EP 4
太陽の執念と大和の咆哮――不殺の超兵器
昭和16年(1941年)冬。
帝都・東京、首相官邸の地下医療室。
「……バイタル低下! 総理、心拍が弱くなっています!」
軍医たちが血相を変えて蘇生処置を行っていた。
過労と極限のプレッシャーにより、大量の血を吐いて倒れた近衛文麿(若林幸隆)。彼の顔は死人のように青白く、脈は今にも止まりそうだった。
(……ここで終わるのか。ワシは……)
意識の深い闇の中で、幸隆は自問した。
いや、終わらせるわけにはいかない。
はるか数千キロの彼方の海で、ワシの光(輝夜)が、そしてワシが救うと決めた数十万の民が、毛唐のクソダニどもに狙われているのだ。
「……どけッ!!」
「そ、総理!? 起き上がっては駄目です! 絶対安静――」
ガシッ! と、幸隆は自分に繋がれていた点滴の管を力任せに引き抜き、軍医の胸ぐらを掴んでベッドから身を起こした。
「ガハッ……ゲホッ、ゴホッ……!」
再び口から血がこぼれ落ちるが、その三白眼に宿る『漆黒の覇気』は、以前にも増してドス黒く燃え盛っていた。
「ワシが死ぬのは……この国が百年安泰になってからじゃ」
幸隆は、壁で青ざめている側近たちを睨みつけた。
「理研の連中を叩き起こせ。……準備させておいた『アレ』を使う。海の底に隠れてワシの月に手を出した裏のネズミどもを、太陽の熱で根こそぎ焼き尽くしてくれるわ」
◆
同時刻。インド洋。
『雪風』が身を呈して大和を守った直後。海は不気味な静寂に包まれていた。
「……ソナー、依然として敵のスクリュー音を探知できません! 完全に息を潜めています!」
大和の艦橋は、極限の緊張状態にあった。
海中に潜むナチス残党の潜水艦は、一度姿を隠せば、当時の技術で見つけ出すのは至難の業だ。彼らは、大和の回避不可能な隙を突いて、第二波、第三波の魚雷を確実に撃ち込んでくるだろう。
甲板の難民たちは恐怖に震え、子供たちは輝夜のドレスにしがみついて泣いていた。
「大丈夫。絶対に、大丈夫です」
輝夜は子供たちを抱きしめながら、東の空――遠く離れた帝都の方角を見つめた。
(……幸隆さん。あなたなら、絶対にこの暗闇を打ち払ってくれるはずです)
その時だった。
大和の通信室に、帝都の海軍省からではなく、首相官邸(理化学研究所の専用回線)から直接、暗号化された『超極秘データ』が飛び込んできた。
「か、艦長!! 帝都の近衛総理より、直接入電!! これは……ッ!?」
通信士が、出力された海図を見て絶叫した。
「……敵潜水艦、全五隻の『正確な現在位置と深度』です!! 一メートルの狂いもありません!!」
「なんだと!?」
艦長は海図を奪い取り、目を見開いた。
幸隆が理研の天才たちと密かに構築していた、未来の軍事技術の結晶――『超広域磁気探知(MAD)システムと、初期型人工衛星レーダーの複合演算』。
それは、当時の欧米列強の常識を数十年先取りした、まさに「神の目」であった。幸隆は血を吐きながら、世界中の通信ケーブルと観測データをハッキングし、大和の周囲に潜む狼たちを丸裸にしたのだ。
「総理は……死んでなどいない! 我々とともに戦ってくださっているぞ!!」
艦長の咆哮に、艦橋の男たちの血が沸騰した。
見えない敵に怯える時間は終わった。絶対的な神の目が、大和に最強の反撃の機会を与えたのだ。
「目標、第一から第五の海域! 主砲、右舷へ指向!!」
ギィィィィィィッ……!!
難民たちが見守る中、戦艦大和の象徴である巨大な四六センチ主砲が、ゆっくりと旋回し、不気味に静まり返る海面へ向けられた。
海中に潜伏していた潜水艦の艦長(ナチスの残党)は、潜望鏡でその様子を見て鼻で笑った。
(……馬鹿な猿どもめ。我々の位置も分からないくせに、闇雲に大砲を撃つつもりか? 潜水艦に砲弾など当たるものか!)
だが、大和の狙いは「潜水艦に砲弾を当てること」ではなかった。
「てぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
ズドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
人類史上最大の主砲が、凄まじい閃光とともに火を噴いた。
発射の衝撃波だけで大和の周囲の海面が陥没し、空気がガラスのようにひび割れる。
放たれた九発の巨大な砲弾は、潜水艦のいる海域の「周囲」にピンポイントで着弾した。
直後。
インド洋の海面が、物理的に「爆発」した。
「な、なんだあああああッ!?」
海中にいた潜水艦の乗組員たちは、鼓膜が破れるほどの轟音と、船体がペシャンコにされるかと思うほどの凄まじい衝撃に襲われた。
大和の主砲弾が海中で巻き起こした、超絶的な水圧と衝撃波。
それは、潜水艦の浮力コントロールシステムを完全に破壊し、船体を強制的に水面へと押し上げる「見えない巨大な手」として作用したのだ。
「だ、駄目だ! 潜航維持不能! 浮上します!!」
「馬鹿な……大砲で、海そのものを叩き割ったというのか!?」
ゴボォォォォォォッ!!
大和の周囲の海面から、まるで栓を抜かれたシャンパンのコルクのように、隠れていた五隻の潜水艦が次々と無様に飛び出してきた。
彼らがハッチを開けて這い出し、見上げた先。
そこには、太陽を背にしてそびえ立つ、巨大で絶対的な大日本帝國の『箱舟』――戦艦大和が、副砲と高角砲のすべての銃口を彼らに向けて見下ろしていた。
「……チェックメイトだ、裏のネズミども」
艦長は、拡声器を握りしめ、冷徹な声で降伏勧告を突きつけた。
一切の血を流すことなく、ただその圧倒的な「力(衝撃波)」だけで敵を屈服させる。
これこそが、大日本帝國が世界に示す『不殺の無双』であった。
大和の甲板で、輝夜は静かに目を閉じ、微笑んだ。
(……聞こえましたよ。あなたの、太陽の咆哮が)
見えざる悪意の狼たちは、一人の命を奪うことも許されず、大和の前に完全にその牙を折られたのである。
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