浦島太郎
声の後にチュカロスとアークロンの間に飛んできたのは、なんというかみすぼらしい青年だ。
『私は太郎・・・元漁師にして、今は・・・その・・・乙姫の・・・夫って言うのか・・・その』
空飛ぶびっくり人間はチュカロスとアークロンの間でもじもじし始めた。
「乙姫の夫の太郎やな!」
『そ、そうだ!』
勇ましく出てきたが、急に声を詰まらせた太郎にいら立ちをぶつける。
『彼女は私の・・・あの・・・妻って言うか・・・大切な人?・・・みたいな・・・』
「妻なんだろ!」
『そ、そうだ!』
なんなんだこいつ。
『彼女を傷つける事は何人たりとも許すわけには行かない!』
「一番傷つけたのはあなたでしょう。」
『ぐふっ!』
ココアの鋭い指摘に太郎が崩れ落ちる。
そもそもこいつが地上で浮気しなければ、こんなことにならなかったのだ。
せめてアトランティスで浮気してくれりゃあいいのに。
いや、アトランティス人と浮気は・・・カメの姿だし厳しいかも知れないが。
『太郎・・・』
『乙姫・・・あの・・・その・・・なんだ・・・えっと・・・』
思わず目をやったのはピエン砲の発射ボタン。
すでにチャージは完了している。あと撃とうという気持ちだけだ。
「待ってくださいマサル。」
「・・・わかってるよ。」
まだ我慢だ。
『僕は・・・その・・・ご、誤解なんだ!』
『誤解?なんの事ですか?妾は太郎が地上に女を作っていたとしても、気にしてません。』
「嘘つけ!」
気にしまくって地上を攻めて来たくせに。
『父上も若い時は、それはそれはお遊びになったと聞いています。それも妾が生まれてからは落ち着いたと。妾達は子もおりませんので、お遊びが収まらぬのも妻である妾の責任かと存じます。』
怖い。なんていうか・・・怖い。
『あの・・・浮気とかじゃなくて・・・あの・・・』
「太郎!人類の命運はお前にかかってるんだぞ!しっかりしろよ!」
この嫉妬の塊というか、恐怖が固まってカメの形をした化け物と戦いたくない。
後に変なトラウマを残しそうで嫌だ。
「いるんですよね、言い訳ばっかりする人って。違うならはっきり言ったら良いじゃないですか。」
お前は狭い界隈で人気のコメンテーターか。
『えっと・・・お、乙姫!』
『なんですか?』
『これを受け取ってくれないか?』
そう言って取り出したのは貝だ。
「ホタテ?」
「好物で釣る作戦ですかね?」
「ハゼじゃねんだから。」
ハゼを釣るならホタテ。
外野の声に負けず太郎がホタテをカパッと開くと、
「あ、指輪ですよ!」
拡大して、チュカロスの分析機能を使用する。
「ダイヤ?」
しかし色が変だ。ダイヤモンドと言えば透明な石のはずだが、それは青い色をしていた。
「ブルーダイヤじゃないですか!すごい高いダイヤモンドですよ!」
そうなのか。
『あ、いや、高いもので機嫌を取りたいとかではなくだな・・・その・・・現代では・・・なんだ女性に指輪を・・・だな・・・』
「結婚指輪ですか?」
「でももう結婚してるんだし違うんじゃないか?」
太郎が地上で生活していた時代には結婚指輪はなかっただろう。
それをなぜ今更買ってきたのか?
『いやだからだな・・・その・・・介護で苦労をかけて、新婚らしい事も出来なかったし・・・だな・・・その・・・ここから再出発というかだな・・・』
『太郎・・・』
『僕の稼ぎでは、こんな小さな石を買うのにも時間がかかってしまった・・・すまん。』
ダイヤは高い。それが普通より高いダイヤモンドなら、値段もかなり高いものになるのだろう。
『それで地上に行っておったのか?』
乙姫の問いにコクンと頷いた。
『・・・』
アークロンの体が縮んで、元の乙姫の姿になり、元々乗っていたカメの甲羅の上に降りる。
太郎もカメの上に着地して、乙姫と太郎がカメの甲羅の上で見つめあう。
『う・・・む・・・その・・・なんだ・・・』
「あ、結婚指輪は左の薬指にはめるんですよ。」
ココアのアドバイスでカメの上に緊張が走った。
『あの・・・よ、よろしくお願いします。』
『う、む・・・こ、こちらこそ・・・』
乙姫の指に指輪をはめる太郎。それを顔を真っ赤にしながら受け入れる乙姫。
「キース、キース。」
はやし立てるココア。
『こら!アトランティス人をからかうでない!』
それを注意する乙姫。
幸せそうな二人。
『これからは君に寂しい思いはさせない。』
『太郎・・・』
『苦労をかけた君に言うのは・・・申し訳ないと思ってしまったが、君をもっと深く愛したい。』
『妾も・・・』
完全に二人の世界を作り出す太郎と乙姫。
太郎がカメを助けたところから始まったラブロマンスは、ここに結ばれた。
そしてそれを見て、俺はスイッチを押した。
「家でやってろやああああああああ!」
チュカロスのピエン砲が海を割った。




