麿ォォォッ!! き、貴様ら、一体どんな悪魔の兵器を……ッ!!」

『悪魔の兵器? 違うな。こいつはただの「防衛用」じゃ』

幸隆は、腹の底から馬鹿にするように笑い飛ばした。

『お前ら、原子を割って喜んどったが……ワシらはとっくの昔に、そんな汚い技術はゴミ箱に捨てたんじゃ。……見ろ』

モニターに、夜の帝都・東京の姿が映し出される。

その街を煌々と照らしているのは、東京湾に浮かぶ巨大なプラントから生み出される、眩いばかりの光だった。

『ワシらは原子を割るんやない。【融合】させるんじゃ。……お前らが兵器として使おうとした力を、ワシらはとっくに、街を照らす「無尽蔵のクリーンエネルギー(核融合炉)」として実用化しとるんよ』

「か、核融合だと……!? ば、馬鹿な、そんな技術、百年先でも不可能だ!!」

ナチスの科学者たちが、頭を抱えて発狂したように叫ぶ。

自分たちが全財産を賭けて作った「究極の切り札」が、日本にとっては『すでに卒業したカビの生えた技術』であり、彼らはその上位互換を「ただの電球の代わり」として使っていたのだ。

これほどの圧倒的な技術格差。これほどの絶望的な屈辱。

『さあ、授業は終わりじゃ』

幸隆の三白眼が、極限の殺意を帯びて細められた。

『お前らみたいな、世界を燃やそうとする危険なゴミは、その地下墓地から一生出られんようにしてやる』

ドォォォォォォンッ!!!!!

次の瞬間、ハリソンたちのいる地下要塞全体が、激しい地震のように揺れ動いた。

宇宙からのレーザーが、要塞の出入り口と換気口がある岩盤をピンポイントで超高温で熱し、ドロドロのマグマに変えて【完全封鎖】したのだ。

「ひぃッ!? と、扉が溶けて開かないぞ!!」

「酸素が……換気口も潰された!!」

『せいぜい、自分たちの時代遅れな脳みそを呪いながら、暗闇の中で酸欠になってくたばるんじゃな。……あの世で、ワシらが創る永遠の黄金時代パクス・ジャポニカでも見上げとけや』

プツン、と。

無慈悲に通信が途絶えた。

世界を恐怖に陥れようとした愚かな亡霊たちは、自分たちが作った檻の中で、誰にも知られることなく絶望の涙を流し、その惨めな生涯を終えることとなる。

大日本帝國を脅かす『最後の物理的脅威』は、一人の血も流すことなく、ただ圧倒的な絶望と共に、歴史の闇へと消え去ったのである。

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