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EP 7

大アジアの夜明けと、愚者たちが灯す『禁忌の火』

昭和16年(1941年)秋。

大英帝国が経済崩壊によって自滅し、「沈まぬ太陽」と呼ばれた時代が完全に終わりを告げた。

その直後、世界地図は劇的な変化を遂げることとなる。

インド全土を熱狂の渦に巻き込んだ大ストライキの成功を皮切りに、ビルマ、マレー、インドネシアなど、長年白人国家の植民地支配に苦しんできたアジアの国々が、次々と『独立』を高らかに宣言したのである。

彼らを縛り付けていた鎖は、大日本帝國の圧倒的な経済力とチート兵器の傘によって、跡形もなく消し飛んでいた。

熱狂に包まれたデリーの中央広場。

かつてカニンガム総督が民衆に銃口を向けさせたそのバルコニーには今、新しいインド独立政府の指導者たちと、純白のドレスに身を包んだ日野輝夜の姿があった。

「――大日本帝國特命全権大使、日野輝夜様に、大アジア数億の民を代表して、永遠の感謝と忠誠を誓います!!」

広場を埋め尽くす数百万の群衆が、一斉に歓喜の涙を流し、地響きのような万歳を叫ぶ。

武力による恐怖政治ではない。飢えた者には無尽蔵の食糧を与え、虐げられた者には『魔法の小箱ラジオ』で真実の言葉を届けた。

彼らにとって、輝夜はもはや一国の政治家ではなく、天から降り立った『自由と慈悲の女神』そのものであった。

「……皆さんの笑顔こそが、私にとっての最大の報酬です。共に、手を取り合って新しい黄金の時代を築きましょう」

輝夜が優しく微笑み、手を振るたびに、群衆の熱狂は限界を超えて爆発する。

一滴の血も流さず、数億の民の心を完全に掌握した大日本帝國。

白人至上主義の時代は完全に終焉を迎え、『パクス・ジャポニカ(日本の平和)』は、道徳的にも世界の頂点に君臨したのである。

   ◆

だが、光が強ければ強いほど、その影で蠢く者たちの憎悪もまた、ドス黒く肥大化していく。

同じ頃。

北米大陸の荒野の地下深く、大日本帝國の監視の目から逃れるように建造された極秘の軍事施設。

薄暗い会議室に集まっていたのは、日本との経済戦に敗れて失脚したアメリカの強硬派将校たち、資金源を絶たれたイギリス貴族の残党、そしてナチス・ドイツから亡命してきた狂信的な科学者たちであった。

「……忌々しい極東の猿どもめ。我々が築き上げた崇高なる文明の秩序を破壊し、有色人種の奴隷どもを唆して世界を支配する気か」

元・アメリカ陸軍の将官が、憎々しげにテーブルを叩いた。

「通常兵器では勝てない。奴らの持つ『空から降る爆弾(クラスター弾)』や『魔法の輸送船(巨大飛行船)』は、我々の科学力を半世紀は先取りしている。……だが、我々白人が有色人種に屈するなど、神が許しても私が許さん」

将官が目配せをすると、白衣を着た初老の天才科学者が、恭しく一つのアタッシュケースをテーブルの上に開いた。

中に収められていたのは、青白く不気味な光を放つ、特殊な金属の円柱だった。

「……皆様。これが我々の『最後にして最大の希望』です」

科学者の目が、狂気に歪む。

「ウラニウムの核分裂反応……。この小さな金属の塊が連鎖反応を起こせば、理論上、たった一発で『太陽の中心』と同じ超高熱と爆風が生み出されます。大都市一つを、数秒で消し飛ばすほどの【神の火】です」

その言葉に、絶望していた残党たちの目に、ギラギラとした暗い野心の光が灯った。

「これなら……。この『究極の爆弾』さえ完成させれば、あの小賢しい日野輝夜も、悪魔のような近衛文麿も、帝都もろとも一瞬で灰にできるというのだな!?」

「ええ。我々はこの計画を『マンハッタン・プロジェクト』と名付けました。……完成の暁には、再び我々白人が世界を統治するのです」

敗残者たちの狂気。

彼らは知らなかった。自分たちが縋り付いた「神の火」が、すでに大日本帝國の『掌の上』で弄ばれている哀れな火種に過ぎないということを。

   ◆

帝都・東京、理化学研究所の最深部。

「チートの心臓部」とも呼べる超巨大な地下実験施設で、近衛文麿(若林幸隆)は、愛用の『ピース』をふかしながら、モニターに映し出された北米の地下施設の映像を冷笑と共に眺めていた。

「……ふん。やっぱりアメリカの地下でコソコソと『爆竹』を作っとったか。ご丁寧に、ナチスの科学者までかき集めてからに」

幸隆の隣には、彼が全幅の信頼を置く理研のトップ科学者たちが、呆れたような顔で並んでいる。

「総理。監視衛星『神の目』のデータ解析によると、奴らは初期のウラン濃縮を試みているようです。……史実通りなら、数年後には『原子爆弾』を完成させる計算になりますね」

「ほう。で、ワシらの防衛システムは?」

幸隆が尋ねると、技術者の一人が、鼻で笑いながら分厚いファイルを開いた。

「ご安心を。総理から無尽蔵のチート資金を頂いている我々理研が、あんな『放射能を撒き散らすだけの時代遅れな汚い爆弾』を恐れるはずがありません」

技術者がスイッチを押すと、巨大モニターの映像が切り替わり、帝都を囲むように設置された巨大なパラボラアンテナ群と、成層圏に浮かぶ衛星の姿が映し出された。

「すでに『広域高出力レーザー迎撃網アマテラス・シールド』は稼働状態にあります。奴らがミサイルだろうと爆撃機だろうと、帝都の上空に近づいた瞬間に、光の速度で撃ち落として蒸発させますよ。……そもそも、奴らの原爆開発そのものを、今すぐピンポイントで破壊することも可能ですが」

「いや、まだええ」

幸隆は、三白眼をドス黒く光らせ、喉の奥でクックックッと悪党の笑い声を上げた。

「人間ちゅうのはな、希望を完全に絶たれた時より、『あと少しで逆転できる!』と思い上がっとる絶頂の瞬間に叩き落とされるのが、一番絶望するんじゃ」

幸隆は、モニターに映る白人至上主義者たちの狂喜する顔に向かって、紫煙を吹きかけた。

「せいぜい地下のネズミどもには、夢を見させておいてやれ。……奴らが全財産と人生を賭けて完成させた『究極の爆弾』を、ワシらが指先一つでゴミ屑に変えてやる日が、今から楽しみで仕方ないわい」

輝夜の慈悲(王道)が世界を包み込む裏で。

大日本帝國の修羅(覇道)は、残党どもがすがる最後の希望すらも「極上のざまぁ」のスパイスとして利用すべく、残酷な罠の口を大きく開けて待ち構えていた。

次なる標的は、禁忌の兵器に魅入られた亡霊たち。

『絶対覇権』を握った大日本帝國の、本当の恐ろしさが、いよいよ世界を覆い尽くそうとしていた――。

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