乙姫の秘密
『やるな人類よ。』
「それはさっき聞きました。」
「返事しなかったから聞こえてないと思ったんだろ。」
その時は見えてなかったので、カメラの調整したりをしていて返事が出来なかった。
『・・・』
見える。乙姫の後ろに荒れた竜の姿が。
『我は乙姫』
「知ってます。」
「おいやめろ。」
ココアの指摘を注意する。
「逆に名乗らなかったら、一回テレビ出ただけでみんな知ってると勘違いしたモデルみたいになるだろ。」
『・・・』
「マサル、それは失礼です。それにテレビに自分達の映像を流しただけなので、100万再生達成して有名人気取りのyoutuberの方が近い気がします。」
『黙れ!』
とうとう怒られた。
『我は乙姫アトランティスの姫にして竜宮城の城主代行である!』
そして一息で言い切った。
「めっちゃ早口で言うやん。」
「こっちの邪魔が入る前に言い切るという覚悟を感じます・・・」
『・・・』
乙姫は何も言わない。
だが背中の竜がはっきりと浮かび上がってきている。
『我らの精鋭とプロタスリティスの大軍を倒した事は褒めてやろう。』
「どうも。」
「ありがとうございます!」
『・・・』
だがやった事は謎の範囲攻撃で倒しただけなので、何かをやったなあという感覚はない。
『褒美としてこの我が直々に相手してやろう。』
「急に下ネタですか?おばさん。」
『おば・・・』
乙姫が絶句している。
「下ネタ言う女子はサバサバしてるんじゃなくて下品なだけだから、意外と男性受け悪いんですよ!だから太郎にも逃げられたんでしょ!」
「いや、相手にしてやろうって戦うって意味だろ・・・あと、失礼な事を言うんじゃない。下ネタ言っても下品にならない女の人もいるだろ・・・結局は本人の品性の問題だよ。」
それとサバサバというのがわからない。
乾いているならパサパサとかじゃないのか?
『黙れ・・・』
「すいません・・・言いすぎました。でも太郎さんを」
『逃げられてない!』
「え?」
「へ?」
急に何について熱くなってんだこの人?
『太郎は・・・妾のいたずらにより年を取った太郎は、鶴になり蓬莱山へと飛び去った・・・』
「知らん話始まったぞ。」
俺が知っている浦島太郎は、カメを助けて、竜宮城で飲みまくって、家に帰ったらめっちゃ時間経ってて、みんな死んでたから玉手箱開けたらジイさんになったという話だ。
鶴も蓬莱山も出てこない。
『そして蓬莱山で修業をして仙人となった太郎は、父である竜王と戦い、その力を認められて妾を迎えに来てくれた。』
「浦島から鶴太郎に・・・」
「鶴太郎から更に超進化して仙人太郎になったんだろ。」
そして究極進化して乙姫夫太郎になったと。
『そして二人の生活が始まる・・・そのはずだった。』
だがそうはならなかった。何があったのだろうか?
『太郎には心残りがあった。義母上の事、最後を見取れなかった、たった一人の家族の事。』
「太郎って一人っ子だっけ?」
「どうでしょう?我慢強い性格みたいですし、長男だとは思いますけど・・・」
太郎という名前からも長男だと思われる。
『顔を曇らせる太郎、そこに青狸と、それを使役する金色の衣をまとった少年が現れた。』
「青狸と金色、黄色の衣をまとった少年・・・それって」
ココアが何かを言おうとしている。
「まあ待て、そんなわけがない。」
なんか知っている気がするが気のせいだろう。
のびのび最後まで話を聞いて判断しても遅くないはずだ。
『青狸は腹の巾着から、様々な宝貝を取り出す妖術使いであった。』
「パオペイってなんだ?」
「宝貝は仙人が使う門外不出の道具・・・つまり秘密道具です。」
「秘密道具を扱う青狸・・・」
関係ないけどどら焼きっておいしいよね。
「腹の巾着ってポケットですよね。」
「・・・」
ポケットから秘密道具を出す青狸・・・いや、まだ違う可能性はある。偶然の一致という事もあり得るはずだ。
『そしてその一つ、時を渡る舟で過去へと渡り、義母上を連れて来た。』
「タイムマシンですね。」
「あいつら何やってんだよ・・・」
もうほとんど確定だろう。彼らはきっと未来から来た未来ロボットと未来人だ。
少年の方はひょっとしたら、今よりも過去の時代の人間かも知れないが。
今の時代に彼が受けたような廊下に立たせる罰則は、SNS案件になる事だろう。
『それは良い。義母上は良い方だったし、何より妾の中にも、妾が原因で最期を看取らせてやれなかったという思いがあったからだ。』
自業自得な気がするが、本人の中では色々と葛藤があったのかも知れない。
「だが、やれ味が薄いだの、水が飲みたいだの・・・」
「長くなりそうなので、チュカロスの機能について説明しますね。」
「話聞いてやれよ。」
「良いんですよ。こういう人はただ話して同情して欲しいだけなんですから。」
そういうものなのだろうか?だから母さんも、今日は暑かっただの、洗剤が高いだの、だからどうしてんとしか言いようのない事を言うのだろうか?
