EP 10
太陽と月が統べる世界――絶対覇権の宣言
昭和16年(1941年)冬。
世界の軍事史は、満州国境で起きた「たった数分間の出来事」によって、完全にその常識を書き換えられた。
ユーラシア大陸の奥深く、モスクワ・クレムリン宮殿。
常に余裕の冷笑を浮かべていた独裁者ヨシフ・スターリンの執務室は、重苦しい、いや、死者のような沈黙に包まれていた。
「……もう一度、言ってみろ」
スターリンの声は、低く、微かに震えていた。
その手から滑り落ちた愛用のパイプが、大理石の床で虚しい音を立てて転がっている。
「は、はい……ッ。第一陣として満州国境へ突撃した三個戦車師団、および歩兵三十万が……国境を越えた直後、空から降り注いだ『未知の爆撃』により、わずか五分で全滅……。生存者は、後方にいた数千名のみ……ッ」
報告する将軍の顔は、恐怖で完全に引き攣っていた。
「日本軍は、一人の兵士も前線に出していません! ただ後方から、巨大な火の雨を降らせただけで……我々の誇るT-34の装甲を、紙クズのように貫き、三千両以上の戦車を一瞬でスクラップに変えたのです!」
「ば、馬鹿な……。たった数分で三十万の軍勢が蒸発しただと……?」
スターリンは、力なく椅子にへたり込んだ。
彼の絶対的な自信の源は、「人民の命をいくら消費しても構わない」という冷酷な数の暴力だった。西欧諸国は、その命を粗末にする戦い方に恐怖し、いずれ屈するはずだった。
しかし、大日本帝國が突きつけてきたのは、それを遥かに凌駕する『効率の暴力』であった。
一千万人の兵士を送れば、一千万発の死の雨が降る。
純粋な物理の暴力で押し潰そうとした結果、五十年の技術格差という『絶対的な絶望』によって、逆に自分たちの手足が完全に吹き飛ばされたのだ。
「……極東の猿どもは、悪魔と契約でもしたというのか……ッ」
鋼鉄の男と恐れられた独裁者の背筋に、生まれて初めて「底知れぬ死の恐怖」が這い上がった瞬間であった。
◆
数日後。
世界中のラジオと新聞を、大日本帝國から発信された「ある声明」がジャックした。
それは、満州国境で生き残った数千のソ連赤軍兵士たちが、温かいスープを与えられ、毛布に包まれながら、大日本帝國の治療のテントで涙を流している映像(写真)と共に全世界へ届けられた。
帝都・東京、首相官邸のバルコニー。
世界各国の記者たちが無数のフラッシュを焚く中、真っ白なドレスコートに身を包んだ特命全権大使・日野輝夜と、漆黒のスーツを纏った総理大臣・近衛文麿(若林幸隆)が、並び立ってマイクの前に姿を現した。
「――世界中の皆様。大日本帝國総理代行、日野輝夜です」
輝夜の、鈴の音のように澄み切った、しかし絶対的な王の威厳を持った声が響き渡る。
「先日、ソビエト連邦の軍勢が我が国境を侵犯しました。しかし、私たちは彼らの命を不必要に奪うことは望みません。生き残った兵士たちは皆、独裁者の野心によって無理やり戦場へ駆り出された被害者だからです」
その慈愛に満ちた言葉に、ラジオを聴いていた世界中の民衆が息を呑んだ。
自国を侵略しに来た敵兵すらも救い、手当てをする。これこそが、彼女の掲げる『王道』であった。
「……ですが、同時に宣言いたします」
輝夜の声のトーンが、スッと一段階下がった。
彼女の隣で、愛用の『ピース』を燻らせる幸隆が、ドス黒い三白眼で世界の記者たちを睥睨している。
「大日本帝國は、平和を愛し、弱き者を救う『盾』であり続けます。……しかし、その優しさを『弱さ』と勘違いし、我々の黄金の大地に土足で踏み込もうとする野蛮な侵略者に対しては」
輝夜の背後で、幸隆が喉の奥で「クックックッ」と悪魔のように笑った。
「いかなる容赦もせず、彼らが二度と立ち上がれないほどの『絶望的な力』をもって、徹底的に焼き尽くします」
静寂。
世界中の記者たちが、その美しくも恐ろしい二人の並び立つ姿に、言葉を失っていた。
「平和と対話を望む者は、私がこの手で包み込みましょう。……しかし、牙を剥く者は、彼の放つ太陽の業火に焼かれることになります。……どうか、賢明な選択を」
太陽(幸隆)による、絶対に逆らえない最凶の恐怖(武力と経済の制圧)。
月(輝夜)による、どこまでも深く温かい絶対の慈悲(救済と外交)。
アメとムチなどという生易しいものではない。
世界の歴史上、誰も成し得なかった『究極の恐怖』と『究極の救済』を同時に体現する、最強の双頭の龍。
ナチス・ドイツの狂気も、ソビエト連邦の暴力も、この圧倒的な二人の前には、もはや無力な子供の癇癪に過ぎなかった。
「……終わったのう、輝夜」
「ええ。始まりましたよ、幸隆さん」
バルコニーから帝都の青空を見上げながら、最強のバディは静かに微笑み合った。
大日本帝國が、名実ともに世界の絶対的な頂点に君臨した日。
後に『パクス・ジャポニカ(日本の平和)』と呼ばれる黄金の時代は、この日野輝夜と近衛文麿という二人の規格外のチートプレイヤーによって、永遠のものとして歴史に刻まれることとなる。
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