『夜中に呼ばれたと思ったら、トイレに行きたいだの』
「チュカロスには一つだけ武装があります。」
「そうだったのか・・・」
「その名もピエン砲。」
「なんだその名前!」
悲しみに暮れた少し前の女子高生みたいな名前は。
「ディリピエンダからとられています。」
チュカロスの元になったのは、チュカロサウルス・ディリピエンダ。そのうちのディリピエンダからとったらしい。
もっと抜き取るべき場所はあるだろう。
『醤油は地元のが良いと言われても、知った事ではない。お主がいた時代より300年も経過しているのだぞ、多少味も変わるわ。』
「チャージが必要なので、今からチャージしておいた方が良いと思います。」
「そっか・・・じゃあチャージだけしとくか。」
いつ終わるかもわからないので、ピエン砲のチャージを開始する。
終わったら撃てば良いだろう。
『義母上が亡くなって悲しい気持ちはあった。だが同時に少し、ほんの少しだけホッとした気持ちもあったのだ。』
まあ・・・親を亡くした夫側はならともかく、大変な苦労をした妻側にとっては大変さから解放されるという意味では仕方ないのでは?
『だが!太郎は!その・・・なんだ!』
「いや知らんがな。」
「いえ、私にはわかります。」
「どういう事だ?」
なんでこれだけで何かが分かるんだ?
「おそらく太郎さんは・・・スキンシップをとらなかったんです。」
『そうだ!』
どうやら当たりらしい。
だがスキンシップをとらなかったとはどういう事だろう?
会話が減ったみたいな?
「はあ・・・マサルは本当に女心というのが分かってませんね。」
『太郎もだ!』
なんだこいつら。
「良いですか。新婚の女性が新婚らしい事もせずに介護に入ったんです。そこから時間が経ったとはいえ、まだ若い二人なんですよ。」
「若いのか?」
太郎の母さんが竜宮城に来たのは300年経過後だと言っていた。
なら、少なくとも乙姫の年齢はオーバー300。少なくとも人間基準では高齢だし、幽霊でもベテランか中堅の域だろう。
『仙人基準ではまだ若い!』
「なんだよその基準・・・」
太郎も仙人になったと言ってたし、そんなものなのだろうか?
オカルトの類はよく分からない。
「介護が終わって時間が出来たら、少しぐらいはこれまで出来なかった新婚っぽい事をしたいじゃないですか。」
『その通り!』
合ってるらしい。
「じゃあ太郎に言えよ。」
『言えるか!』
「マサル、あなたのデリカシーは江戸時代に置き忘れてきたんですか?」
乙姫とココアの二人に同時に怒られる。
「求める気持ちってのは怖いんです。相手にそんな気持ちがなかったら・・・そう思ったら勇気が出ない、そんな人もいるんです。だからこそ人は求められると安心するんですよ。」
それは・・・まあそうだろう。
友達が「あーあ、告白されてえなあ」と言った時に似たような話をした記憶がある。
『きっと太郎はまだ人間の世界に未練があるんだ・・・だから・・・あいつは地上で女を・・・だから私は人類を・・・』
「待て。」
『なんだ?』
聞き捨てならない言葉があった。
確かにこれまで気にはなっていたのだ。
なぜアトランティスは攻撃してきたのか?
テレビでは使者をこちらが倒したせいと言っていたが、実際には使者が来る前にプロタスリティスが来ていた。つまり、使者が来る前から攻撃は始まっていたのだ。
「アトランティスが攻めて来たのって太郎の浮気のせいなのか?」
『・・・』
乙姫は返事をしない。
「なるほど、それは仕方ないですね。」
「そんなわけあるか!痴話喧嘩で人類に迷惑かけるなよ!」
家庭内、せめて親類かご近所内で解決して欲しい。
『うるさい!それもこれも全部太郎が悪いのだ!』
「まずはちゃんと話し合えや!」
ピエン砲を発射する。
『うわああああああ!』
少し照準を反らしたので、直撃はしていないが海が割れた。
「・・・おいココア。」
「なんですか?」
「なんだこれ?」
視線の先にはモーゼでも通ったのかと思うように割れた海。
なんで海が割れているのか一切わからない。
「そりゃピエン砲は超重力フィールドを収束して、弾丸に込めて撃ちだす超重力砲ですから、海の一つや二つは割れますよ。」
「当たったらどうなるんだ?」
「そりゃ超重力でつぶされるか、ブラックホールが発生すると思います。」
「かなり危ない武器じゃねえか!」
外れた先に何もない事を祈ろう。
何かに当たっていたら、ぺしゃんこになっているかブラックホールが出来ている可能性がある。
「そりゃ武器ですから危ないですよ。何言ってるんですか?」
そう言われたらそうなのだが、それにしても程度というものがあるだろう。
今後ツッコミで気楽に使うのはやめよう。
しかしこれから何があるかわからないし、年のためチャージはもう一度しておくか。
『危ないではないか!』
「すまん!だが痴話喧嘩で攻撃して来たやつに言われたくねえ!」
『こうなったら妾も真の姿を見せるしかないようだな。』
乙姫の体が浮いた。
『妾は竜王が娘、生命の箱舟たる竜の血を継ぐ者である!』
そう言うと、乙姫の体が大きくなり、巨大なウミガメの姿になる。
『わかったぞ!』
「なんか久しぶりだなジイさん。」
ジイさんから通信が入る。
『あいつは箱舟龍・・・アークロン!』
「それって古代のカメだっけ?」
「それはアーケロンですよ。」
「こいつは?」
「箱舟と書いてアーク、そして龍は中国語でロン・・・アークロンです。」
ほとんど一緒じゃねえか。
「龍じゃなくてカメだろ!」
『カメ型の龍なのじゃろう。』
「そういわれると・・・」
反論できるだけの材料はない。
そもそも本物の龍を見た事ないし、龍の定義も知らんし。
『妾はアークロン・・・すべて、すべて破壊する!』
どうやら合っていたらしい。
「やるしかないのか?」
ピエン砲のチャージは完了している。
あとは引き金を引くだけだ。
『待ってくれ!』
緊迫の戦場に聞いた事のない声が響いた。




